Rauber Kopsch Band2. 118   

 肛門輪(痔輪)Anulus haemorrhoidalisという名前で本来の肛門の口をとりまく輪状の高まりがよばれる.これは内肛門括約筋M. sphincter ani internusによっていくらかその他の部分より突出している.これは直腸洞Sinus rectales(119頁を参照のこと)のすぐ下方に接し,また直腸柱Columnae rectalesが上方からきて肛門輪と合している.

 肛門の口をとりまく皮膚は肛門が閉じているときはひだをつくっていて,ここでは結合組織が多数の乳頭をなし,また脂腺をともなう毛があり,また肛門周囲腺Glandulae clrcumanalesという管状の腺がある.この腺はヒトでは発達がわるいが,多くの哺乳動物では形の上でも機能的にもはなはだ大きい役目をしている.

直腸壁の各層

a)漿膜Tunlca serosa.直腸の表面はその小部分だけが腹膜に被われている.それは前面では直腸の全長の半分まで,側壁ではその範囲がもっと少なくなり,後面は全く被われていない.直腸の下方の半分は,つまり第4椎以下は,全く漿膜を有しないで,結合組織と脂肪組織の集りすなわち直腸傍結合組織Paraproctiumによって骨盤の壁および骨盤内の諸器官と固着している.

b)筋層Tunica muscularis.直腸もやはり,外方の縦走筋層と内方の輪走筋層とをもっている.縦走筋層は前にも述べたように厚い層をなして,さらに続いてすすむうちに輪走筋層の外方の筋束と交織し,また終りには肛門挙筋に達する.肛門挙筋の束は鋭角をなしてこれに近づいてくる.

 縦走筋層は第2あるいは第3尾椎からくる薄い筋板すなわち直腸尾骨筋M. rectococcygicusと結合している.直腸尾骨筋は左右に分れて対をなしていることもある.直腸の前壁にもこれと似た報骨筋の配置がみられる.すなわち男では直腸から前立腺の被膜や尿生殖隔膜の後縁にいたる少数の筋束があり,さらに上方で側方の筋束が直腸と膀胱のあいだを結合している.女では正中線の近くにある少数の筋束が直腸から子宮の筋肉につづき(直腸子宮筋Mm. rectouterini),また腟の後壁にもゆく.なお腹膜のつくるひだである直腸子宮ヒダPlicae rectouterinaeのなかに側方の筋束がふくまれて直腸と子宮のあいだを連ねている.

 輪走筋層は肛門に向かってその強さを増す.そしてその開口部のまわりに高さ1~2cmの厚い1つの輪すなわち内肛門括約筋M. sphincter ani internusをつくる.そのさらに外方に横紋筋線維からなる外肛門括約筋M. sphincter ani externusがあり,両者はよく区別できる(図168) (会陰の項をも参照せよ).

 時として直腸の中央より少しく下方のところにも(肛門からおよそ6cm離れて)輪走筋層の厚くなったところがあって,3肛門括約筋M. sphincter ani tertiusとよばれる.その位置に当たって内方に著しい粘膜のひだ,すなわちコールラウシュヒダができている.

c)粘膜Tunica mucosa.直腸の粘膜はもはや規則正しい半月ヒダをもたないが,それでも結腸の半月ヒダに相当するやはり半月形をした横走のひだがみられて,直腸横ヒダPlicae transversae rectiとよばれる.そのうちの1つで中央の高さにあるものが肛門から6~7cm隔たって直腸の右側の壁にあることはすでに述べた(115頁).その他の2つのひだ(その1つは上方に他の1つは下方にある)も前額面における直腸の弯曲の折れまがる個所に桐当して存在するのである.かくして直腸の内部が階段状に分れている.それは前額断面で内腔が波状の経過を示すことに当るのであるが,全体としてみると内腔が少数のラセン状の回転をしているのであって,これは直腸がその内容物を支え,またそれを押しだすのにかなり意味のあることである.

 上に述べた直腸の半月状のひだは永続性のものであるが,そのほかになお収縮のために生ずるひだ(Kontraktionsfalten)があって,これは縦走および横走していて,内腔が広がるときにこれが消えることは食道のひだと同じである.それゆえ収縮している腸の横断面では内腔が星状を呈する.縦走する永続性のひだは直腸の最終の部分すなわち直腸肛門部Pars analis rectiにだけみられる.それは(およそ8本ある)小さくていずれも垂直方向にのびて,全体として輪をなしてならんでいる.かわいいひだであって直腸柱Columnae rectalesとよぼれ,その底には少しく筋肉が入り,またその結合組織は豊富な静脈叢をもっている(図168).

S.118   

最終更新日13/02/03

 

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