Rauber Kopsch Band2.579   

ヤコブソン器官Jacobsonsches Organ

 ヒトのヤコブソン器官は痕跡的なもので,もはや何らの感覚作用をもたない.この器官の外側壁は鼻粘膜の呼吸部の上皮で被われている.これに対して内側壁の上皮は丈が高くて嗅部の上皮に似ていて,すらりとした長い細胞をもっている.しかし糸状の感覚細胞は存在しない.ここには円柱状の支持細胞があり,その間にそれより短くて自由表面に達しない紡錘形の細胞がある.この細胞は嗅細胞の完全な段階まで発達しないもの,あるいはかなり高い発達段階から逆に萎縮したものと考えられるが,また発達がいっそう進んだ補充細胞とも考えることができる.

 多数の桑果状ないし球状の石灰結石が上皮の全領域に散在し,この器官がすでに活動を停止したものであることを示している.

 Köllikerの指摘したところによると,胎生8週の人胎児では,ヤコブソン器官に嗅糸の1が来ているのである.この神経はヤコブソン器官の上皮から中枢の方へ伸びたものと考えてよいから,この器官はこの時期には高度に発達していたといえる.そののちに退行的な変化が起るのである.

 切歯管Ductus incisivusと切歯乳頭Papilla incisivaはヤコブソン器官と密接な関係にある(130, 132頁).哺乳動物でも実際にはたらいているヤコブソン器官は,その動物6嗅粘膜と同じ構造をもっている.

 嗅覚の中心伝導路については図486,  505および417,  443頁をみられたい.

 

II. 味覚器Organon gustus, Geschmacksorgan

 嗅覚器が呼吸器の初まりの部分にあるのと同様に,味覚器は消化管の入口のところに位置を占めている.味覚の主要な器官は舌粘膜であるが,その全領域というわけではなくて,舌背と舌外側縁との一部が関係しているにすぎない.まれには舌下面に少数の味蕾が散在することがある.味覚についてその次に問題となるのは軟口蓋の口腔面である.口腔粘膜に味覚神経が終るところでは,上皮が花のつぼみのような配列を示す.それでこのような味覚の終末器官を味蕾Caliculi gustatorii, Geschmacksknospenとよぶ.粘膜が味蕾をもつ場所は有郭乳頭・茸状乳頭・葉状乳頭のほかに,なお軟口蓋の前面である.

 味蕾に似た上皮構造物が喉頭前庭Vestibuluin laryngisの粘膜にもみられるが,これはやはり味覚器であるのか,それとも下等脊椎動物の神経丘に相当する単純知覚器官であるかが確定していない.

 味蕾の微細構造をのべるには,有郭乳頭Papilla circumvallataのそれから話をはじめるのがよかろう(図74).この乳頭の上面は平坦もしくは浅いへこみをなしており,その周りの舌粘膜の部分とはたいてい同じ高さであるが,乳頭をめぐって2mmまでの深さのある内形の裂隙,すなわちWallgrabenによって隣接部から境されている.そしてこの濠の外壁は輪郭Ringwallをなしている.濠の底には多数の漿液膜の導管が開口する.この腺は分泌物を濠のなかへ排出し,その分泌物が味覚を起す物質をとりあげて,これを近くの味蕾に導いたのち,ま笑濠の外へだしてしまうのである(洗浄腺Spüldrüsen).

 有郭乳頭を外から被っているものは重層扁平上皮である.上皮が濠に面したところでは乳頭の上面におけるよりうすくなっていて,またここでは2次乳頭sekundäre Papillenがみられない.(この2次乳頭は有郭乳頭の上面ではかなり多数存在するのである.)濠に面する外側の壁にも2次乳頭がない.これに反して有郭乳頭の側面では,たくさんの味蕾がいく列にもなって,規則的な間隔をおいてならんでいる.少数の味蕾は濠をへだててむかい合っている輪郭の上皮にもみられる.

 1つの有郭乳頭がもつ味蕾の数は相当に多いのであって,ブタでは大きな有郭乳頭が2つあって,それぞれが約4760の味蕾をもっている.

S.579   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る