Rauber Kopsch Band2.602   

γ)網膜の視部Pars optica retinaeがつづく.この柔かい膜は新鮮な状態ではすき通っている.しかし死後,あるいは適当な固定によって不透明になったものでは,その毛様体の後縁のところを肉眼でよくみると,網膜の視部が毛様体部に移行する場所が,細かいギザギザのある縁をなしていることがわかる.これが鋸状縁 Ora serrataである(図618).

 鋸状縁は外側部よりも内側部がいくらか前方に伸び出している.すなわち中心がずれているのであって,言葉をかえていえば,毛様体輪は眼球の内側部より外側部でいっそう広いのである.

 鋸状縁の鋸歯の数はもともとは(個体発生的に)毛様体の大突起の数(ほぼ70個)と一致するものであるが,のちの状態になるには思いきつて削減のおこることが必要である.鋸状縁の状況ははなはだまちまちで,鋸歯がほんの中しわけ程度のこともあり,とくに眼球の外側部では完全にそれが無いこともあるが,内側部では最もよく,しかもいつも間違いなく発達している.こんなわけで鋸状縁のところでは鋸歯の数ばかりでなく,網膜の縁の様子が全般的に著しい変異を示すのである.

 眼底部の網膜視部では,2つの場所がその特殊性によって他の部分とは著しく違っている.その1つは視神経が網膜に侵入するためにできる視神経乳頭であり,もう1つは黄斑とよばれる場所である.

1. 視神経乳頭Papilla fasciculi optici(図605, 606, 626)は眼球の後極より約4mm内側にあって,直径1.5~1.7mmの円くて白い斑紋をなしている.乳頭の中央の部分は軽いへこみになっている.これが乳頭陥凹Excavatio papillae fasciculi opticiであって,視神経の中軸を走ってきた網膜中心動静脈がここからでてくるのが見られる.

2. 黄斑Macula luteaと中心窩Fovea centralis(図605).網膜の黄斑は視神経乳頭の4mm外側にあって,同時に乳頭と同一の水平面よりはやや下方にある.黄斑は黄色い色素をもっていることが特徴である.その形は長軸を横にした卵円形で,その中央が強くへこんでいる.この落ちこんだ黄斑内の凹部を中心窩とよぶのである.中心窩の位置はほ穿眼球の後極に当たっている.

 黄斑は横の直径がおよそ2mmであるが,中心窩は0.2~0.4mmにすぎない.視神経乳頭の中央と中心窩との距離は3.915mmである.

 新鮮な眼では,したがってまた生体の眼底鏡像では,黄斑および中心窩のところが黄色ではなくて,赤褐色ないし褐色にみえ,中心窩のところは薄くて透明なので,その下にある層がすき通ってかすかにみえる.剥離した網膜や死んでしまつた眼では,黄斑の黄色い色調がはっきりと現われるが,それは網膜が不透明になり,その下にある組織がすけて見えなくなるからである.

 網膜は乳頭の縁から鋸状縁へと,次第に厚さを減じてゆく.乳頭のところでは約0.4mmの厚さがあるが,そこから内側へ8mmはなれたところではわずか0.2 mmとなり,さらに鋸状縁のそばでは0.1mmに減じる.乳頭より外側では,黄斑と中心窩があるために厚さの変化の様子も違っている.黄斑の最も厚いところは0.49mmにも達するが,中心窩の底となるとわずか0.1~0.08mmあるのみとなる.

 新鮮な網膜をしばらく光線にさらしたものは無色であるが.光の来ないところに置いて色の消えないようにしたどきの網膜は赤紫色である.その赤い色調がなくなるのは組織が死滅するためではなくて,光の作用なのである.この色素は視紅Sehpurpur, Rhodopsinとよばれ,網膜の杆状体の外節についている.視紅は黄斑と中心窩, ならびに鋸状縁につづく幅3~4mmの辺縁部には存在しない.

 網膜の諸層:視神経乳頭から鋸状縁までの網膜は多数の層によって構成されている(図630).それを外方から内方へとみてゆくと,すでに述べた色素上皮層につ穿いて,杆状体Stäbchenと錐状体Zapfienの層がある.つぎに表面に平行して外境界膜Membrana limitans externaという薄い膜があり,これは横断面でみると鮮鋭な線をなしており,杆状体と錐状体をいわゆる外顆粒層äußere Körnerschichtから仕切っている.しかし外顆粒層というのは,杆状体と錐状体の層の一部であって,その核をもっている部分にほかならないのである.つまり外顆粒層と杆状体錐状体層とがいっしょになって視細胞層Schicht der Sehzellenという1つの全体をなすのである.

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最終更新日13/02/03

 

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