Rauber Kopsch Band2.622   

また側方の腱束は,内側では滑車の下で,外側では上下の涙腺のあいだで,いずれも骨に付着している(図622).

 下眼瞼では上眼瞼挙筋に相当するような特別の牽引筋がない.しかし下直筋と下斜筋とから起こって眼窩隔膜ならびに眼瞼板に結合する筋膜葉が下眼瞼にかなり強い支えをあたえるとともに,それらの筋が収縮するさいに眼輪筋とある程度拮抗するはたらきをしている.

 両眼瞼にはさらにまた瞼板筋Mm. tarseiという平滑筋がひろがっている.上眼瞼の瞼板筋は上眼瞼挙筋の腱が眼瞼板にひろがって終る部分につづいていて,その後面を占めて挙筋の筋質部の前端部から眼瞼板にまで伸び,後者に停止している(図652).また下眼瞼の瞼板筋は結膜の直ぐ下にあって結膜円蓋から瞼板縁にまで伸びている.

 さていままでに述べた諸層のうしろには,眼瞼の瞼板部に眼瞼板そのものがあり,その後面には眼瞼結膜がついている.そのあいだの結合はかたくてずれ動くことがない.これに対し眼瞼の眼窩部では,疎な性質の結膜下組織が結膜をその基盤をなす部分と結びつけている.結膜の表面はここでは平滑であるが,これに反して瞼板部では多数の溝や小窩があるために,ビロードのような感じである.これらの溝やくぼみは網状にたがいに結合し,結膜のいわゆるBuchtensystem(凹窩系)を成すとともに,他方また表面に多数の小突起を生ぜしめており,かくして結膜のビロード状の部分が現出する.しかし後眼瞼縁にごく近いところでは,結膜がまた平滑になっている.この部分には大きい乳頭があるのだが,それらによって生ずるデコボコは,それを被う上皮によって完全に均らされてしまうのである.

 結膜の上皮は眼瞼縁のところだけでなく,後眼瞼縁をこえてさらに1/2~1mmのあたりまでは表皮に似た性状を示すが,それから先は薄くなって重層円柱上皮である.これは上眼瞼では2層であるが,下眼瞼では3層または4層である(図655, 656).杯細胞Cellulae caliciformes, Becherzellenが存在するが,その数はまちまちである.

 結膜の結合組織性の基層すなわち結膜固有層は,瞼板部の結膜の大部分において細網組織の性質をしめし,そこにいろいろな量のリンパ球や形質細胞がみとめられる.

 日本人の眼瞼結膜の上皮には眼瞼縁に近いところに色素があり,稀には眼瞼の中ほどの高さまで色素がある.(松岡秀夫(日眼会誌36巻10号,1932)によると,日本人の健常結膜では,その眼瞼縁部には被検例の100%に,円蓋部には85%に,その中間部には67%においてメラニン色素の沈着を見る.色素は上皮細胞内,上皮細胞間,ときに結膜下に存在する.(小川鼎三))しかしヨーロッパ人でも程度はごく弱いけれども,やはりここの上皮に色素がふくまれることがある(Adachi).黒人ではこの色素が広くゆきわたっている(Pröbsting).

 上下の眼瞼ともに腺がはなはだ豊富である.まず眼瞼の皮膚部には次のものがある:

1. 脂腺Glandulae sebaceae, Talgdrüsenは毛に付属しており毛包から生ずるが,ここには小さいかだちのものしかない.随毛にも脂腺が存在する.

2. 汗腺Glandulae sudoriferae, Schweißdrüsenは小さいものが少数ある.これに属する特別なものに:

2a. 腱毛[]Glandulae sudoriferae ciliaresがある.これはモル腺Mollsche Drüsenともよばれ,普通の汗腺より変形したもので,かえって単純なかたちをした糸球状腺で,眼瞼縁にあり,毛包腔に開口するのが常である.

3. 瞼板腺Glandulae tarseae(マイボーム腺Meibomsche Drüsen) (図652, 654).

 これは上下の眼瞼の眼瞼板のなかにある細長い胞状腺で,眼瞼板のほず全高を占め,後眼瞼縁の近くで小さい孔をもって開口している.上眼瞼に約30個あり,下眼瞼ではそれよりやや少ない.それぞれの瞼板腺は眼瞼縁に向かって垂直に走る1本の長い導管と,この導管の側方について眼瞼板の厚さを越えることのない単純または複合の多数の腺胞からなっている.

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最終更新日13/02/03

 

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