Rauber Kopsch Band2. 280   

 ついで脊柱のところからやはり2枚の膜からなる空腸の小腸間膜が出ている.小腸間膜の後(左)葉は出発点に戻って後に,脊柱に沿って下行して小骨盤にいたり,大腸を包む腹膜嚢の左側の終末部として直腸の一部を被っている.直腸および骨盤の後壁から女の場合には腔円蓋と子宮に移り,男の場合には膀胱の後壁に移っている.子宮の前壁からは同じ経過をへて膀胱にいたる.膀胱からは前腹壁にすすむのである.

 これは正中面における大きな腹膜嚢の経過である.しかしこれだけが腹膜のすべてではない.このほかにまだ小さい方の腹膜嚢がある.これは網嚢Bursa omentalis, Netzbeutelであって,肝臓と胃のあいだで大きな腹膜嚢の臓側葉から後方に向かっていて,正中面より右側のところから出ている大きい広がりをもつ空所である.網嚢への入口は図351における矢印に相当しており,正中線の右側にあり,網嚢孔Foramen epiploicumとよばれる.網嚢には前葉と後葉の存在することが明かにわかる.前葉は肝臓の尾状葉を肝門のところまで被い,つひで胃の小弯にすすみながら小網の後葉をなしている(矢印の部分).そして胃の後面を被い,大網の第2の膜となって下方に伸び,その下端の自由縁において網嚢の後葉に移行している.後葉は大網の第3の膜として脊柱に向かって逆行し,膵臓の前面を被い,さらに上方では横隔膜の腰椎部を被って,肝臓と横隔膜の付着面の後縁に達するのである.

[図351]網嚢の概観

 胃の大弯のところで大網を切断して,胃と肝臓を上方に折りかえしてある.矢印は網嚢孔(見えない)と網嚢前庭(7)をへて網嚢の広い空所に達している.1 胃の後壁;2十二指腸;3肝臓;4胆 嚢;5 膵臓;6 小網の後葉;7 網嚢前庭から固有の網嚢への移行;8 脾;[8'網嚢の碑陥凹Recessus lienalis bursae omentalis];9 横隔結腸搬嚢;10大網で被われた横行結腸;11大網;12から左と右へ14までが網嚢を切り開いた切断縁;13膵臓の前端;14 胃結腸間膜部を胃の大弯の近くで切った切断縁;15 十二指腸の下行部;16 右結腸曲.

 網嚢はすでに述べたとおり正常の入口として網嚢孔をもっている.人工的には小網か胃結腸間膜部を切断することによって網嚢腔の広い範囲に到達することができる(図351).

以上でわれわれは腹膜の全体としての配置を知ったのであるが,これからは内臓を包む5つの腹膜嚢のおのおのについて特徴を調べてみよう.

B. 5つの腹膜嚢の観察
1. 肝臓を包む腹膜嚢Leberkapsel

 腹膜が右と左の2枚からなる矢状方向の肝鎌状間膜を作っていることは前に述べた.この膜の下方に向かった自由縁のところに閉鎖した膀静脈が脾静脈索として含まれている.この矢状方向に走る腹膜のひだが肝臓の横隔面上に付着する2つの線は図352では4をもって示されている.これらの線は後方にすすんで肝臓のいわゆる付着部にいたり,ここで両側に向かってたがいに離れてゆき,この付着部の前界をなしている (図352, 5と6).付着部の後界は図352において7から8と+をへて7に走っている.前界と後界は右と左の端で合しており,そこにはそれぞれ三角形のひだがある.その左側のものが大きい広がりをもっていることがある.これら2つの翼状のひだは右三角間膜,左三角間膜Mesohepaticum laterale dextrum, Mesohepaticum laterale sinistrumという(図352, 77).

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最終更新日13/02/03

 

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