Rauber Kopsch Band2.575   

VI. 感覚器Organa sensuum, Sinnesorgane

序論

 感覚器は外界と神経系のなかだちをする生体の機構であって,外界の何らかの運動現象や化学的刺激がこの機構によって神経系に作用して,そこに感覚や表象を生ぜしめるのである.従って1つの感覚器には次のものがふくまれる.1. 末梢の受容装置すなわち外界と精神活動の場とのあいだに介在するもの.2. 精神活動の中枢器官,到達する興奮がここで処理される.3. 末梢と中枢を結合する伝導路

I.嗅覚器 Organon  olfactus, Geruchsorgan

嗅覚器は鼻粘膜の嗅部Regio olfactoriaからなる.

 そのほかになお鋤鼻器Organon vomeronasale(ヤコブソン器官Jacobsonsches Organ)がある.両者とも鼻腔のなかにあるが,鼻腔については副鼻腔とともにすでに内臓学のところで述べておいた.それでここでは鼻粘膜嗅部の位置・範囲・構造・中枢神経系との連絡について述べればよいのである.

 嗅部の粘膜はもっぱら上鼻甲介と,鼻中隔のこれに向き合った部分だけを占めている.嗅部の粘膜の黄褐色調が嗅部だけの範囲に限られていることもあり,あるいは多少とも広く中鼻甲介の領域にまでのびていることもあるが,とにかく嗅部の粘膜はこの色調によって赤みがかった呼吸部Regio respiriatoriaから外観的に区別することができる.とくに新生児では黄色調が上鼻甲介から中鼻中介へ広くのびているのが常である.嗅部の粘膜は特殊感覚装置を所有するほかに,単純な知覚神経の終末をもふくんでいる.後者は呼吸部の全域にもひろがっている.

 左右両側の上鼻甲介と鼻中隔にひろがる嗅上皮Riechepithelの全面積は,或る1例について約500平方ミリメートルであるとされた.そのうちわけは1側だけで側壁に124,中隔に133平方ミリメートルであった.第2の例では嗅上皮の面積は約480平方ミリメートルで,そのうち各側の中隔に99,側壁に139平方ミリメートルであった.この例でも嗅粘膜の領域は,上鼻甲介にだけあって,この甲介の下縁はどこにも嗅粘膜をもっていないのであった.嗅上皮が斑点状の線毛上皮の部分をとりかこむ傾向は強くあらわれている.また孤立した小さい嗅上皮の島Riechinselnもみられる.線毛上皮の島のなかに小さい嗅上皮の島が存在することもある.(A. v. Brunn, Arch. mikr. Anat., 39. Bd.,1892. )

 ヒトの嗅上皮の厚さは平均して0.06mmで,呼吸部の上皮の厚さとほぼ同じである.

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最終更新日13/02/03

 

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