Rauber Kopsch Band2. 093   

 方形葉Lobus quadratusは長めの四角形をして,胆嚢と膀静脈索と肝門のあいだにある.尾状葉Lobus caudatusは方形葉よりいっそうつよく突出しているが,それよりも小さくて,形が不規則である.尾状葉は下大静脈と静脈管索と肝門のあいだにある.肝門に向かって乳頭突起Processus papillarisという円みをおびた高まりをなしており,肝門と下大静脈窩のあいだをとおる橋状の尾状突起Processus caudatusによって右葉とつづいている.尾状突起については前にも述べた.乳頭突起に向いあって左葉に低い高まりがあって小網隆起Tuber omentaleとよばれ,これと乳頭突起とのあいだに小網Omentum minusがある(図138).左葉の尖った外側端はしばしばひじょうに萎縮していて肝線維付属Appendix fibrosa hepatisをなす.

 変異:切れこみが普通より少ないために肝臓の葉の数が減じていることがあり,過剰の切れこみがあるために葉の数が増していることがある.Sömmeringは12の葉からできている肝臓について記している.肝臓の一部が完全に離れているもの(副肝Nebenleber)は左葉に付属した形で時としてみいだされる.右葉の内臓面に異常な1つの溝のみられることがまれでない.この溝は内臓面に限局することもあり,前縁に達していることも,さらに横隔面に及んでいることもある.(Rathke:Über anormale Furchen an der menschlichen Leber. Diss. Berlin ,1896. )-G. Ruge(Morph. Jahrb., 45. Bd.,1913)はいろいろの異常について記載し,とくに左葉が1つの幹葉Stammlappenと1つの側葉Seitenlappenとに分れていることや,左葉が過大に発達していたり高度に縮小していたりすることや,右葉がふつうより大きくできている例をあげ,また右葉の一部が分れて側葉をなしている1例(Morph. Jahrb., 46, Bd.,1913)をあげている.これらの変異を説明するのに,系統発生上は肝臓の右葉も左葉もそれぞれ1つの幹葉と1つの側葉からできていたということが重要である.それらが融合して右葉と左葉が生じたので,つまり人間でこれらが幹葉と側葉に分れているときは祖先返りとみなされるのである.

[図137]肝臓の内臓面における他の器官との接触部

 局所解剖:I. 全身に対する位置関係としては肝臓は上腹部にあり,その右外側部と内側部にあって,左葉が左外側部にはいりこんでいる.

 II. 骨格に対する位置関係は肝臓の上限が前方の右側では,乳頭線と胸骨傍線のあいだで第5肋軟骨が胸骨に付着する高さにあり,正中では劔状突起の底にあたっており,左側では胸骨傍線で第6肋軟骨が胸骨に付着する高さにある.それゆえ横隔膜の右半が上方にいっそう突出しているのに応じて,肝臓の右葉は左葉よりも上方に達しているわけである.左葉は多くのばあ込7cmだけ正中線を左にこえている.後方へ投射してみると肝臓の上限は第9胸椎体の下部にあたり,椎骨傍線Linea paravertebralisでは第10肋間隙に,腋窩線では第7肋間隙に当たっている.肝臓の下限は後方では第11胸椎体の中央に当たっている.肝臓の前縁は脊柱のところから右の第12肋骨の縁に相当してすすみ,肋骨弓に伴って,第9肋骨が第8肋骨に合するところで右の肋骨弓から離れて,左上方に向かって斜めに上腹部の内側部を通り,第8肋骨が第7肋骨に合するところで左の肋骨弓に達するのである.

 III. 近くの諸器官との位置関係として肝臓は上方は横隔膜に接触しているが,そのさらに上には右と左に肺,中央に心臓と心膜がある.肝臓のへこんだ内臓面は胃の前面の一部と小弯を被い,十二指腸上部と下行部の一部,右結腸曲を被っている.なお右の腎臓の上部と右の腎上体をも被う.これらすべての近接する器官によって肝臓にくぼみすなわち圧痕Impressionesができている.これは接触面Facles, Berührungsfelderともよばれる(図137, 139).それには食道圧痕・胃圧痕・十二指腸圧痕・結腸圧痕・腎圧痕・腎・上体圧痕Impressiones oesophagica, gastrica, duodenalis, colica, renalis, suprarenalisがある.

S.093   

最終更新日13/02/03

 

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