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 肝臓の循環障害,たとえば肝臓の線維増殖(肝硬変)といったような場合におこる循環障害のさいには,上述の残存する管が広くなる.その広がる程度は肝臓の変性のつよさにも関係するが,特にまた残存する管が初めからどれくらい広いかにも関係している.それゆえ病変が同じ程度であっても,ある場合には非常に細いこともあり,またガチョウの羽茎,ないし人の指の太さほどの血管が臍静脈索の中心にみとめられることがある.このように残存する管が広がっているさいにはその管の側枝,すなわちバロー静脈,介在静脈,およびこれらの側枝とつづく臍静脈索と肝鎌状間膜内のすべての静脈網も広がり,さらに前腹壁の静脈も広くなって,ときとして“メジュサ頭Caput Medusae”と呼ばれる静脈群をなすのである.残存する管が狭いさいには,サペエイの副脇静脈が主な側副路をなしていて,うつ血のある門脈の血液を腹壁の静脈を通じて導きだそうとする.His, Arch. Anat,1895, Suppl.-Bd., S.150参照.

 門脈の外根と上大静脈および下大静脈のつながり上大静脈とのつながりは胃冠状静脈によって食道静脈との間のものと,縦胸静脈にいたるものとがあり,下大静脈とは下腸間膜静脈の上直腸静脈によって直腸静脈叢との間にある(図696).また臍静脈の残存する管ないし,サペエイ副臍静脈および臍傍静脈によって上下の腹壁静脈につづき,なお浅腹壁静脈と胸腹壁静脈もその連絡にあずかる.

2. 総腸骨静脈Vena ilica communis

 この静脈はだいたいに同名の動脈が分布するのと同じ領域から血液を集めている.

仙腸関節のところから第4と第5腰椎の椎間円板のところまでのびており,そこの右側面で左右の総腸骨静脈が合して下大静脈となる(図600, 690).右側のものはやや短くて,またいっそうまっすぐに走り,傾斜も急であって動脈の右後がわに位置している.左の総腸骨静脈はそれより長くて,またいっそう強くかたむいていて同名動脈の内側に接しており,中仙骨静脈V. sacralis mediaを受けとり,右総腸骨動脈の初まりの部のうしろで右総腸骨静脈と合する(図600).

[図696] 下大静脈系と門脈とのつながり(模型図)

3. 内腸骨静脈Vena ilica interna

 この静脈の諸根はだいたいにおいて内腸骨動脈の枝と一致した分布をもって始まっている.もっとも胎児の生活に最も大切な臍静脈は,臍で体内に達するときに2本の臍動脈と分れて,肝鎌状間膜のなかを上方にすすみ肝臓にいたる.

 内腸骨静脈は仙腸関節の前で,同名動脈の後にあり,短い経過の後に外腸骨静脈と合して総腸骨静脈となる.内腸骨静脈の幹は1つも弁をもっていない.

壁側枝

a)腸腰静脈 Vv. iliolumbaIes.腰部と腸骨窩から来る.

b)上臀静脈 Vv. glutaeae craniales. 臀部の上部から来る.

c)下臀静脈 Vv. glutaeae caudales.大腿の静脈と多数のつながりをもっており,臀部の下部から来る.

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最終更新日13/02/03

 

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