Rauber Kopsch Band2. 073   

胃壁の各層

 胃の壁は食道の壁よりはうすく,腸の壁よりは厚くて,つぎに述べる4層からなっている(図93).

 漿膜Tunica serosa.これは腹膜の一部であって,大弯と小弯に沿う狭い帯状部を除いた胃の全表面を被っている(腹膜の項を参照せよ).漿膜下の結合組織は主として縦の方向に走っており,この結合組織は大弯と小弯のところで特に量が多い.

 筋層Tunica muscularis,これは平滑筋からできていて,3層を成している(図103, 104).最外層は縦走線維層Stratum longitudinale, Längsfaserschichtで,その縦走線維は食道の縦走線維のつづきをなし,食道から胃壁に放射状に広がっている.縦走線維は大弯に沿ってはなはだよく発達しており,また特に小弯の両側で強く発達している.しかし小弯に沿う縦走線維は幽門部ではなくなるのであって,幽門部の小弯では約5cmの長さにわたって,全周のおよそ1/4が全く縦走線維を欠くのである.胃体の前後両面ではこの層が多数のごく細い小束に分れているので,数多くの平行線の縞がみえる.幽門部の前後の両面では縦走線維がいっそう密集しているため,かなりつよい縦走の条がみえる.これをLigg. pylori(幽門靱帯の意)という. 

 第2層は輪走線維層Stratum circulare, Ringfaserschichtで,上に述べた縦走の層よりもいっそうつよく発達している.そして胃底の左方の端で小ぎれいな形の輪をなしてはじまり,そこから次第に大きい輪に移行して,幽門に向かってふたたびその輪が小さくなる.そして幽門ではこの層がひじょうによく発達して,幽門括約筋M. sphincter pyloriをなし,これが内方に向かって著しい高まりをつくり,同時に外面はその位置に1つの横溝を示していることが多い.

 幽門部の一部をAntrum(洞の意)というが,この部と胃体との境に特別な括約筋(M. sphincter antri洞括約筋の意)が存在することがレントゲン線による研究者のがわから主張された.この括約筋はStieve(Anat. Anz., 51. Bd.,1919)によると,解剖学的にその存在がみとめられるものであり,Groedel(第3版,479頁)はそれが問題なく存在するという.

 第3層すなわち最も内方の筋層は斜線維層Fibrae obliquae, Schrdgschichtといい,不完全な1層で,斜走する線維でできている.前者と同じく食道の輪走線維層のづきをなしている.胃体を左側からとりまいて,そこから前後両面にひろがり,すすむにつれて筋束がたがいに離開する.この層は幽門には達しないで,胃体の範囲にのみ限局している.

[図101, 102]胃のレントゲシ像(Groedelによる) 図101は直立位, 図102は背位で撮す.

S.073   

最終更新日13/02/03

 

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