Rauber Kopsch Band2. 067   

 食道は附近の諸器官に対して,ごく疎な性質の結合組織によって連ねられている.筋層の縦走筋と輪走筋のあいだで神経の細い幹が網をつくり,この網には神経節が所々にある.これと近い関係はすでに咽頭でみられるのである.(アウエルバッハ神経叢Auerbachscher Plexusの項を参照せよ.)食道の上皮には上皮内神経終末が存在する.

 輪走筋はLaimerによると本当に輪をなしているでのなく,ラセン状に走っているのである.またやはりLaimerによると食道の筋肉の最もよわい個所は初まりの部の後壁,すなわち咽頭のすぐ下方のところであるという.

B. 消化器系の中部領域mittleres Gebiet des Verdauungssystems

I.胃Ventriculus=Gaster, Magen

 胃は広い腔所をもっていて,それが充ちると西洋梨の形を示すところの貯蔵所であり,ここに口から入ってきた食物が集められて,かなりの時間ここに留まるのである.

 すでに口腔内で食物に対して化学的な影響があらわれはじめるが,胃液のなかでは食物が胃液Succus gastricus, Magensaftの作用をうけて廉汁Chymus, Speisebreiに化すのである.胃の筋層のはたらきによって胃液が食物の塊りとよく混和することになる.すなわちこの筋肉の運動によって,胃の内容物が胃液を分泌している壁に入れ代り立ち代り触れるのである.

 胃の形と大きさには著しい差異がみられる.しかしその平均の長さは中等度の充満のときに25~30cmである.胃の最も広がっているところで平均の横径が12~14 cm,そしておよそ2.5 1の水を容れることができる.(日本人の胃の容量(平均)は中等度に充たしたときは男1.41㍑,女1.28㍑極度に充たしたときは男2.42㍑,女2.08㍑である(菅井竹吉,東京医学会雑誌18巻181~199, 368~377.1904).またあらかじめ硬化した胃についてその長さを側ると,平均して一男は大弯が39.3cm,小弯が13.1 cm;女は大弯が32.4 cm,小弯が14.6 cmである(岡本規矩雄,慶応医学2巻355-450.1922).)平均の重量は30gである.胃が(かなり長い絶食のあとなどで)収縮しているとき,その壁がたがいにひどく近づいて,全体の形が円柱状の管になっている.しかしまた収縮状態を除外しても,短くて幅のひろい胃形と長くて幅のせまい胃形とがある.たしかに食物の摂り方が相当大きい影響をおよばすのであろう.空っぽで,しかも収縮していない状態では平らな嚢の形で,その2つの壁がたがいに接触し合っている.内容が増してゆくと,胃は左および前方にはごく少ししか広がらずに,主として下方に向かって大きくなる(Leßhaft).そしてレントゲン線による研究がよく示すように鈎の形となるのである(Hasselwander, Ergeb. Anat. Entw., 23. Bd.,1921を参照せよ).

 性差と年齢差:レントゲン線をもってしらべると,胃の形・位置・長さは男女のあいだで著しく違っている.女の胃は比較的に長くて男のものよりいっそう急な角度をしている.乳児の胃は鈎状をしていないで長くひきのばされた形であって,且ついっそう横におかれた状態である.新生児の胃はごく小さくて,その胃を空気で中等度に充たして最大の長さを測ると5cm,最大の横径が3cm,容量は22~30ccmである.

 胃には前壁Parles ventrocranialisと後壁Parles dorsocaudalisとが区別される.また小弯Curvatura ventriculi minor, kleine Kurvaturと大弯Curvatura Ventriculi major, große Kurvaturとがある.胃が食道とつゴくところは噴門Cardiaであり,腸との境には輪状のくびれがあって,ちょうどそこの内部に括約筋と粘膜のひだがよく発達している.ここを幽門Pylorus という.胃の一部が噴門の左上方に突出して円く膨らみ,ここが胃の最も広がった個所をなしている.すなわち胃底Fundus ventriculiである.また幽門に近い部分が幽門部Pars pyloricaであって,しばしば幽門の左方にある1つの浅いくびれによってその境が示されている.胃底と幽門部とのあいだにある部分が胃体Corpus ventriculi, Magenkörperである(図93, 99, 113).

 局所解剖:胃の軸Magenachseは左上方から右下方へ急な角度をして走っている.I. 全身に対する位置holotopisch(WaldeyerはHolotopieという語で全身に対する各器官の位置をあらわし,Skeletotopieという語で骨格に対する位置関係,Syntopieという語で近くにある他の諸器官との関係,さらにIdiotopieという語で,1つの器官のなかでの各部相互の位置を言いあらわすことにした(原著註))としては胃は上腹部Regio abdominis cranialisに属するが,その大部分(3/4まで)が上腹部の左外側部にあり,小部分(1/4まで)が上腹部の内側部にある(第1巻,図149).II. 骨格との位置関係skeletotopischとしては噴門は第11胸椎の高さで,第6と第7肋骨のあいだの胸骨の左側縁に当たっている.

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最終更新日13/02/03

 

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