Rauber Kopsch Band2. 270   

 しかし胸郭の上口は前下方にかたむいた位置をとっており,その後方の境は第1胸椎で始まっているので,胸膜頂は実際の頚部には低いふくらみをもってごく少し突き出ているにすぎない.一般に右の胸膜嚢は左のよりいくぶん多く頚部に入りこんでいる.

 局所解剖:胸膜頂は外側上方は斜角筋によって,内側は気管,食道, 鎖骨下動静脈のいずれも一部によって,上方は腕神経叢の下方の幹によって境されている.

 胸膜嚢の下界は横隔膜の起始にまでは達していない.むしろそれより早く横隔膜から胸壁に移っている.そのため横隔膜の周辺部は胸壁と結合組織によって直接に結合している.横隔膜は右側がいっそう強く上方に高まっており,それに相当して右の胸膜嚢は左よりもやや短いのである.しかし右は左よりもいっそう幅が広い.したがって胸膜の下界は本側が右側よりいつもやや下方にある.

 骨格との位置関係では胸膜の下界,いいかえると下胸膜線kaudale Pleuralinieは胸壁において胸膜の横隔部が肋椎部に折れかえる部分の投影線であるが,その走りかたは次のようである.これは個体的にいくぶん異なっている.この線はまず第6肋軟骨に沿っており,ついで第6肋間隙をよぎつて,さらに第7肋骨の骨部と軟骨部の境に達している.そこから上方に凹の弓を画いて第8~第11肋骨の骨部を越えてすすんでおり,その間にますます骨部と軟骨部の境から遠ざかつて,最後に第12肋骨の中央部に達する.そして普通は第12肋骨に沿って第12胸椎体にまで達するのである.ときにはこの線が第12肋骨の走行に沿わないで,その中央部でこれと交叉して脊柱にすすんでいる(この異常は腎臓の手術にさいし重要である).また左の下胸膜線はすでに述べたとおり常に右のよりも少し下方にある(図343345).

 前胸膜線ventrale Pleuralinie,すなわち胸骨のところで肋椎部が縦隔部に折れかえる部分を投影した線と胸郭との関係を知ることも同じように重要である(図343, 344).胸骨柄の後面では左右の線が下方において集まってきて,そのために三角形の上胸膜間野Area interpleurica cranialisという場所が残されている.ここには脂肪組織と胸腺があるので胸腺野Area thymicaともいう.胸骨の中央部において胸骨の左縁に密接したところで左右の線はぶここにかつており,したがってその後方に心臓と心膜の一部を被いかくしている.左右の線は第4胸肋関節のところから次のようなぐあいにたがいに離れてゆく.左の線は左方への軽いへこみを示していて,これは左肺の心切痕にならつているのであるが,それに達してはいない.それに対して右の線は胸骨の左縁の近くをまっすぐに走りつづける.そして第6肋軟骨の高さになると前胸膜線は各側とも下胸膜線に移行するのである.ときおり左右の前胸膜線がたがいに重なっていることがある.かくして左の第4から第6までの肋軟骨の後方には胸膜のない下方の部分があり,これを下胸膜間野Area interpleurica caudalisという.またこの部分では心臓の一部が心膜に被われたま,胸壁に直ちに接しているので,ここを心膜野Area pericardiacaともいう.

 後胸膜線dorsale Pleuralinieは脊柱の上で肋椎部が縦隔部に折れかえる部分を胸壁に投影したものであって,左と右とで相異がある.左の後胸膜線は椎体の側縁に沿ってすすんでいるが,上部と下部では正中線に近よっている.右の後胸膜線はその経過の中央の部分で正中線を越えて左方にある.しかし上部と下部は正中線より右にある.また第4胸椎の高さで右縦胸静脈の末端部に相当する深い切れこみをもっている.

 変異:健康な人であっても胸膜線が上に述べた関係から多少とも重要な,ときにはごく著しい程度の変化をしていることがある.そのなかでも最も重要なのは左右の前胸膜線が胸骨の全長にわたってたがいに密接して走っており,そのために心膜は前胸壁から完全にひき離されている場合である.反対に左右の線がたがいに大きく離れて走っていて,右の線は胸骨の右縁を,左の線は胸骨の左縁を下行していることがある.また右の線は胸骨の右縁を走り,左の線が同じく胸骨の右縁までずれていることがある.

 肺の縁Lungenränderは呼吸のいかなる時期においてもこれらの胸膜線のすべてと一致しているわけではない.ある場所ではこの線よりうしろに退いており,またある場所ではこの線に一致している.

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最終更新日13/02/03

 

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