Band1.666   

4. 外腸骨静脈Vena ilica externa

 外腸骨静脈は下肢からやって来る静脈幹の終りの部分で,鼡径靱帯のところから仙腸関節のところまでの部分である.この静脈は左右とも同名動脈の内側にあるが,右側のものは次第に動脈の後がわになる.

 この静脈にはその最初のところ以外では弁がない.下肢の浅層および深層の静脈から始まっていて,鼡径靱帯の下をとおるところでもなお細い静脈を受けとっている.外腸骨静脈の幹には前腹壁の内側部と側腹壁にある2対の静脈が注いでいる.そのほか閉鎖静脈との間に太いつながりのあることが普通である.

a)下腹壁静脈Vv. epigastricae caudales.これは同名動脈に伴なって,その両側にあるが,たいていは1本の幹に合して外腸骨静脈の初まりのところに合する.

b)深腸骨回旋静脈Vv. circumflexae ilium profundae.これは同名動脈に伴なって外腸骨静脈の外側壁にいたる.

下肢の深部の静脈

 下肢の深部にある静脈は動脈とその枝のそばを走り,動脈と同じような分枝を示している.膝より下方では静脈は動脈のそばに2本ずつ存在し,動脈と同じ名前で呼ばれている.前脛骨静脈後脛骨静脈Vv. tibiates anteriores et posterioresのうち後者は腓骨静脈Vv. fibularesを受け入れており,膝窩筋の下縁で前後の脛骨静脈が合して膝窩静脈V. popliteaとなる.

 膝窩静脈は関節,筋などから来る細い静脈のほかに小伏在静脈V. saphena parvaというかなり太い皮下の静脈を受けとる.膝窩静脈は同名動脈の後外側にあり,かつ動脈と脛骨神経の間にある.ついで内転筋管裂孔にはいるが,そこから上方では大腿静脈とよぼれる.

 ときどき下肢の静脈の合一がもっと上方で行われていることがあり,この場合には膝窩動脈がその一部で,あるいはその全長にわたって2本の膝窩静脈Vv. popliteaeを伴なっている.しかし普通は1本の太い幹があっても,なおそのほかに1本の細い静脈が動脈に接して走っている.

 大腿静脈V. femoralisはふつう1本であって,同名動脈と同じように大腿の上2/3にわたってのびており,鼡径靱帯のところで外腸骨静脈に移行する.

 初めは大腿動脈の外側壁に接しており,次第にその内側にうつるドそこでは動脈と同一の前額面上にあって,動脈とともに1枚の共通の鞘で包まれており,鼡径靱帯の縁の所で動脈の内側にみられる.この静脈と筋膜葉との位置関係からして(図492)下肢の運動が静脈を空虚にするのに都合よいように働くことになる.

 途中で大腿静脈は大腿動脈の分枝に相当する根を受け入れるが,ことに太い穿通静脈Vv. perforantesと大腿深静脈Vv, profundae femoris,そのほか脛側腓側大腿回旋静脈Vv. circumflexae femoris tibiales, fibularesを受けとる.主として後者に大腿部の諸筋の静脈がはいる.大腿静脈の上端部では太い大伏在静脈V. saphena magnaが合する(図697).

 変異:ときとして大腿静脈が大腿を縦走するにあたって同名の動脈とや,異なる道をとることがある.すなわちときおり膝窩のところから正常よりも上方ではいり,大内転筋を:普通よりもいっそう上方で貫いて大腿深静脈と合し,上方の部分でふたたびやっと大腿動脈の近くになる.まれに大腿静脈が全長にわたって,またはその一部だけが重複している.

 大腿静脈はその上端でなお皮下陰茎背静脈Vv. dorsales penis subcutaneae,外陰部静脈Vv. pudendales externae,およびその枝である陰嚢枝Rr. scrotales(陰唇枝Rr. labiales),鼡径枝Rr. inguinales,さらに浅腹壁静脈V. epigastfica superficialis,浅腸骨回旋静脈V. circumflexa ilium superficialisを受けとっている.これらの静脈の一部は伏在静脈に開口していることがある(図697).

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最終更新日10/08/28

 

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