Rauber Kopsch Band2. 279   

 肝十二指腸部は右方にむかつた自由縁をもっている.示指をもってこの縁の下を左方にたどると,網嚢孔Foramen epiploicumという1つの穴(図99, 164)をへて胃と小網の後方にある空所,すなわち網嚢Bursa omentalis(図351)に達する.網嚢孔から網嚢に空気を吹きこむと,子供では普通に,またまれには成人においても大網がふくれる.このことは網嚢が大網にも属していることを示すのである.

 網嚢孔にさしこんだ示指の先端は網嚢前庭Vestibulum bursae omentalis〈図164, 351, 7)にある.

その前方には小網の肝十二指腸部があって,これは門脈・固有肝動脈・総胆管・リンパ管・神経を含んでいる.指の後方には下大静脈があり,上方には肝臓の尾状突起・下方には膵臓の小網隆起がある(図99, 164).

 さて目を転じて,横行結腸と胃を右下方に引つばつて左側部をみると,そこには脾臓(図99, 351, 9)がある.そして横隔結腸ヒダPlica phrenicocolicaが第9ないし第11肋骨のあたりで横隔膜の肋骨部の表てを被う腹膜から出て(図99, 164),左結腸曲に付着している.これは脾臓の前端を支えている.いま左手で脾臓を前下方に引き,右手の示指を脾臓の横隔面に沿って脾門へとのばすと,指の先端が横隔脾ヒダPlicae phrenicolienalesに突きあたる.これは横隔膜の腹腔面から(図164)脾門に走っている.

 最後に網嚢の壁について概観をうるためには,胃の大弯から横行結腸にいたる胃結腸間膜部Pars gastromesocolicaを切断して,胃を上方に引き,横行結腸を下方に引っ張るのがよい.このようにして広く切り開かれた網嚢は(図351)下方は横行結腸間膜の上面により,前方は胃の後壁と小網によって境されている.胃底と脾門のあいだには後胃間膜Mesogastrium dorsaleの胃脾部Pars gastrolienalisが張っており,胃底と横隔膜のあいだには同じく横隔胃部Pars phrenicogastricaが張っている.

 網嚢の後壁には特別なことがいくつかあるので,もっとよく観察してみよう.まず網嚢前庭からはじめると,この前庭の諸壁はすでに網嚢孔からさしこんだ示指をもって触れることができたのである.前庭からは上陥凹Recessus cranialis(図164)が下大静脈と食道,および肝臓のあいだを上方にのびている.下陥凹Recessus caudalisは胃と膵体のあいだを下行している.前庭と網嚢の境をなして胃膵ヒダPlica gastropancreaticaという鎌形のひだがあり,これは小網隆起から胃の噴門へ走っている.このひだは左胃動脈を含んでおり,この動脈の走りかたに影響を受けている.総肝動脈は総肝動脈ヒダPlica a. hepaticae communisを生ぜしめている.

 肝臓が横隔膜に付いているところをみるためには,一方の手で肝臓を左下方に引き,他方の手で右の肋骨弓を上に持ちあげるのである.こうすると肝鎌状間膜Mesohepaticum ventraleの形と走行をよく観察できる.これは鎌形をしていて,前方から後方に伸びており,横隔膜の右肋骨部を被う腹膜から(図99, 164)肝臓の横隔面にすすんでおり,しかも前方は肝切痕に終り,後方は肝臓と横隔膜の付着面の前縁に終わっている.肝臓を除去すると図164に示した付着範囲がわかる.

 また肝臓縁に向かって次第に幅が広くなっている右三角間膜・左三角間膜Mesohepaticum laterale dextrum, Mesohepaticum laterale sinistrumがはっきりみえる(図352, 7, 7).

 これまでに観察した各部分をまとめてみると,全体として腹膜は上・後・下壁においていろいろな腹腔内臓を入れる5つの大きな嚢を作っていることがわかるのである.第1の嚢は肝臓を,第2のものは胃と脾臓を・第3のもゆは結腸を,第4のものは空回腸を,第5のものは膀胱と内部生殖器の一部をそれぞれ包んでいる.すなわち肝臓・胃・大腸・小腸・生殖器の嚢が存在する.

 したがって腹膜は(図350)前腹壁と横隔膜から肝臓の横隔面にすすみ,これをその前縁まで被い,ついで肝臓の内臓面にいたり,その中央部で肝門まで達している.肝門からは小網となって胃の小弯にいたり,胃の前面を被って大弯に達し,その下方で大網の前葉を作り,その下端の自由縁で折れかえって,逆行して脊柱まで達する.脊柱からは下方にすすんで横行結腸を被い,ふたたび脊柱に戻っている.それによって2枚の膜からなる横行結腸間膜が作られている.

S.279   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る