Rauber Kopsch Band2. 221   

 局所解剖:腔は後下方で直腸と接し,前方は膀胱と尿道に接している.そして尿生殖隔膜を貫いており,また肛門挙筋の前部によって両側から境されている.そめことは生体において容易に触知することができる.腟の縦軸は骨盤軸と一致する.後壁は前壁より1.5~2.5cm長い.後壁は平均8~10cm,前壁は7~8cmである(図275, 276).(日本人の腟の長さは生体において前壁が6.97~7.13cm,後壁が7.85~8.67 cmである(小坂田,臨床婦人科産科5巻).)

 腟は中央のところがもっとも広く,しかもそれは横の方向に広いのである.というのは,腟の前壁Parles ventralisと後壁Parles dorsalisとがたがいに相接しているのである.上下の両端に向かって比較的に狭くなっているが,上端はまた少し広くなって,外子宮口より多少離れたところで子宮頚をとり囲んでいる.この場合に後壁は外子宮口の後唇のところである距離だけ上方に達しているが,前壁では前唇がほとんど突出していないと云ってよい.外子宮口よりも上方にある部分を腟円蓋Fornix vaginae, Scheidengewölbe,または腟底Scheidengrundという.これには後方の深い部分と前方の浅い部分を区別して,後腟円蓋・前腟円蓋hinteres und vorderes Scheidengewölbe(最近はdorsales und ventrales Scheidengewölbe)と名づけられている(図292).

 処女では腟の後壁のつづきが,外から見ると半月形をして前方に突き出ている下方の壁となっている.これを処女膜Hymen, Scheidenklappeという(図292).

 腟の壁は前方で,そこが尿道の壁と密着しており,尿道壁の組織が腟と融合している所で最も厚い.また腟は膀胱底ともしっかりくここにいていて,それによって補強されている.後腟円蓋は腹膜によって被われている.腹膜は腟から直腸に移行するのである.この部分より下方では腟の後壁は直腸腟中隔Septum rectovaginaleによって直腸の前壁と結合している(図275).

 かなりの例において後腟壁がずっと下方まで腹膜で被われている(Keibel, Sellheim).

腟壁の各層

 外層は腟傍結合組織Paracolpiumといい,かなり密な結合組織からできていて,そこには平滑筋線維が存在する,腟の下部は隣接する諸器官(膀胱,尿管,直腸)とかたく結合している.

 中層は筋層Tunica muscularisであって,平滑筋線維の束がからみあったものからなっている.

 Schreiber(Arch. Gyn.,174. Bd.,1942)による腔の平滑筋は立体的な絡子を作り,格子の目は菱形をして腟の縦軸の方向に急傾斜のラセンを画いている.筋束は後壁よりも前壁でいっそう強く発達している.

 内層,すなわち粘膜Tunica mucosaはその表面に多数の横走する稜状の高まり,すなわち腟粘膜ヒダRugae vaginalesがあって特徴的な形態を示している.

腟粘膜ヒダはまた腟壁の前後の内面に,腟口からはじまって正中線を走るそれぞれ1本の高まりを作っている.この高まりは上方に伸びているが,腟口の近くではいっそう強くなっている.これを前・後皺柱Columna rugarum ventralis et dorsalis という.

 前後の腟皺柱は通常まったく同じように発達していないし,また正確にたがいに向き合っているわけでない.それゆえ腔が閉じているときにはたがいに触れていないで,そばに並んでいる.前腟皺柱はその下端がかなり深い溝をもって2つの部分に分れていることも珍しくない.この場合には後腟皺柱がそこにはいりこんでいる.前腟皺柱は外尿道口の近くで腟の前壁の下端において,しばしば2分しているかなり強い隆起部,すなわち腟尿道隆起Carina urethralis vaginaeをもって始まり,上方におもむくにつれて次第に低くなっている.後腟皺柱の下端はそれより少し上方になっているのが普通である.

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最終更新日13/02/03

 

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