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リンパ本幹の概観

 これまでに述べた主なリンパ路の特徴をよく理解するために次のように簡易化してみるのがよいと思う.

 体のリンパ管には2本の主な幹があって,それが一部非対称的な配置をしている.これは体の右と左の各半に属していて,総頚静脈V. jugularis communisと鎖骨下静脈の合流点で対称的に腕頭静脈に向かって静脈系に開口する.対をなすこの重要なところ,すなわちリンパが静脈系にはいる個所では左右おのおの4本ずつのリンパ管の幹が合して,それぞれ1本の右リンパ本幹左リンパ本幹Trpncus lymphaceus dexter, sinisterを作っている.つまり

1. 頭部と頚部のリンパを集めている総頚静脈に相当する頚リンパ本幹Truncus jugularis.

2. 上肢から来る鎖骨下静脈に相当する鎖骨下リンパ本幹Truncus subclavius.

3. 縦隔の後部を上行して,胸壁後部および胸部内臓のそれぞれ半分からのリンパを集め,最上肋間静脈と右縦胸静脈に相当する気管縦隔リンパ本幹Truncus bronchomediastinalis.

4. 胸部の前壁内面を上行する乳リンパ本幹Truncus mammarius.

 下半身のリンパを集める太い共通の幹が左気管支縦隔リンパ本幹の縦隔枝と合する.この下半身からの幹は体幹の後壁,下肢,腹腔および骨盤の内臓のリンパ管が合してできるのである.この大きな幹が合流することによって左気管支縦隔リンパ本幹は右に比べてはるかに太いものとなる.下の半分と上の半分が合してできるリンパ管系の左側の太い主幹胸管Ductus thoracicusなのである.

 すなわち対称的な原基から非対称的な終形ができあがるのである.必らずしも常にこのような2次的の非対称性が生ずるわけではなく,前に述べたごとく初めの対称的な配置が残っていることがあり,このことは多くの動物では正常の関係である.そして非対称的な終形のなかにも,対称的な初期の形がなお容易に認められるのである.

 このさい,リンパ管の分節ということを調べてみると,それは図714に示すように,1本の主幹があって壁側枝と臓側枝とを出し,前者には脊髄枝がつながっている.

II.体の個々の領域におけるリンパ管とリンパ節

1. 下肢のリンパ管とリンパ節

 下肢のリンパ管は浅層と深層に配置されている.浅層のリンパ管は腹壁の浅層から来るリンパ管と鼡径部において合し,ここにある浅層のリンパ節に入る.また下腿の浅層にある若干のリンパ管は膝窩のリンパ節に入る.深層のリンパ管は深鼡径リンパ節に達する.

a)下肢浅層のリンパ管(図717719)は足背と足底にある非常に豊富な網からおこるが,この網はまず足の指の先端のところから作られていて,近位に向かって次第に太くなるリンパ管の起りをなしている.これを足背リンパ網・足底リンパ網Rete lymphaceum dorsale, plantare pedisおよび脛骨踝リンパ網・腓骨踝リンパ網Rete lymphaceum malleolare tibiale, fibulareという.

 内側面のリンパ管は大体に大伏在静脈のとおる道に沿っていて,一部は脛骨踝の前を,一部はその後を上行して,膝の内側面と大腿の前面を上方にすすみ浅鼡径リンパ節にはいる.

 外側面のリンパ管の大部分は足の外側縁からきて膝窩のところを斜めに越えて,内側のものといっしょになる.そのほかに小伏在静脈に沿って腓腹筋の両頭のあいだで深層に入り,膝窩リンパ節Lymphonodi popliteiに入るものがある.大腿の後面からは浅層のリンパ管は内側と外側を廻って鼡径部にすすんでいる.そのさい上方のリンパ管はほとんど横に,下方のものは斜め上方に走っている.

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最終更新日10/08/28

 

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