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 静脈への開口部はたいてい1つの弁によってさえぎられているが,いっそうまれに(20%において)1対の弁がそこにあり,そのために血液がリンパ本幹に向かってはいることなく,リンパと乳ビが静脈にたやすく流入するようになっているという.しかし不完全にしかふさがっていないことがしばしばある.

 微細構造は672頁で全般的に述べた関係と同じである.管壁の3層はたがいにはっきりとは区別できない(図715).中膜には膠原組織と少量の弾性線維が横,斜め,縦の方向に走る筋束のあいだにある.Kajava(Acta soc. med. fennicae “duodecim”, 3. Bd.,1921)によると内弾性板があるが上部にすすむにつれて次第に弱くなり遂には消失してしまう.--神経はBraeuckerによると体の分節に従って来ている.神経は胸管を取りまいて微細な神経叢を作り,これがいたるところで縦隔枝や大動脈神経叢と結合し,また迷走神経の食道神経叢の若:Fの枝を受けとっている.胸膜頂にのっている胸管の部分は鎖骨下ワナの後脚か,下方の心臓神経から出て来た神経に伴なわれている.

 局所解剖:乳ビ槽はPensa(Ricerche Lab. anat. Roma etc. Vol.14,1908)によると第1腰椎の高さにあり,第12胸椎を上方に越えるところまで伸びている.そのさい大動脈よりやや右方にあり,また横隔膜の右脚のそばでその内側にある.

 胸管は初め大動脈の右後がわにあるが,ついで大動脈とともに横隔膜の大動脈裂孔を通って胸腔にはいる.胸腔では胸椎体の右側の前で大動脈と右縦胸静脈のあいだにあり,なお肋間動静脈の前にある.それより上方では次第に左に達し,第3胸椎の高さで大動脈弓から離れ,食道の左側で食道と胸膜との間にある.こうして椎前筋膜の前を第7頚椎の上縁に向かって上り,左の胸膜頂の尖端を弓を画いて越え,左総頚動脈と左鎖骨下動脈のあいだをへて内頚静脈の外側にいたり,この静脈と鎖骨下静脈とが合するところに作られている角に開口する.開口する前に胸管の端はたいてい左頚リンパ本幹, 左鎖骨下リンパ本幹および左の乳リンパ幹といっしょになる.胸管は通常うねって走り,多くのくびれを持つているので,静脈瘤状の観を呈する(図690, 701).

 変異:胸管は全長にわたって,常にただ1本の幹をなすのではない.日本人では1本の幹の場合が89.5%である(Adachi).しばしば第7あるいは第8胸椎の高さで2本の幹に分れ,後にふたたび合するか,あるいは分れたままで頚部の静脈幹にはいる.ときとして3本ないしそれ以上にも分れていることがあり,すぐにまたたがいにいっしょになり,そのため脈管叢といったような配置をしている.少数例で胸管がその全長にわたって重複し,その場合には右半のものは右リンパ本幹と合している.頚部ではしばしば幹が2本以上に分れていて,開口する前にいっしょになるか,あるいは分れたま,太い静脈幹にはいっている.

 非常に詳細な報告がB. Adachiの著書に載っている(Lief.1 von T. Kihara. Das Lymphgefäßsystemder Japaner, Kyoto,1953).

[図714] 1分節におけるリンパ管,その放射状に分枝した型を示す模型図.  1 胸管;2 小腸枝;3 前枝;4 後枝;5 脊髄枝;6 壁側枝.

2. 右リンパ本幹Truncus lymphaceus dexter, Rechter Lymphstamm(図701)

 右リンパ本幹は短くてたかだか1cmの長さであり,数mmの太さのリンパ管で,右上肢,右側の頭部と頚部と胸壁および心臓の右側,右肺,肝臓の上面の一部かちリンパ管を受けている.

 これは左側における胸管と同じく,右側で内頚静脈が鎖骨下静脈と合するところにはいる.開口部は弁で守られている.

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最終更新日10/08/28

 

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