Rauber Kopsch Band2.508   

 手根管の内部で正中神経が橈側と尺側の各1本の枝に分れる(図545).尺側の枝からは尺骨神経との交通枝Ramus communicans cum n. ulnarisがでて,これは浅掌動脈弓に平行して走っている.尺側と橈側の両枝は筋枝を第1と第2の虫様筋に,また母指球の筋の全体く但し母指内転筋と短母指屈筋の深頭とを除く)にあたえ,次いで3本の総掌側指神経Nn. digitales volares communesに分れ,これらがさらに固有掌側指神経Nn. digitales volares propriiに分れて母指側の3指の両側縁と第4指の母指側縁に分布する(図545).

 正中神経の終枝はくわしく述べると次のように分れている:すなわち

1. 橈側終枝Ramus terminalis radialis;これは直ちに4本の枝に分れる.

α. その第1枝は短母指外転筋, 母指対立筋および短母指屈筋(の梶側頭)に分布する.--β. 橈側母指掌側指神経N. digitalis volaris pollicis radialis;これは母指の掌側面の橈側縁に分布し,細い小枝によって母指の背側面を走る橈骨神経の枝と合する,--γ. 尺側母指掌側指神経N. digitalis volaris pollicis ulnaris; これは母指の掌側の尺側縁に分布する.--δ. 橈側示指掌側指神経N. digitalis volaris indicis radialis;これは示指の掌側の橈側縁に広がり,第1虫様筋神経N. lumbricalis Iを出す.2. 尺側終枝Ramus terminalis ulnaris;これは直ちに第2総掌側指神経Ndigitalis volaris communis IIと第3総掌側指神経N. digitalis volaris communis IIIとに分れる.

 α. 第2総掌側指神経 Ndigitalis volaris communis II;これは第2中手骨間隙Spatium interosseum IIの前を通って中手骨の遠位端にまで達し,第2虫様筋神経N. lumbricalis IIを出し,尺側示指掌側枝Ramus volaris indicis ulnarisと橈側中指掌側枝Ramus volaris digiti medii radialisとに分れる.--β. 第3総掌側指神経N. digitalis volaris communis III;これは第3中手骨間隙Spatium interosseum IIIにあって前に述べたのと似た関係を示し,尺側中指掌側枝Ramus volaris digiti medii ulnarisと橈側第4指掌側枝Ramus volaris digiti quarti radialis とを出す.時には両枝に分れる前に第3虫様筋神経N. lumbricalis IIIを送りだすが,この枝はしばしば尺骨神経の掌側枝の深枝から発している. またこの第3総掌側指神経N. digitalis volaris communis IIIが尺骨神経との交通枝を1本もっている.

 変異;正中神経の外側根は1枝を尺骨神経にあたえるが,このことは日本人ではヨーロッパ人におけるよりもいっそうまれである.前腕においては正中神経と尺骨神経とのあいだの結合がヨーロッパ人ではおよそ25%に,日本人では10.48%に見られる(Hirosawa 1931).単独の交通枝のかわりに1つの神経叢が見られることはヨーロッパ人では全例のおよそ1/3ないし1/2 (Gehwolf 1921),日本人では全例の45%である(Hirosawa 1931).

3. 尺骨神経N. ulnaris(図537, 541543, 545548)

 これは腕神経叢の(下方の)尺側神経索から発し,これが上腕を通るあいだは枝を出さず,前腕では若干の関節枝と筋枝と皮枝を送りだし,手の中で2終枝すなわち浅枝Ramus superficialisと深枝Ramus profundusとに分れる.

 腋窩の中および上腕の上部においては尺骨神経は腋窩動脈と上腕動脈の内側面を下行し,次いで尺側上腕筋間中隔の背側に達し,これに沿って上腕三頭筋尺側頭の掌側面の上を走り尺骨神経溝に達する(図542).ここからは尺側手根屈筋の両頭のあいだをへて前腕の掌側面に達し,深指屈筋の上を走り,尺側手根屈筋に沿って手関節にいたる.尺側手根屈筋は前腕において尺骨神経と尺骨動脈の誘導筋Leitmuskelをなしている.前腕の中央では尺骨動脈が尺骨神経の外側面に接して,これに伴って走る(図543).また尺骨神経はそこでは[手の]背側枝Ramus dorsalis manusを分ち,この枝は尺側手根屈筋の腱の下でこれと交叉して,手背に達し,ここでは第3指の尺側縁と第4・第5指の両側縁とに分布し,かつ橈骨神経の浅枝と吻合をなしている(図546).尺骨神経の幹は豆状骨の橈側面に密接して遠位の方に走って手掌に達する.手掌でその終枝に分れて,これらの枝が第4指の尺側縁と第5指の両側縁の掌側部に分布し,また筋枝を小指球の諸筋・すべての骨間筋・第3と第4の虫様筋・母指内転筋と短母指屈筋の深頭とにあたえる.

 尺骨神経からおこる枝は前腕に分布するものVorderarmzweigeと終枝Endzweigeとに大別される.

a)前腕に分布する枝;これには関節枝Rami articularesと筋枝Rami muscularesと皮枝Rami cutaneiとがある.

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最終更新日13/02/03

 

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