Rauber Kopsch Band2.610   

1. 水晶体被膜Capsula lentis, Linsenkapselはガラスのように透明な膜で,水晶体質の全表面を包んでいるが,どこでも同じ厚さというわけではない.

 この被膜は水晶体の前極でもっとも厚く(10~15µ),赤道へ近づくほどに次第に薄くなり,赤道のうしろでまた厚くなり,それ泳ち次第に厚さを減じて後極のところで最もうすくなる(5~7µ) (Rabl, C., Z. wiss. Zool., 67. Bd. ).

 水晶体被膜の断片は強い弾性のために外方へ巻いてしまう.この膜は化学的には膠原線維性の物質にも弾性線維性の物質にも属さない.濃度の高い酸に対してごくわずかの抵抗しか示きず,水の中で煮ればとけるけれども,冷やしても「煮こごり」にならないのである.またトリプシンに溶ける.これといちばん縁の近いのは筋鞘Sarkolemmaと腺の基底膜(Grundhäutchenである.水晶体被膜の断面を強拡大でみると,表面に平行した細かい縞がみられる.この被膜は層板Lamellenの集まりで,それぞれの層板に分離できるのであって,上述の縞はこの層板に相当している(Berger).被膜の由来をたずねると水晶体細胞の産物であって,従って純粋に小皮性のものである.このことは下等の脊椎動物で確かめられている,高等な脊椎動物とヒトでは,ほとんど間違いなくこれと同じことがいえるのであるボ,その証明は下等の脊椎動物におけるほど確かには出されていない.なぜなら,すでに発生の初期に中胚葉の細胞と血管が水晶体の周りに現れるので,水晶体の形成に結合組織があずからないということが,下等動物の場合偉ど決定的にはいい切れないからである(Rabl, C., Z. wiss. Zool., 67. Bd).

2. 水晶体上皮Epithelium lentis, Linsenepithel(図639, 640)は水晶体の前面にだけあって単層の細胞からなっている.この細胞は子供では丈のひくい円柱形であるが,成人ではもっと扁平である(Rablによれば2.5µ).赤道に近づくほど丈が高くなって(9µ, Rabl),ついには水晶体線維に移行する.

3. 水晶体線維Fibrae lentis, L insenfasern(図638)は6つの側面をもつヒモ状の細胞で,長さはまちまちで(表層のものは7~10 mm),幅は7~12µ, 厚さは2.5~5.5µである.核は卵円形で顆粒と核小体をもち,細胞の全長のほぼ中央のところにある.しかし中心部の水晶体線維には核がない.

 水晶体線維は放射状に列または層板をなして並んでいる.この配列は下等な脊椎動物でははなはだ規則正しいものであって,それにくらべれば高等な脊椎動物では規則正しさがずっと少なくなり,ヒトでは最も不規則になっている(図640).

 層板の数は成人ではざっと2100から2300である(C. Rabl).

 水晶体線維の形は場所によってまちまちである.今まで述べたのは赤道の近くにある線維についてだけのことである.これらの線維はRablのHauptfasern(主線維)あるいはGrundfasern(基礎線維)というものであって,核をもち,ヒトでも規則的な列びかたをしている(図640).

[図638]ヒトの水晶体の赤道部における水晶体線維

[図639]家兎の水晶体縁を通る経線方向の断面(Babuchin)

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最終更新日13/02/03

 

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