Rauber Kopsch Band2.635   

IV. 平衡および聴覚器Organon status et auditus, Raum-und Gehörorgan

まえがき

 いわゆる聴覚器Gehörogranには2つの大きな役目がある.それは身体の平衡を保つことと,音を聞くことである.

構成

 平衡覚と聴覚の刺激を感受する部分は体表面の皮膚とくに表皮の1領域が,奥深いところへ落ちこんで生じたものであって,これに第8脳神経の線維群がきて終わっている.その表皮の1片というのは,ここへ来ている神経の大きさにくらべれば著しく小さいのであって,もともと小脳と延髄の境のところにあるが,すでに胎生の早期に頭部の表皮の下へ落ちこんで簡単な西洋ナシの形をした小胞をなし,まもなく他の表皮の部分とのつながりを完全に失ってしまう.ついでこの小胞は一連の発生過程によって形を変えて,のちには図665で示すような複雑な完成型に達する.この器官の内部には内リンパとよばれる液体がはいっている.この器官の壁は,発生のおこりをなした上皮がさらに発達していったものにほかならない.外皮の場合と同様に結合組織性の要素がこの上皮に付着していて,これが器官全体を支持すると同時に,脈管や神経を導いている.この器官はその複雑な形のために膜迷路とよばれる.その後部は平衡覚にあずかり,前部は聴覚器に属する.

 膜迷路は側頭骨の錐体乳突部のなかの骨迷路におさまっている.骨迷路は膜迷路と似た形ではあるが,それより大きくて,いくらか簡単な形をした骨室である.膜迷路のうちの小さい1部分だけが骨迷路からはみだしている.それは内リンパ嚢Saccus endolymphaceusすなわち迷路陥凹Recessus labyrinthiであって,脊椎動物の中にはこの部分が強く形成ざれて,頭蓋腔および脊柱管のかなり広い場所をみたしているものが少くない.

 これら両部分からなる迷路はまた内耳とよばれるが,その外側にはいっそう大きい第2の嚢がある.これは頭腸Kopfdarmに属する広い粘膜嚢であって,それの一端は生涯を通じて咽頭腔に開口しているのに対し,他端はひろくなって行きづまりの嚢を形成している.この構造の全体がすなわち耳管鼓室嚢Tuben-Paukensäckchenであって,一種の腸管憩室という意味のものである.出生後しばらくのうちに耳管鼓室嚢は鼻腔と咽頭腔から流れこむ空気をとり入れる.空気をふくむようになったこの部屋が鼓室であって,耳管によって咽頭腔に開いている.鼓室と耳管とを一緒にして中耳という.その位置的関係については図666がはっきりと示している.この図では耳管を切り開いてあって,それが露出された鼓室(骨迷路の外側にある)に続いている.鼓室小骨は一見鼓室の内部にあるようであるが,実は鼓室の中へ突出しているだけであって,やはり鼓室の粘膜で被われているのである.3つの鼓室小骨は鰓弓の骨格に属するものである.

 鼓室の外側壁に向かって頭の壁の外面からはじまる立派な管がやってきて相接する.この管が外耳道である.外耳道の外側端には音をとりこむ盃状の耳介がついており,両者が一緒になって外耳とよぼれるロート状の器官をつくっている.外耳と中耳の内腔をたがいに隔てている薄い板が鼓膜であって,これは頭の壁の一部がはなはだうすくなったものにほかならない.内耳が第8脳神経の分布をうけるのに対して,外耳と中耳は音波をうけ入れて伝導し,これを内耳へ送りとどけるという大事な仕事を受けもつのである.

[図665]膜迷路とそれに神経の終末が存在する場所(模型図)×2

S.635   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る