Rauber Kopsch Band2.578   

 嗅境界膜の外面には支持細胞に対応するところで,放射状にこまかい線条のついたクチクラ性の被いがしばしばみられる.これは腸の上皮細胞の小棒縁Stäbchensaumを想わせる.嗅境界膜は今目なお時どき論議の的になっているが,それはこの神経上皮の全体の自由表面のところを保護する膜であると同時に,これを固定する装置でもある.

 嗅細胞神経上皮細胞Neuroepithelzellenである.嗅細胞の中枢がわの突起は神経突起であって,嗅糸球において終末分枝をなしている.

 嗅上皮が線毛上皮と境を接するところ,および線毛上皮じしんのなかに,上皮内神経線維intraepitheliale Nervenfasernがあり,これは粘膜の結合組織性の部分から上皮内へはいってきて,ここで細胞と結合することなく上皮中を表面の近くにまで進む. これは三叉神経に属する単純知覚性の神経線維の終末であるが,おそらく一部はまた終神経N. terminalisに属すると思われる(372頁).これと全く同様な自由終末が嗅部の領域内でも嗅糸線維の細胞性終末とともに存在する(図600).

 魚類・両棲類・爬虫類・鳥類では哺乳動物およびヒトと同一の典型的な構造の嗅粘膜がみられる.嗅細胞が同様の動かない嗅小毛をつけているのに対し,支持細胞は線毛運動をする毛をつけている.魚類の嗅粘膜はみな多少とも複雑なひだをなして高まり,このひだの群が横列をなすもの,放射状や花冠状にならぶもの,縦にならぶものなどがある.魚の嗅粘膜には嗅蕾Geruchsknospenとよばれる蕾状の粘膜部があって,これは嗅上皮をもっており,各嗅蕾のあいだは普通の上皮で被われている.魚の嗅蕾がいかなる範囲に分布しているかはまだ決定されていない.いずれにしても嗅蕾は魚の外皮にみられる神経丘Nervenhügelと相同のものとは考えられない.なぜなら後者にはふつうの上皮内自由神経終末が存在するからである.Kanon (Arch. mikr. Anat., 64. Bd. )(加門桂太郎(もと京都大学教授)が1904年にWürzburgで発表した研究,Über die “Geruchsknospen”653~664頁.)の研究によればEsox (シクカギョ)(敷香魚と書く.谷津直秀:動物分類表による.)およびTrigla(ホウボウ)の嗅蕾はこれらの動物の嗅蕾とは全くことなっている.

 嗅粘膜の結合組織性の部分は疎であって,リンパ球に富み,結合組織線維にとぼしい.ところどころに本当のリンパ小節というべきものがある.そのほか粘膜は血管神経に富んでいる.

 嗅部の腺は嗅腺Glandulae olfactoriae(図595)とよばれ,かなり密集して存在する不分枝あるいは分枝管状腺(太さ60µ)である.粘膜固有層のなかにあって,その細い(広さ4µ)導管が上皮を貫いている.腺体をなす細胞は黄色の色素をもっていることがある.嗅部の粘膜が黄色にみえる原因の一部はこれであるが,またその主な原因をなすのは支持細胞がもつ色素であって,さらに固有層の結合組織細胞も色素をもっている.嗅部に隣接するところでは呼吸部の線毛上皮細胞にも同様の色素沈着がみられるので,黄色の色調の範囲から嗅粘膜の広がりを決定することはできない(575頁).

 ヒトの嗅腺の分泌細胞は決して粘液をださない.従ってこの腺は純漿液腺である.

 しかしPaulsenによると,多くの哺乳動物の嗅腺は混合性の上皮をもっている.すなわち漿液性の細胞のあいだに粘液性細胞も存在するのである.

 さらにヒトの嗅腺のひとつの特徴は粘膜下の貯蔵所subepithelialer Behälter というべき部分があることで,これはさまざまな大きさのふくろで,上皮を貫いて細い導管を外方へ送る一方,反対がわでは何本もの腺管をうけ入れている.この貯蔵所は脂腺の或るものにみられる洞Sinusの像を思わせる.このふくろの壁が外に向かっていくつものへこみをなしていることがある.うすい単層扁平上皮で被われており,内容に固形物は全くない.嗅腺の開口様式の第2の型は線毛上皮で被われたくぼみ,すなわち陰窩Kryptenであるが,これは第1の型よりまれである.これら2型の嗅腺は嗅部の範囲をすべての方向にかなりの広さで越えてひろがっている.

 比較的太い嗅糸はその場所の骨の小さい管や溝のながにあり,比較的細いものが粘膜を貫いて次第にその表層に達する.これら嗅糸のすべてが脳膜からおこってくる神経周膜の鞘で包まれている.嗅糸の線維はすべて無髄であり,しかも無髄線維の特別なものである(図595および第I巻72頁).

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最終更新日13/02/03

 

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