Rauber Kopsch Band2.596   

 虹彩には前面Facies anteriorと後面Facies posteriorがあり,さらに自由縁と固定縁とがある.固定縁は毛様体についているので毛様体縁Margo ciliaris, Iriswurzel(虹彩のつけ根の意)ともよばれる.この縁はさらに虹彩角膜角海綿質(589頁)によって強膜角膜縁についている.つぎに自由縁瞳孔縁Margo pupillarisとよばれ,死体の眼では固定縁から4~5mmはなれている.この距離がすなわち虹彩という輪盤の幅である.虹彩全体の直径は10~12mmである.前面は内方の細い帯と外方の広い帯とにわかれ,それぞれ小虹彩輪Anulus iridis minor(Zona pupillaris)と大虹彩輪Anulus iridis major(Zona ciliaris)とよばれる.両帯を貫いて放射状のすじがたくさん走っている.瞳孔が開大しているときには大虹彩輪のなかに不完全な輪状の溝と高まりが生じ,これを虹彩槢Rugae iridisという.

 虹彩の厚さは中くらいの収縮のときに0.4mmほどである.また虹彩の色は個体によって実にさまざまである,金髪の人では青ないし灰色のことが普通で,緑を帯びていることさえある.褐色または黒色の頭毛の人は虹彩もたいてい暗い色調で,褐色ないし黒褐色を呈し,虹彩の全体が一様な色のこともあり,霜降りになっていることもある.(小口昌美(日本医科大学雑誌,8巻3号,1937)によれば日本人の虹彩の色は乳児期には黒褐色が最も多く,幼児期には濃褐色,学童期から壮年期まで褐色,老年期には褐色および淡褐色が最も多いという.)青い虹彩では虹彩の結合組織層に色素がない.しかし後面の色素はどの場合にもある.褐色の虹彩では結合組織性の虹彩支質に,程度の差こそあれ色素がかなり強く沈着している.白子の虹彩はまったく色素を欠き,多数の血管のために虹彩が赤くみえ,光線をさえぎる隔膜としての虹彩の使命をごくわずかしか果しえない.

 虹彩の諸層:虹彩はかなり多数の層からできているが,それらは発生の由来によって中胚葉性のものと外胚葉性のものとの2群に分けることができる.

 中胚葉性のもの:前面の内皮と虹彩支質.

 外胚葉性のもの:瞳孔括約筋と散大筋,虹彩色素上皮層Stratum pigmenti iridis,網膜の虹彩部Pars iridica retinae.

 前面の内皮vorderes Epithelは角膜内皮と虹彩角膜角海綿質の小梁の内皮とに直接ついている.若い人では虹彩の前面の内皮はひとつづきの層をなすが,年とった人ではこれが特有な断裂を示している.小虹彩輪のひだが永久的なものになると,その間のくぼみのところで内皮の断裂が生じる(Koganei).(東京大学初代の解剖学教授,小金井良精がベルリンで発表した論文,Untersuchungen über den Bau der Iris des Menschen und der Wirbelthiere. Arch. f. mikr. Anat. 25,1~48,1885. (小川鼎三))

 虹彩支質Stroma iridis, Irisstromaは虹彩の前面に接したところで密になって前境界層vordere Grenzschichtをなし,そこでは支質細胞Stromazellenが多く集り,線維は少くなっている.結合組織細胞はクモ(蜘蛛)のような形で,3~4層をなしてかさなっている.表面の方からみると前境界層は,結合組織細胞の突起によってできた密な網の構造をあらわしている.

 虹彩支質のうちで,前境界層より後方にある部分は血管層Gefäßschichtとよばれる.ここは血管と神経をふくむ層で,虹彩の主な部分をなし,疎性結合組織の構造をしている.小虹彩輪の範囲で,この層のなかに瞳孔括約筋がある.

[図622]瞳孔括約筋(s)と瞳孔散大筋(D)の関係を示す模型図(Miyakeによる)

v1, v2はsとDの間のつながり, aは支質内へ伸び出した部分.

[図621]瞳孔括約筋と同じく散大筋,ウマの虹彩を漂白して放射状方向に切ったもの×70 (R. Miyake, Verh. phys.-med. Ges. Würzburg,1901)

左方が瞳孔の側,右方が毛様体の側

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最終更新日13/02/03

 

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