Rauber Kopsch Band2. 268   

 心膜の右と左の外側部Partes lateralesは外側を胸膜の心膜部によって被われている.この心膜部は胸膜の(右と左の)縦隔部の一部である.それゆえ心膜の線維膜は2つの漿膜のあいだに閉じこめられており,これらの漿膜がやはり心膜の固定にあずかるのである.心膜の後壁すなわち後部Pars dorsalisは,線維性結合組織によって食道と胸大動脈とにゆるくつながっている.しかし普通は少数の丈夫な結合組織索があって,後部を脊柱につないでいる.

 正常の広がりをしている心膜嚢の容量はWallraffによると510~800ccmであり,伸びた状態のとぎは820~1190ccmである.

 臓側葉は心外膜Epicardiumといい,心臓の外表面.と大血管の起始部を被っている.心外膜は上行大動脈と肺動脈の幹を円くとりまいていて,これらの大血管に共通な短い管状の鞘,すなわち動脈漿膜鞘Vagina serosa arteriarum, seröse Arterienscheideとなっている.

 臓側葉はまた上大静脈の一部と4本の肺静脈の一部をも被っている.下大静脈はごく短い部分だけが心外膜で被われている.そのわけは下大静脈は横隔膜を通りぬけてからほとんど直接に右心房に達しているので,そのあいだには狭い場所が残されているだけで,そこに漿膜が入りこんでいるのである.

 心臓とつづいている諸血管は,それが動脈であっても静脈であっても漿膜によって完全に被われているものが1つもない.大動脈と肺動脈においては,これら2つがたがいに相接していて,結合組織によってつながっている細長い部分が漿膜に被われていない.また右心房の一部と左心房の一部も心外膜によって被われていないのである.

 それゆえ心膜の臓側葉,すなわち心外膜は次のものを被っている.すなわち左右の心室の自由面,左右の心房の大部分,大動脈と肺動脈の表面のうちでこれらがたがいに相接していない部分,肺静脈内方部,上下の大静脈の開口に近い部分である.最後に述べた2つの大静脈からは留金状のひだが右心房に達している.

 壁側葉が臓側葉に折れ返るのは次の2ヵ所においてである.1. 心膜頂, ここからは大動脈と肺動脈が出ている(動脈門Porta arteriarum).2. 静脈のはいるところ(静脈門Porta venarum).後者は横にしたT字形をしていて,1本の縦走脚(上・下大静脈によって作られる)と1本の横走脚(肺静脈によって作られる)とをもっている.

 静脈門の横走脚,左心房の前壁,大動脈と肺動脈の後壁,心膜の後壁によって境された空所があって,これを心膜横洞Sinus transversus pericardiiといい,ここには左から容易に指をさしこんで到達することができる.

 心膜横洞の上端で左心房に向かったところに,肺動脈左校とそれに接している肺静脈とのあいだに心膜が1つのひだを作っている.これは()上大静脈ヒダPlica v. cavae cranialis(sinistrae), Wandfalte des Pericardiumsといい,血管と神経を包んでいる.このヒダは下方で左心房の側面において1本の細い索に移行している.この索は下左肺静脈のまわりをすすんでいて,左の上大静脈が閉鎖した部分を含んでいる.この部分が大心静脈の1小枝を左の第1肋間静脈に結合させている.

 心外膜の漿膜下脂肪組織がよく発達しているときは,切れこみをもった大小いろいろの突起を生じている.これを心膜脂肪ヒダPlicae adipqsae pericardiacaeといい,特に心臓の表面で大きな溝のあるところに存在する.心耳のところにも心外膜がその表てを被ってできている小さい突起がある.これを心膜絨毛Villi pericardiciという.

 心臓は漿膜嚢のなかに位置をしめているために,その休みない律動的な運動が可能なかぎり少ない磨さつのもとに行われるのである.

 形態学的な観点からいうと心膜腔は体腔の一部であり,同時に肋膜腔や腹膜腔と同様にリンパ腔でもある.生体における心膜液Liquor pericardiiの正常量はわずかなものであって,この液は壁をうるおし,なめらかに保つに足るだけである.死後しばらくするとその量はかなり増すのである.

 心膜には多数の細い血管があり,また迷走神経および横隔神経かちの枝が多数きている.リンパ管は臓側葉においてかなりよく発達しているが,壁側葉にはごくわずかしかない.

S.268   

最終更新日13/02/03

 

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