Band1.660   

d)下横隔静脈 V. phrenica abdominalis.これは同名動脈に伴なっていて,直接あるいは間接つまり近くの静脈と合した上で下大静脈に開口している.

臓側枝

a)精巣静脈V. spermatica(=testicularis).精巣静脈は男において精巣から出て,精索の一部を成して,これと共に鼡径管を通って腹腔にはいる.精巣からは多数の細い精巣静脈Vv. testicularesが精巣の上端部でその間膜縁で白膜から出てきて,精巣上体からの細い静脈といっしょになり,何本かの細い小幹として上行する.この小幹の群は蔓状静脈叢Plexus pampiniformisという密な静脈叢を作っている.これらの静脈は次第に集まって1本または2本の幹となり,腹腔にはいってからは腹膜に被われて大腰筋の上を上方にすすむ(図600).右精巣静脈は上大静脈に開口し,左精巣静脈は腎静脈に開口するのが普通である.各側のものが上方においてもなお2本の幹に分れているさいは,右精巣静脈のうちの1本はたいてい腎静脈に開き,左側のものは2本とも腎静脈にはいっているものである.

 女ではこれに当るものが卵巣静脈V. ovaricaで,卵巣から来ている.これは卵巣門のところにある密な静脈叢からでてくる.この静脈叢はついで子宮広ヒダのなかにあるいっそう大きい静脈叢(蔓状静脈叢Plexus pampiniformis)に移行し,そこから卵巣静脈が発して卵巣動脈に沿って上方にすすむ.卵巣静脈は男の精巣静脈と同じようなぐあいに腎静脈や下大静脈に合している.精巣静脈も卵巣静脈も弁をもっている(特に開口部にはそれがある).

b)腎静脈V. renalis.腎静脈は腎門のところで数多くの根が合してできて,1本の太くて短い幹となり,動脈の前を下大静脈に向かって横に走り,これに直角をなして合する(図600).

 左の腎静脈の方がいっそう長くて,大動脈の前を越えて走っている.左右の腎静脈はその途中で腎上体静脈を受けとる.左腎静脈には多くのばあい精巣静脈(卵巣静・脈)も開口している.

c)腎上体静脈Vv. suprarenales.腎上体の静脈は若干の細い根をもって腎上体門から出ている. この静脈は左右各側ともたいていはただ1本の短いがかなり太い幹をなし,左のものは腎静脈に注ぎ,まれには横隔膜静脈の1つに入る.右のものはたいてい下大静脈に入るが,しばしばまた腎静脈に注いでいる.

d)肝静脈 Vv. hepaticae.肝静脈は下大静脈が肝臓の右の縦裂にうずまっているところでこれに斜めにはいっている.これはたいてい3本あって,完全に肝臓の実質に囲まれ,指の太さ位までの太い幹であり,肝臓の付着部のところにこの3本が集まってでてくる(図600).

 この太い静脈のほかに,もっと細い肝静脈があって,やはり大静脈にはいっている.肝静脈は門脈Pfortaderと肝動脈によって肝臓に導かれた血液を受けとるものである.左側の太い肝静脈は大静脈に開口するすぐ前に静脈管索とつながっている.これは(Böttcher, Z. AIlat. Entw., 68. Bd.,1923によると)年を経るとともに次第に退化してゆく.

 変異:下大静脈がその下部では大動脈の左側にあって,左腎静脈を受けとってから大動脈の上を越えて,初めてその本来の位置となることがときおりみられる.胸部と腹部の内臓が逆位になっている場合だけは下大静脈が心臓に達するまでずっと左側を通っている.

 それよりもいっそう多いのは左右の総腸骨静脈が正常の高さでたがいに合しないで,おのおの分れたま,で大動脈の両側を上方に走り,それぞれのがわの腎静脈とつながっていることである.こうしてできた左側の幹が大動脈の前を越えて右側の幹といっしょになり,初めて腹腔の上部で下大静脈ができている.

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最終更新日13/02/03

 

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