歴史的な偉大な解剖学書
歯式をつくるときに乳歯をも考慮にいれる場合は,人の歯式はつぎのように補足される必要がある.だんだんと大きくなる上下の両顎で乳歯のあった場所にあらわれる20個の代生歯につづいて,その後方にさらに12個の歯ができるわけで,後者の解釈がいろいろになされている.これらはそれに相当する乳歯のない第2次の歯Zähne der zweiten Folgeともみられるし,また第1次の歯Zähne der ersten Folgeであって,代生歯を欠いているとも考えられる.あとの考え方がいっそう自然である.そこで各側の顎半分が次のようになる.
乳歯
第1次 |
J |
J |
C |
M |
M |
M |
M |
M |
|
I |
II |
I |
I |
II |
III |
IV |
V |
=8 |
|
第2次 |
I |
II |
I |
I |
II |
||||
J |
J |
C |
PM |
PM |
代生歯
また第3の見解によると,歯に第1次と第2次のものが区別されることがすでに最初からの現象でなくて,哺乳動物の発達において両顎の短縮がおこり,もともと数多く存在した歯がもはや1列では場所をうることができなくなって,一部の歯が押しのけられて,これが代生歯の列をなしてあらわれているのだという.
[図55]脱落した乳歯 ×1
1 切歯;2 大口歯.両者とも歯根は全く吸収されて,歯頚が紙のように薄い板となっている.円みをおびた吸収腔が歯冠の最下部まで達している.
[図56]3才の子供の下顎左半:内方から剖出する ×1.永久歯の原基を黄色で示す.
1と2 内側と外側切歯;3. 犬歯;4と5第1と第2大臼歯(ともに乳歯);6と7内外両側切歯の代生歯小嚢;8犬歯の代生歯小嚢;9と10第1と第2小臼歯の代生歯小嚢;11 第1大臼歯(永久歯)の歯小嚢;12 第2大臼歯(永久歯)の歯小嚢;13 下顎管.
人の歯の形成に関してみられる変異性はあまり広汎なものではないが,しかしその意味は相当に大きい.個々の歯に最『もよく見られる異常はすでにその形態を述べるところ(14~ 20頁)で触れたのである.ここでは前に記さなかったいくつかの特別な点をあげることにする.
咬頭のいずれかが欠けていることがある.また完全な1本の歯の代りに退化した歯が1つ存在していることがあり,これはたいでい円錐状をしていて,栓状歯Embolusとよばれ,下等の脊椎動物の歯の形を思わしめるのである.第3大臼歯がしばしば退化的な発達を示すこと,およびその意味についてはすでに前に述べた.歯数の減少はまれではあるが時としてみられる.たとえば1つの顎に4本あるはずの切歯が3本しかできていないことがある.このときには1つが正中の位置にある.歯の貧弱な形成はかなりしばしば毛の異常形成(過多あるいは過少)と伴なっている.
最終更新日13/02/03