Rauber Kopsch Band2. 273   

 最もつよく吸いこんだとき,および病的な状態においてはこの部分の隙間のような場所が完全に開いて,肺によってみたされる.この場所の1つは横隔肋骨洞Sinus phrenicocostalis pleurae,あるいは下胸膜補腔unterer Komplementärrkum(Gerhardt)という(図343).

 呼気のさいには肺の下界がこの場所からふたたび出ていって,横隔部と肋椎部とは洞の高さに相当するところまでふたたび相接する.

 いままで述べたのは肺の下縁につ陸てであるが,肺の鋭い前縁についても,それより程度は少ないが同じことがあてはまる.この部分も呼気のさいには胸膜界まで達しない.それゆえここにも肋骨縦隔洞Sinus costomediastinalis(図347)という1つの場所がある.肺は深い吸気のときに初めてこの場所を完全にみたすのである.この洞のうち心膜と胸郭壁とのあいだにある部分を心前陥凹Recessus praecardiacusという.

 肺と縦隔とは肺間膜Mesopneumoniumによってたがいにつながっている.この膜は上部が厚くて,ここは肺根によって充たされている.また下部は結合組織だけが充たしていて,縦隔肺ヒダPlica mediastinopulmonalisといい,前額方向にある三角形の板であって肺底まで伸びている(図208, 209).このひだの鋭い下縁はすでに述べたように肺底まで達しており,したがって胸膜の横隔部と接している.このひだは胸郭を開いて肺の下葉をもち上げると容易に見ることができるし,また到達することもできる.

 胸膜腔には少量の漿液,すなわち胸膜液Liquor pleuraeがはいっているだけであって,壁側胸膜と肺胸膜のたがいに滑り動く面をなめらかにしている.

 胸膜は漿膜の一般的な性質をもっている.すなわち弾性線維に富む結合組織の基礎と薄い基礎膜,ならびに多角形をした1層の扁平上皮の被いからなっている.肺胸膜はそのほかの部分よりも弾性線維が豊富である.肋骨に接している部分はもっとも厚くて,肋骨や内肋間筋から容易にひきはがすことができる.心膜と横隔膜のところでは胸膜はいっそう薄くて,下の層とも比較的しっかりとつながっている.しかし最も薄くて,最も固く着いているのは肺の表面である.

 肺の鋭い縁のところでは胸膜が多数の絨毛に似た大小の突起をなしていて,これを胸膜絨毛Villi pleurales, Pleurazottenという.胸膜洞にはときおり脂肪によって作られた葉状の脂肪ヒダPlicae adiposaeがある.

 胸壁から胸膜の肋椎部を取り除くと,あとに線維性の薄い膜,すなわち胸内筋膜Fascia endothoracicaが残る.この膜が薄くなって横隔膜の上面にも続いている.胸内筋膜が最もよく発達しているのは胸膜頂のところである.

 肺胸膜の血管は大部分が肺動脈からきており,少部分は(肺門の周りの部分)気管支動脈からきている(v. Hayke, Z. Anat. Entw.,112. Bd.,1942).毛細管は太くて(直径20~50µ),広い目の網を作っている.壁側胸膜の細い毛細管もやはり広い目の網を作っている.

 肺胸膜のリンパ管は気管支リンパ節に達している.下葉の少数のリンパ管は後縦隔リンパ節にも達しており,また横隔膜の下で腹腔の後壁にあるリンパ節にも達している.壁側胸膜のリンパ管は各肋間隙のところと胸横筋の上で豊富な網を作っている.しかし胸膜の縦隔部にはリンパ管はごくわずかしかない.これらのリンパ管は前後の縦隔リンパ節に達している.横隔部のリンパ管はたいてい横隔膜の下方で噴門に接して存在する上胃リンパ節(1つないし2つ以上のもの)ともつながっている.壁側胸膜の上皮にはすでに他のところにおいて述べた小口Stomata, Spaltöffnungengaがあって,リンパ管とつながっている.肺胸膜には小口はないようである.(胸膜の動静脈吻合についてはv. Hayek,1942が記載している).

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最終更新日13/02/03

 

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