Rauber Kopsch Band2. 066   

食道と上部胸椎の椎体とのあいだを胸管が右から左上方にすすんでいる.また食道の上部の左右両側に頚動脈があり,左の頚動脈が一番近くにある.左の下喉頭神経は気管と食道のあいだの溝のなかを上方にすすむ.

 食道の形の差異:Pratjeによると生体における食道がその全長にわたって平等に円い輪郭をもつことはただ時としてみられるにすぎず,ふつうはその頚部のみが円いのである.胸部はサーベルの鞘のように圧平されていて,かつその長軸のまわりにねじれている.頚部の内腔は(生体では)閉じていて,粘膜が縦走のひだをなすので,横断面で星形を呈する.胸部では食道は自発的に収縮しないかぎり,その内腔がいつも開いていて,空気をもっている.Hasselwander(Z. Anat. Entw.115. Bd.1951)によると食道の下部は吸気にさいして脊柱から7cmまで遠ざかる.

 Elze(Münch. med. Wochenschr.1927)によると中央の峡部はただ機能的にのみ生ずるのである.

[図89]若い男(およそ20才)の食道レントゲン像 第1斜径で腹背方向に照射.(Pratje, Z. Anat. Entw.,81. Bd.,1926)

食道の諸層(図90)

 食道の壁は3~4mmの厚さがあって,そのなかに粘膜Tunica mucosa,粘膜下組織Tela submucosa,筋層Tunica muscularisがある.

 粘膜は咽頭や胃の粘膜よりも色がいっそう白っぽい.壁がひきのばされていないとき粘膜は縦走するいくつかのひだをなすので,これに囲まれた内腔は横断面で星形にみえる.このひだは食道の壁を横にひっぱると消失する.

 粘膜の上皮は重層扁平上皮であって,それが胃に移行するところで突如としてその性状を変える.食道腺Glandulae oesophagicaeという小さい粘液腺がかなり多数,粘膜に散在している.その腺体は粘膜下組織に達している.それよりさらに小さい腺で粘膜固有層に限局するものが食道の下端部にとくに密集しており,また(およそ70%において)食道の上部で,輪状軟骨の下縁と第5の気管軟骨のあいだの高さにみられる.なお粘膜下組織に少数のリンパ小節がある.

 上皮の下に固有層Lamina propriaがあり,その上皮に向かった表面は乳頭をもつのみでなく,縦の方向にのびた稜線状の高まりLängsleistenをもっていて,この高まりの縁から円錐形の乳頭がでている.固有層の外面に接して,縦走する平滑筋線維の集まった,かなりりっぱな1層(粘膜筋板Lamina muscularis mucosae)があって,これは粘膜のつくるすべてのひだのなかまで入っている.

 粘膜下組織Tela submucosaは疎な性質であって,粘膜と筋層Tunica muscularisとのあいだを可動性に結びつけている.筋層は外方のいっそう有力な縦層と内方の輪層とからできていて,両層とも食道の上部では横紋筋線維よりなるが,食道の全長を4等分してその上から第2の区劃に当るところで,横紋筋が平滑筋に移行する.その移行は食道の前方に向かった壁のところで,まずはじまるのである.

 縦走する筋層は輪状軟骨の後面において,弾性に富む1つの三角形の線条部を介しておこる.それに咽頭口蓋筋とつづく側方の弱い縦走束がまじっている.常にあるとは限らない平滑筋束として気管支食道筋M. bronchooesophagicusと胸膜食道筋M. pleurooesophagicusとがある.前者は左の気管支の膜性壁から,後者は左胸膜の縦隔部からくるものである.

S.066   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る