Rauber Kopsch Band2.589   

 強膜の結合組織束は一定の構築法則に従って交織しているのであって,それはBecher(Verh. anat. Ges.,1932)がウシの眼を研究してくわしく記載したのである.ほとんど伸展しえない結合組織束ではあるが,それが波状をなしていることと,また交叉して網の目をなしていることのために,強膜は伸展できるのであって,これは皮膚について知られているのと同様である.ところで眼球の各部分で強膜の構築的および力学的性状が異なっており,前方部は固くて変形しがたいが,後方部はそれにくらべると曲げやすくできている.

ほぼ眼球の諸直筋の腱が付着するあたりで,結膜Tunica conjunctivaが強膜を被いはじめる.この部分の結膜は眼球の領域にあるので眼球結膜Tunica conjunctiva bulbiとよばれて,重層扁平上皮と丈夫な結合組織性の基層および疎な性状の結膜下組織からなっている(図605, 623).

 強膜がどんなぐあいに角膜と結合しているかは,すでに 585頁で述べた.ここではさらに強膜と角膜の境の内面のところをみよう.そこには強膜静脈洞虹彩角膜角海綿質とがある.

 強膜静脈洞Sinus venosus sclerae(シュレム管Canalis Schlemmi, Schlemmscher Kanal(図623)は強膜の前縁のところで,その内壁にある.これは内皮をもって被われた輪状の静脈洞で,たいてい単一の管をなしている.しかしところによっては2本ないし3本に分れ,それがまた相合するといったぐあいで,強膜静脈叢Plexus venosus sclerae をつくっている.シュレム管は静脈系と開放性に結合しているだけでなく,(眼の血管の項を参照せよ)虹彩角膜角海綿質を介して水様液を吸いとるので,眼球のリンパ系とも開放性に結合しているのである.

 しらべられたすべての脊椎動物で,眼房の陥凹部Kammerbucht またはそこの壁のなかに,壁のうすい静脈叢があって,これは水様液で洗われている,下等の脊椎動物ではシユレム静脈洞は脈絡膜の方に流れでるが,高等なものでは結膜の方へ流れて出る.--死体においてこの静脈洞が水様液で充たされているかあるいは血液がはいっているかは,全く前眼房と毛様体静脈との圧力の関係によるのである.

 虹彩角膜角海綿質Spongium anguli iridocornealis(図623)は前眼房の虹彩角膜角Angulus iridocornealisにある小梁装置であって,横断面では三辺形をなしている,すなわちその1辺は前眼房に向き,第2辺は毛様体筋に向い,第3辺は虹彩に向かっていて虹彩の毛様体縁と幅ひろく結合している.この小梁装置は弾性物質に近い性状で,硬い原線維束からなり,それが網状につながりあって多数の大小いろいろのすきまをもっている.このすきまが前眼房とつながり,水様液でみたされている.個々の小梁は角膜の後面や虹彩の前面と同じく内皮で被われている.

 強膜の血管すなわち強膜上小枝Ramuli episcleralesは非常に微が少くて,動脈の方は毛様体小枝Ramuli ciliares,脈絡膜動脈および虹彩動脈Aa. chorioideae et iridisから来ている.これに反して強膜を貫く血管の数は多くて,これに前・中・後の3群がある.すなわち強膜は角膜縁の近くでは毛様体小枝によって貫かれ,赤道部では渦静脈Vv. vorticosaeによって,また視東侵入部のまわりでは脈絡膜動脈と虹彩動脈Aa. chorioideae et iridisによって貫かれている.強膜のリンパ路については液細管と内外のリンパ嚢(眼球周囲隙・脈絡外隙)をすでに述べた(後述の「眼球の脈管」の項をもみよ).強膜の神経は一部は自身に分布するもの,一部はここを通過するものである.通過するものとしては毛様体神経 Nn. ciliaresがある.電膜じしんに分布する神経は,強膜と脈絡膜のあいだを走る毛様体神経から分れて,結合組織の線維束のあいだで,その端が太くなった自由終末をなして終わっている.

 哺乳動物およびヒトの強膜では,血管壁に分布する神経終末のほかに,知覚性の終末が腱性線維の束のあいだにあり,また強膜の結合組織細胞の細胞体に終る栄養終末trophische Endigungenがある.

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最終更新日13/02/03

 

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