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b)上腸間膜静脈V. mesenterica cranialis(図694, 695).この静脈幹は上腸間膜動脈の右側にある.その根の分布と走行は動脈の枝と同じ関係を保っている.すなわちこの静脈は小腸や上行横行結腸を源とする小腸静脈Vv. intestinales(回腸と空腸からくる),回結腸静脈V. iliocolica,右結腸静脈Vv. colicae dextrae,中結腸静脈V. colica mediaからなりたっている.こうしてできた幹が右上方にすすみ,十二指腸の下部の前面をこえて膵臓の後面にいたり,膵十二指腸静脈Vv. pancreaticoduodenales,および少数の膵静脈Vv. pancreaticaeと十二指腸静脈Vv. duodenalesとを受けとり,ときとしてはなお下腸間膜静脈も受けている.その上で脾静脈と合する.それより前に右胃大網静脈V. gastroepiploica dextraがこれと合していることも非常に多い.ほかの場合には右胃大網静脈が脾静脈に入るか,あるいは右結腸静脈の1本と合して胃結腸静脈V. gastrocolicaをなしている.

c)下腸間膜静脈V. mesenterica caudalis(図694, 695).これは同名の動脈と全く一致した関係を示している」下方ではこの静脈に属する上直腸静脈V. rectalis cranialisによって広汎な直腸静脈叢とつづいている.骨盤のところから軽く左に凸の弓を画いて上方にすすみ,S状結腸静脈Vv. sigmoideaeと若干本の左結腸静脈Vv. colicae sinistraeを受けとり,個体的にいろいろちがう場所で膵臓のうしろにはいる.たいていこの静脈は脾静脈と合する.またときには下腸間膜静脈が門脈の初まりのところで門脈にはいっている.あるいは上腸間膜静脈に開いていることもある.

d)脾静脈V. lienalis(図694).脾静脈はたいてい非常に太く,脾臓の血液, 胃の大きい部分や膵臓からの血液の一部,十二指腸からの血液を門脈に導いており,また下腸間膜静脈と合することによって下行結腸と直腸の血液をも門脈に導いている.

 脾静脈は脾門から別々に出てくる少数の根をもって始まり,これらの根がすぐ1本の幹に集まる.ついでこの幹は数本の短胃静脈Vv. gastricae brevesを受けとり,また左胃大網静脈V. gastroepiploica sinistra,若干の膵静脈Vv. pancreaticaeおよび十二指腸静脈Vv. duodenalesを合せて,膵臓のうしろで脾動脈の下方を左から右にすすみ,その間に遅かれ早かれ下腸間膜静脈を受けとり,ついで膵頭のうしろにおいてほとんど直角をなして上腸間膜静脈と合する.

 胎生期において臍静脈V. umbilicalisが門脈および下大静脈と重要な関係を示すことについてはもっと後で述べるが,ここでは騰静脈の内腔が開いたまま残っている重要な場合について述べる.

 臍静脈V. umbilicalisは胎生期に酸素と新しい栄養素とを含んだ血液を胎盤から外に導いているが,胎児だけに必要で,出産後は余分なものとなってしまうほかのすべての血管と同じ運命におかれるのである.その変化はちょうど結紮して遮断された血管がたどるものと同じである.それゆえ閉鎖(閉塞 Obliteration)は末端部,すなわち隣に残っている静脈の部分にだけ常に完全におこり,それに対してもっと中心にある部分は大なり小なり細い管が遺存しているのが普通である.この管は個体の生存中,しかも正常のばあいは求心性の方向に血液を通している(P. Baumgarten).残存する管のなかの血流のおこりをなすのは,隣のところで始まる幾本かの細い静脈枝であって,これはたいてい臍静脈の中1/3のところで,これに注ぐがそのほかいろいろな高さにおいても臍静脈の残りの管にはいっている.この吻合に関しては臍静脈が全面的に腹壁の静脈に基づくということ(結論の項を参照)を知っておく必要がある.この脾傍静脈枝adumbilikale Venenästeのうちもっとも太くて必ず存在するものは胎児のバロー静脈Burwosche Veneという名でよばれている.全例の約1/41/3においてバロー静脈が直接に臍静脈へ開かずに,肝臓の門脈系に注いでいる.これをサペイ副臍静脈Sappeysehe Paraumbilikalveneと名づける.しかしこの場合も臍静脈に枝がないわけではなく,バウムガルテンの介在静脈Schaltvenen von Baumgartenとよばれる細い臍傍静脈の何れか1つが臍静脈に開口する.不完全に閉塞した臍静脈に残存している管の広さと長さは,これにはいる枝の太さと数とその開口部位によって定まるので,ある場合には後になっても大小いろいろのゾンデを6~10 cmも通しうることもあり,ただ髪の毛を通しうるほどのごく細い管であることもある.例外として臍静脈に1本も枝が開いていないときはこれが完全に癒着してしまっている.

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最終更新日13/02/03

 

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