Rauber Kopsch Band2. 244   

 精巣膜と精巣上膜は腹膜が鼡径管をへて陰嚢に突出した突起,すなわち腹膜鞘状突起Processus vaginalis peritonaeiの一部が開いたまま残った部分である(図316).正常のばあいにはこの突起の長い柄はたがいに向い合っている壁が融合して,腹腔口から精巣の近くまで退行する.こうして1つの索状の残りものとなって精索のなかにみられる.これを鞘状突起遺物Rudimentum processus vaginalisという(図317).腹膜下鼡径輪のところでしばしばこの造物の線維性の束が腹膜とつながっている.これはさまざまな長さをもっており,ときには細い索となって精巣膜まで達していることがある.しかしときおりこの細い索の痕跡もないことがある.

 精巣膜の上端は成人においてもなお精索に沿ってある距離だけ上方にのびていて,それに伴って陰嚢腔がとがった先をもって終る袋となっていることがかなりしばしばある.そのほか陰嚢腔が開いた管となって鼡径管を通ってずっと上行して,腹腔の腹膜嚢の高さに伸びていることがある.これは人間では胎生期にみる状態であり,また多くの動物においては一生残っている状態である.また多数の小さい腔所が精索の前面に沿って存在することがあり,あるいは腹膜と開放性につながった長い突起が鼡径管をへて下行していって,精索のなかで行きづまりに終わっていることがある.

 腹膜鞘状突起が完全に,あるいはその一部が開いたまま残っている場合はすべて先天性鼡径ヘルニアHernia inguinalis congenitaの起るもとをなしたり,あるいはそれが現に起こっている.

 精巣はその下降にさいして,常にその道程を完全に通ってしまうわけではない.それが鼡径管に達する前に,あるいはこの管のなかでのこともあるが,とにかくいろいろな所で停止することがある.これらの場合にはいずれにせよ陰嚢腔は空つぼである.前者の場合は精巣隠匿症Kryptorchismusである.後者の場合は生殖器のほかの発育障害と合併していることが多いが,またこれらがほとんど完全にできていて,生殖能力の障害もないこともある.

 多くの哺乳動物では精巣はいつも腹腔中にとどまっている.また精巣が陰嚢に達していて,一生そこにとどまつたままでいるものもあり,あるいは発情期だけ挙睾筋の働きで腹腔に戻るものもある.

 腹膜鞘状突起は女の胎児でも形成される.これはいわゆるヌツク管Canalis Nuckiとなって鼡径管を貫くが,腹壁の前面までしか達しない.それに伴って女には子宮鼡径索があり,これは男の精巣導帯Gubernaculum testisと相同のものである.腹膜鞘状突起と管の残りは成長した女にもやはり存在する(ヌツク憩室Diverticulum Nucki).

2. 上に述べたものと疎性結合組織によって結合しているその次の膜が,腹横筋膜Fascia transversalisのつづきをなすものである.腹膜が両側で鞘状突起をつくるのと同じく,腹横筋膜もポケット状の突出部を作る.これは腹膜の鞘状突起よりも容積が大きい.というのは腹膜の鞘状突起を包んでいるだけでなく,精管・精巣動脈・精巣動脈神経叢・精巣静脈・この静脈が作る蔓状静脈叢および深層のリンパ管を包んでいるからである.これらの脈管と神経はすべて疎性結合組織によってまとめられている.これらのものを包んでいるので腹横筋膜のポケット状の突起は精巣および精索の鞘膜Tunica vaginalis testis et funiculi spermaticiともいう.この鞘膜の内壁には平滑筋の線維が付いている.これを精巣鞘間筋M. intervaginalis testisという.

3. この鞘膜の外側には赤い色をした挙睾筋Musculus cremasterが接している.これは横紋筋からなる不完全な1層で,内腹斜筋から起り,浅鼡径輪を貫いて,係蹄状の束をなして鞘膜およびその内容物を取りまいている(第1巻,図493).

4. 挙睾筋膜Fascia cremasterica.これは外腹斜筋じしんの筋膜のつづきをしている.

 この筋膜は浅鼡径輪のところでしばしば脚間線維Fibrae intercruralesときわめて著明につながり,主として浅鼡径輪の縁から起こっている.

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最終更新日13/02/03

 

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