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 さらに第4の縦の静脈があることがまれではない.これは前腕の伸側にあって背側前腕皮静脈V. subcutanea antebrachii dorsalisといい,手背の静脈網から出て前腕の背側面を上方にすすんで肘のところまで達し,ここで方向を変えて尺側正中皮静脈に開口する.

α. 橈側皮静脈V. cephalia(図687, 689).すでに記載したようなぐあいに,母指橈側皮静脈と手背静脈弓の橈側脚が合して生ずる1本の太い静脈で,手根関節のところをまわって前腕の屈側にきて,その外側縁に沿って上方にすすむ.その途中で掌側と背側にある多数の静脈とつながっている.肘窩のところでは上腕二頭筋の外側縁において前腕正中皮静脈がいろいろな形で橈側皮静脈と合している.ついで上腕二頭筋の外側縁に沿ってさらに上方に走り,筋膜を貫いて三角筋と大胸筋のあいだに入り,付近の細い静脈を受けとって,烏口鎖骨胸筋膜を貫き烏口突起と鎖骨のあいだで腋窩静脈に開口している(図508).

 副橈側皮静脈V. cephalica accessoriaは手背の静脈から始まり前腕の背側面を走って,橈側皮静脈に達する.

β. 尺側皮静脈V. basilica(図687).この静脈はしばしば2本の小幹として前腕の内側面を肘窩に向かってすすむ.背側の幹は初めはかなり伸側によっているが肘窩のところで掌側にきて,そこで掌側の幹につながる.その合するところで肘正中皮静脈V. mediana cubitiがこれにはいる.こうして出来上がった太い静脈はたいてい上肢の皮下の静脈のなかでもっとも太いもので,尺側皮静脈V. basilicaとして尺側上腕二頭筋溝に沿って上方にすすむ.ここでは上腕動脈の走行に伴なっている.上腕の中央あたりの高さで上腕筋膜の尺側皮静脈裂孔Hiatus basilicusを通って深層にはいり,遅かれ早かれ2本の上腕静脈のうち内側のものに開口する.

 尺側皮静脈は筋膜下を深層の血管に伴って腋窩まで達し,そこで腋窩静脈の基礎を作ることがある.そのときはこれに上腕静脈が流入している.ほかの例では筋膜の尺側皮静脈裂孔のあたりで上腕静脈の,たいていは内側のものにはいっている.あるいは上腕静脈の1本とただ1つの吻合をもっている.または2本の上腕静脈と多数の横走枝でつながって動脈の周囲に網を作り,この網からずっと上方で初めて腋窩静脈が出ている.しかしたとえ腋窩静脈がどのような形ででき上つているとしても,常に腋窩動脈と伴行する細い何本かの静脈があって,これらは第1肋骨の上を越えるところまで走り,ずっとあとで鎖骨下静脈にはいっている(Kadyi).

γ. 前腕正中皮静脈V. mediana antebrachii(図687)

 これは前腕の下端で1つの静脈網から出て,前腕正中皮静脈とよばれて橈側皮静脈と尺側皮静脈のあいだを肘窩に向かってすすむ.そこで2本に分れて尺側正中皮静脈V. mediana basilicaと橈側正中皮静脈V. mediana cephalicaとなり,たがいに離れて餅めの方向にすすみ,一方は橈側皮静脈に,他方は尺側皮静脈に合する.あるいはまた肘窩の浅層を斜めに走る静脈,すなわち肘正中皮静脈V. mediana cubitiに開いているが,後者は橈側皮静脈から出て内側上方に尺側皮静脈に向かっているものである.また前腕深層の静脈とのつながりとして深正中静脈V. mediana profundaがある.

 変異:まれに橈側皮静脈がそれぞれ1本の浅層と深層の枝に分れている.浅枝はついで鎖骨の上をへて鎖骨下静脈に入り,深枝は鎖骨の下で腋窩静脈に開口する.

8. 縦胸静脈Vv. thoracicae longitudinales(図690)

 右縦胸静脈V. thoracica longitudinalis dextra(奇静脈Vena azygos(Azygos vein))は脊柱の右側前面にあって,上下の大静脈をつないでいる幹であり,これと同じような初期発生を示すがただそれほど完全な形にでき上らないことが普通であるところの左縦胸静脈V. thoracica longitudinalis sinistra(半奇静脈V. hemiazygos(Hemi-azygos vein; Inferior hemi-azygos vein))という左側の幹とともに,上下の大静脈の右心房への開口個所のあいだに残された隙間を満しているようなものである.左右の幹は著しいひろがりを示して胴の分節静脈を受けとり,また後者をいろいろな違ったぐあいに主幹とつなぎ合せている.

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最終更新日13/02/03

 

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