Rauber Kopsch Band2.649   

2. 鼓室Cavum tympani, Tympanum, Paukenhöhle
a)骨性の周壁(第I巻図 232, 233)

 鼓室には6方面の壁がある.

1. 上壁すなわち鼓室の天井は室蓋壁Paries tegmentalisとよばれ,鼓室蓋Tegmen tympaniという薄い骨板によってできている.鼓室蓋は側頭骨の錐体乳突部に属する.

2. 下壁は頚静脈壁Paries jugularisとよばれ,また鼓室の床であるから鼓室床Solum tympaniともいう.これは側頭骨の錐体の下面,とくに頚静脈窩に相当している.まるみをもった凹面の狭い面で,たいてい小胞状のくぼみがいくつかある.上方に開くこれらの小さい部屋は鼓室蜂巣Cellulae tympanicaeとよばれる.茎状突起の上端に相当して,中耳の下壁にしばしば茎突隆起Prominentia styloideaという高まりがある.下壁にはまた鼓室小管Canaliculus tympanicusおよび下方の頚鼓小管Canaliculus caroticotympanicusの鼓室口がある.ちなみに上方の頚鼓小管は鼓室の内側壁に属している.

3. 鼓室の前壁は頚動脈壁Paries caroticusとよばれ,内側の方は頚動脈管の骨性壁でできている.外側には筋管総管が開いている.

4. 後壁は乳突壁Paries mastoideusとよばれ,その上部に乳突洞Antrum mastoideumと乳突蜂巣とに通じる入口がある.この入口を乳突洞口Aditus ad antrum mastoideum という.後壁にはそのほかに重要な錐体隆起Eminentia pyramidalisがあり,その先端にはアブミ骨筋の細い腱がとおるための小さい孔があいている.錐体隆起のなかは1つの部屋になっていて,この部屋はアブミ骨筋を容れるためのものであり,またここから顔面神経管につづいている.小橋Ponticulusという1本の骨小棒が錐体隆起から岬角へのびている.錐体隆起の外側に鼓索神経小管の鼓室口 Apertura tympanica canaliculi chordaeがある.

5. 外側壁は鼓膜壁Paries membranaceusとよばれ,側頭鱗の一部と,鼓膜およびそれにつくツチ骨柄によってつくられている.

6. 内側壁は迷路壁Paries labyrinthicusとよばれ,最も多くの特異性を示している,すなわち

α)岬角Promunturiumは鼓室の迷路壁の大きな部分を占めて円い丘のかたちをしている.その表面には岬角溝Sulcus promunturiiが鉛直の方向に走っている.岬角は蝸牛窓を被うように高まって,この窓への入口を蝸牛窓小窩Fossula fenestrae cochleaeというロート状の空所にしている.岬角溝の下端は,錐体小窩からはじまる鼓室小管が鼓室に開く口である.岬角溝の上端は前庭窓と筋管総管中隔のサジ状突起とのあいだにある1つの微細な孔に終わっている.岬角のうしろには鼓室洞Sinus tympaniという1つの深いくぼみがある.

β)前庭窓Fenestra vestibuli, ovales Fenester(卵円窓)は迷路の前庭に通じる腎臓形の孔で,アブミ骨の底によって閉じられている.前庭窓は前庭窓小窩Fossula fenestrae vestibuliというくぼみの中にある.前庭窓の下縁はかるい凹の曲りを示す.

γ)蝸牛窓Fenestra cochleae, rundes Fenester(正円窓)は岬角によって前庭窓からへだてられている.これは蝸牛の鼓室階に通じる孔で,第二鼓膜Membrana tympani secundariaによって閉ざされている.第二鼓膜は蝸牛窓稜Crista fenestrae cochleaeという骨稜に付着している.

δ)前庭窓の上方には顔面神経管のうすい壁(ところによってはこの壁が不完全であり,またすき通ってみえる)が鼓室のなかへ突出している.これが顔面神経管突隆Prominentia canalis n. facialisである.この管ははじめ後方へ走り,それから下方へむかい,また1つの開口によって錐体隆起内の部屋とつながっている.

ε)岬角の上方には鼓膜張筋半管Semicanalis m. tensoris tympani(文字どおり半管のこともあり,完全な1管をなすこともある)の終端がある.

S.649   

最終更新日13/02/03

 

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