Rauber Kopsch Band2. 276   

 腹膜嚢を前方から広く開いて腹膜腔を囲む他の壁を観察してみると,前壁とはまったく異なった様子をしている(図100).

 このときには腹腔の上部に肝臓と胃がすぐに認められる.胃の大弯から大網Omentum majus, großes Netzというはなはだ目だつものが下方に伸びている.これは前掛のようになって,腸の諸部秀を前方から被っている.その左側と右側,および下方には腸の諸部分(盲腸・S状結腸・空腸の終末部の係蹄)が被われずに見えている.

 大網を上に持ちあげて上方に折りかえすと(図109),横行結腸はそれについて上り,自由ヒモと腹膜垂と結腸膨起をもった横行結腸の後下面がはっきりとみえる.また横行結腸間膜Mesocolon transversumの一部もみることができる.

 なおまた腸間膜小腸の数多くの係蹄があらわれる.これがほとんど全視野をみたし,また後腹壁にくつつていいる諸器官をほぼ完全に被いかくしており,右方には盲腸,左にはS状結腸だけが部分的にみえるにすぎない.

 しかし腸間膜小腸の付きかたからして,いかなる器官もそこなうことなしに腹膜腔の後壁め大部分を観察することが可能である.腸間膜小腸の係蹄を右方に持ちあげると(図159)小腸間膜Mesosteniumの左の面が現われてくる.小腸間膜は脂肪の沈着の程度によって厚かったり,薄かったりするが,その頚飾のようにひだのある縁には腸の係蹄が固く着いている.それゆえこの膜をドイツ語でGekröse(ひだのあるものの意)という.腸間膜根Radix mesosteniiが後腹壁に付着するところは,第2腰椎から斜めに右下方に走って右腸骨窩にいたる1線に沿っており,ここで右の仙腸関節の上端のところで終わっており,かつ下方に1つの自由縁をもっている.虫垂が小骨盤に向かって垂れている場合には(図159)この自由縁のそばに虫垂が存在する.

 腸係蹄をかたよ茸ると次のものがみえる.すなわち横行結腸間膜の下面・左結腸曲・下行結腸と短い下行結腸間膜Mesocolon descendens・S状結腸とかなり長いい状結腸間膜Mesosigmoideum,それに骨盤の諸器官としては直腸の上部(直腸間膜Mesorectumをもつ)・膀胱底,女ではそのほかになお子宮・卵管・卵巣例子宮広ヒダである.

 十二指腸の上行部は小腸間膜根の上部を貫いており,空腸は十二指腸空腸曲をもってそこにつづいている.この場所には上十二指腸結腸間膜陥凹Recessus duodenomesocolicus cranialisと下十二指腸結腸間膜陥凹Recessus duodenomesocolicus caudalisという腹膜のくぼみがある.これらの陥凹に其通する入口が前方は十二指腸,上方は上十二指腸結腸間膜ヒダPlica duodenomesocolica cranialis,下方は下十二指腸結腸間膜ヒダPlica dubdenomesocolica caudalisによって境されている.

 上十二指腸結腸間膜ヒダのなかをしばしば下腸間膜静脈が走っている.

 やせた人や新生児では腹膜をとおして尿管,腎臓,下腸間膜動静脈がすいてみえており,またそれらのためにひだが生じている.

 S状結腸を両手でつかんで,S状結腸間膜をできるだけ伸ばして高くもちあげて.この膜の(左の)下面を下方からみると,もう1つ別の腹膜のくぼみ,すなわちS状結腸間陥凹Recessus intersigmoideusに到達することができる.そのさいこの結腸間膜の付着部にすぐ接して小さい穴が1つ認められる.これがS状結腸間陥凹の入口である(図354).下行結腸の外側には存在の不定ないくつかの浅い腹膜のくぼみがある.これを結腸傍陥凹Recessus paracoliciという.

 後腹壁の右半分の器官をみるためには小腸の係蹄の全部を左方に押しのける.そうすると左半分の鏡面像ともいえるものがみられるが,しかし多くの点で左半分と違っている.このときはまず小腸間膜の右側の表面と横行結腸間膜の右側の部分がみえる(図160).十二指腸の下行部は横行結腸間膜を通りぬけてから,下十二指腸曲で曲がって十二指腸の下部となる.この下部は小腸間膜根の上部を貫いて左方にすすんでいる.そのほかに右結腸曲・上行結腸と上行結腸間膜Mesocolon ascendens・盲腸・虫垂とそれに付着している小さい虫垂間膜Mesenteriolum processus vermiformis・回腸の盲腸への移行部がはっきりみえる.最後に述べたところでは回腸の開口部の上方と下方に上と下の回盲腸陥凹Recessus ileocaecalis cranialis et caudalisがある.上回盲腸陥凹は回腸と盲腸,および腹膜の1つのひだである上回盲腸ヒダPlica ileocaecalis cranialisによって作られている.このひだは盲腸から小腸間膜根に走っている.下回盲陥凹は回腸と盲腸,およびこれら2つのあいだに張っている腹膜のひだ,すなわち下回盲腸ヒダPlica ileocaecalis caudalisによって作られている(図160, 162).

 盲腸の下端を高く持ちあげると外側に盲腸ヒダPlica caecalisという1つのひだがあらわれる.そのそばで盲腸後陥凹Recessus retrocaecalisが盲腸と結腸の後がわを上方に入りこんでいる.

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最終更新日13/02/03

 

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