Rauber Kopsch Band2.612   

硝子体の前面はへこんで硝子体窩Fossa hyaloideaをつくっており,水晶体がここにはまっている.硝子体は視神経乳頭から鋸状縁のところまで,すなわち後方の全領域を硝子体膜Membrana hyaloideaという膜で包まれている.この膜は鋸状縁より前方では毛様体と虹彩とのごくうすい内方の壁層となって続いている.また硝子体膜でつつまれる透明な内容は,水分に富む硝子体支質Glaskörpergallerteである.(日本解剖学会制定の用語ではStroma corporis vitreiは「硝子体支質」であるが,本書で説くそのものは「支質」というには全く当らぬので,仮りに「硝子体支質」とする.(小川鼎三))

1. 硝子体膜と水晶体小帯

 硝子体膜はガラスのように透明で,うすいけれども丈夫な構造の膜であり,その外面は網膜の内境界膜に密接し,内面は硝子体支質Stroma corpotis vitreiに密につづいている.その内面には紡錘形や円みを帯びた細胞で突起をもつものが散在している.これは結合組織の細胞である.

 毛様体と水晶体と硝子体膜のあいだにはかなりの空間があって(図645),そこには水晶体をつなぎとめているごく華奢なひも状の装置がある.これが水晶体小帯Apparatus suspensorius lentisで,小帯線維Fibrae suspensoriaeという多数の線維が集まってできている.これは毛様体の全円周から起り,別々の束をなして水晶体被膜の赤道部に達している.

 水晶体小帯の線維団が存在する場所は, 図645で容易にわかるように後眼房Camera oculi posteriorに属しており,従って後眼房と同じくリンパでみたされている.この場所は小帯隙Spatium apparatus suspensoriiとよばれる.毛様体の大突起の前端部同志のあいだが横走する橋わたしによって結ばれて,その中へ毛様体の結合組織が侵入し,かくして輪状板Lamina circularisという1つの輪ができている.輪状板の前面よ色素上皮と網膜によって被われるが,この面と虹彩の毛様体縁とのあいだに後眼房陥凹Recessus camerae posteriorisが伸びてきている.

 また輪状板の後面と硝子体膜とのあいだには小帯隙陥凹Recessus spatii apparatus suspensorii lentisがある(図646).

 図645は小帯線維の走行を示している.後方からくる線維は主として毛様体突起のあいだの谷間をかすめて前方へ走り,水晶体の赤道より前方の部分につく.これに対して毛様体突起そのものから起る前方の線維は,前者と交叉しながら走って,水晶体の赤道より後方の部分につく.そして両者のあいだに中間の線維というべきもの,があって,水晶体の赤道自身にている.従って水晶体への付着区域はかなり広いのである.同時に注目を要するのは,本来の水晶体被膜の上にあるもう1つ別の被膜に線維が付着していることである.これはレチウスの被膜周囲膜Membrana pericapsularis(Retzius)というもので, 図645では数ヵ所で本来の水晶体被膜からある程度もち上つてみえている.

2. 硝子体支質Stroma corporis vitrei, Gtaskörpergallerte(図644)

 これは水分を98%まで含んでいる.濾過すると硝子体液Humor corporis vitreiがでて,それとともに重量の大部分を失ってしまう.この液はいろいろな塩類や有機成分を含み,ごくわずかの蛋白質も溶けている.液体成分が除かれたあとに残る固形成分は全重量の0.21%にすぎない.

 硝子体支質は無構造なものではなく,むしろかなり多量に糸のように細かい透明な線維といろいろな形の結合組織細胞とを含んでいる.また遊走細胞(白血球)も硝子体にあらわれることはすでに述べた.

 線維は硝子体の内部を貫いて細かい叢をなしているが,この叢に特別な線維の走りかたを見うるのはわずかな場所にすぎない.

[図644]成人の硝子体線維

S.612   

最終更新日13/02/03

 

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