Rauber Kopsch Band2. 146   

 喉頭前庭の前壁は喉頭蓋の後面のみから作られていて4.5cmの長さである.下方1/3において前壁面が横の方向に高まりを示し,多くのばあい低いが,しばしば強く突出する1本の縦走する隆起ができていて,これを喉頭蓋結節Tuberculum epiglottidis(図194)という.前庭の後壁の形はすべて披裂軟骨の位置によって定まる.披裂軟骨がたがいに近寄ると後壁の形は隙間のようになり,左右の軟骨が離れると後壁が平らになって丈も低くなる.前庭の側壁は不正四辺形で,下方は縮少して室ヒダに移行しており,室ヒダは前庭と喉頭腔の中部との境となっている(図194, 198).

 喉頭腔の中部は室鍼襞によって前庭から境され,また声帯ヒダによって喉頭腔の下部から境されている.中部は矢状方向の隙間でその大きさがいろいろと変る.室ヒダは前方で鋭角を作ってたがいに密接し,後方は軽い凹を画いてたがいに離れている.左右の室ヒダのあいだにある隙間は前庭裂Rima vestibuliといい,変化に富むものである.それに対して左右の声帯ヒダと筋突起の内側縁および披裂軟骨により境いされた矢状方向の裂目が声門裂Rima glottidis, Stimmritzeであって,その形や大きさがよく変るものである.声帯ヒダは喉頭に属する発音のための装置であるが,甲状軟骨におけるその起始から後方に向かって左右のものが次第に離開して,同時にやや上方にすすむ.声門裂の前部で声帯突起までの部分を膜間部Pars intermembranaceaといい,後方の短い部分を軟骨間部Pars intercartilagineaという.

 声門Glottlsは音声を作る喉頭の部分であり,左右の声帯ヒダからできている.

 室ヒダと声帯ヒダのあいだには左右各側に喉頭室への入口がある.喉頭室は外側上方に広がって,行きづまりに終る空所で,粘膜によって完全に囲まれており,横断面で約1cmの高さをもっている.喉頭室は喉頭室付属Appendix ventriculi laryngisをもって喉頭前庭の外側でしばしばかなり上方までのびている.

 多くのサルではこの空所が非常に大きく発達していて,鎖骨のところにまで伸びており,音響嚢Schallsäckeとなっていることがある.

 喉頭腔の下部は各部分のうちでもっとも簡蛍な状態である.円錐形であって,下方が広くなって気管の内腔に続いている.

 声門裂の形は,これがほぼ完全に閉じているさいには狭くて長い隙間で,まん中がやや広くなっている.

少し開いているとき,たとえば静かな呼吸のときには,前方が鋭角で左右の披裂軟骨の間を底辺とする長い三角形に似ている.完全に開くと,その形は後方の角をおとした長い菱形である.後方の2辺は披裂軟骨の内側縁でできている.声門裂は喉頭腔のもっとも狭い部分である.その長さは男では2.0~2.4cm,静かな呼吸の時にそのもっとも広いところで測ると,声門裂の幅が0.5cmあるが,これは1.4 cmまで広がりうる.女と子供ではこれらの数値が上にあげたものより1/5ほど少い.声帯雛襞そのものの長さは男で約1.5cm,女で約1.2cmである.

IV.気管と気管支Trachea et Bronchi

 気管Luftröhreは体の正中線にあって,頚部と胸部とにわけられる.第6頚椎体のところから始まるが,男ではその下縁から,では上縁の高さで始まる.胸腔の中では第4胸椎の高さに気管分岐部Bifurcatio tracheaeがあって,そこで左の気管支Bronchus dexter et sinisterという2本のいっそう細い管に分れてたがいに離れてゆき右と左の肺に達する.分岐部のところで大動脈弓と交叉する(図212).気管の長さは成人で9~15 cm,幅は1.5~2.7 cmの間の変動がある.(日本人の気管の長さの平均は生体造影法によると呼気相では男12.0cm,女10.0cm,吸気相では男13.5cm,女11.0cmである.また太さは呼気相で男1.3~2.0cm,女1.0~1.5 cm,吸気相で男1.5~2.2 cm,女1.3~1.8 cmである(前田清一郎,東京医雑誌45巻,昭和6年))

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最終更新日13/02/03