Rauber Kopsch Band2.609   

 網漠から起つた視神経線維の一部が外側膝状体に達して,そこの神経細胞のまわりに終末小枝を形成しながら終る様子についてはすでにのべた(410,  442,  443頁).網膜から起る視神経線維の残りの部分は同様にして四丘体の上丘に終るのである.すなわち視神経節Ganglion opticum(網膜の神経細胞層をさす)から発する線維はその神経突起を上丘の表層を占める灰白層へあたえ,ここでそれぞれ1つの終末小枝に分れて上丘の神経細胞と接触する.この神経細胞からでる神経突起の一部はその付近で終り,一部は放射状に上丘内のいっそう深い層へ達する.しかし網膜の内方の主要部で終る網膜の外来線維Fremdfasernがこれらの場所のどこから起こっているかは,まだよく分かっていない(図636).

 視神経の交叉はヒトでは部分的なものである.非交叉性すなわち同側性の視路が実によく発達していて,交叉性の線維の1/3またはそれ以上にも達している(Cajal,1899).

 各側の視索Tractus opticusに非交叉性(同側性)の視神経線維と交叉性のそれとがあって,その中にはまた瞳孔線維Pupillarfasern(これは網膜から上丘にいたり,そこから動眼神経の括約筋核に達して,瞳孔反射の発現にあずかる)がふくまれる.さらに遠心性線維zentrifagale Fasern(Cajal, Dogiel)もあって,視覚の諸中枢から起り,おそらく網膜の刺激伝導機能に必要な何らかの影響を眼におよぼしている.(この線維が網膜の単純知覚性のものとは考えにくいのである.)視索にはさらに黄斑からきた黄斑束(=乳頚黄斑束)が交叉束と非交叉束とに分れて走っている.最後にまた両側の網膜を交連性につないでいるらしい線維がある.

 網膜の血管については眼球の血管の項を見られたい(613,  614頁).

6. 水晶体Lens crystallina, Linse(図605, 637643, 645)

 水晶体はまるい輪郭で,両面凸のレンズの形をしている.水晶体には弯曲の弱い前面Facies anterior lentis,弯曲の強い後面Facies posterior lentis,水晶体赤道Aequator lentisのほか,さらに前極Polus anterior lentisと後極Polus posterior lentisがある.両極のあいだを結ぶ線が水晶体軸Axis lentisである.

 水晶体軸は4mm,赤道面の直径は9~10mmである.前面の曲率半径もやはり8.3~l0mmであり,後面のそれは6.5mmである.近いところを見るために調節すると,水晶体の厚さが増し,そのさい前面の弯曲がとくに強くなる.両面とも弯曲面が正確に球面の一部ではなくて,前面は楕円に,後面は抛物線に似た曲り方をしている.水晶体の平均の重さは成人で約0.22 grである.

 屈折率は1.44~1.45で,複屈折性を示すものである.子供は成人より水晶体の弯曲がつよい.老人になるといっそう平たくなる(図637).

 水晶体は虹彩と硝子体とのあいだにあって,前面は中央部が瞳孔に面している.中央部につづくところでは,水晶体前面が虹彩の小虹彩輪と接しているが,前面の辺縁部は虹彩から離れていて,虹彩ならびに毛様体とともに後眼房Camera oculi posteriorをかこんでいる(図605).

 水晶体の後面は硝子体の前面の硝子体窩Fossa hyaloideaというくぼみにはまっている.水晶体の辺縁部は繊細な水晶体小帯Apparatus suspensorius lentisによって毛様体につなぎとめられている.毛様体の大突起は水晶体の縁まで達していない(図605, 617, 645).

 水晶体をなしている物質は生体の眼では水のように透明で,若い人では無色であるが,年をとると少し黄色みをおびる.約60%の水分と35%の蛋白質をふくんでいる.水晶体被膜Capsula lentisとよばれる嚢が水晶体質Substantia lentisを包んでいる.水晶体質には水晶体皮質Cortex lentisと水晶体核Nucleus lentisが区別されるが,両者ははっきりした境なしに移行しあっている.

 水晶体には血管神経もない.

 組織学的にみると水晶体には3つの異なった構成部分がある(図638640).すなわち水晶体被膜水晶体上皮水晶体線維(これは形態学的には上皮細胞)である.

[図637]いろいろな年令のヒトの水晶体を側方から見たところ(Quain)

a 新生児, b 成人, . c 老人. 3 図とも前面を左にむけてある.

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最終更新日13/02/03

 

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