Rauber Kopsch Band2.653   

その末端部は少しく内方へ曲がって,急に細くなる.その端には小さい卵円形の結節部があって豆状突起Processus lenticularisとよばれる.成人ではこの部分がキヌタ骨と骨性に結合している.短い方の突起は短脚Crus breveとよばれ,ほ羽く平に後方へ伸びて急に細くなり,後キヌタ骨靱帯Lig. incudis posteriusという結合組織線維束によってキヌタ骨窩のなかで乳突洞口の底に固定されている.

3. アブミ骨Stapes, Steigbügel

 アブミ骨には1つの小頭と2つの脚と1つの基底板がある.アブミ骨小頭Capitulum stapedisは外方に向かっていて,その外面には軟骨で被われた1つの浅い圧痕があり,ここが豆状突起と結合する.また基底板はアブミ骨底Basis stapedisとよばれ,アブミ骨底輪状靱帯Lig. anulare baseos stapedisによって前底窓に付着し,この窓のかたちと似て腎臓形をしている.上縁は凸,下縁は凹の弯曲を示す.アブミ骨底の鼓室面には両脚の付着端のあいだに1本の細い隆線が走っている.また両脚には向いあう面に1つの溝をもっている.前方の脚は直脚Crus rectilineumとよばれ,直線に近くて,弯曲した後方の弯脚Crus curvilineumより少し短い.小頭と両脚のあいだのくびれた部分はアブミ骨頚とよばれる.

c)鼓室小骨の結合

1. 鼓室小骨の連結Juncturae ossiculorum tympani

α)キヌタ-ツチ関節Articulus incudomallearis.これは1種の鞍関節である.

 関節包は強靱で,両骨の関節面をそれぞれ取り巻く溝に付いている.関節襞の内側面から関節腔内へ1枚のうすい関節半月がいろいろな深さに進入し,これは外側へ向かってうすくなりとがっている.

 楕円形に近い関節面の長軸に平行な断面をつくってみると,ツチ骨の関節面は軽度の凸簿をいくつかつくり(制動歯Sperrzähne),キヌタ骨の関節面はそれをうけるために凹になっている.制動歯の存在のためにこの関節は制動関節Sperrgelenkともよばれる.関節軟骨は制動歯の上につづいている.この関節における両骨間の動きは5°にも達しない.

β)キヌタ-アブミ関節Articulus incudostapedius.

 豆状突起の凸出した表面は,外へ向かって凸の1枚の軟骨盤によって被われている.他方,アブミ骨小頭は凹の軟骨盤に被われ,これが小頭を関節窩の形にしている.両骨の結合の中央部に裂隙状の関節腔がみられる.1つの繊細な関節包靱帯が両部をつなぎ合せている.

γ)[]アブミ[骨靱帯]結合Syndesmosis tympanostapediaはアブミ骨底輪状靱帯Lig. anulare baseos stapedisによるもので,この靱帯はアブミ骨底の縁を前底窓の縁に結びつけているのである.

2. 鼓室小骨の靱帯Ligamenta ossiculorum tympani

α)ツチ骨と鼓膜との結合

β)上ツチ骨小頭靱帯Lig. capituli mallei superiusは鼓室蓋から起こってまっすぐ下方へ走り,ツチ骨小頭につく細い線維束である(図676).

γ)ツチ骨長突起靱帯Lig. processus longi malleiの線維は蝶形骨棘から起り,錐体鼓室裂を通りぬけてツチ骨頚にまで達する.

δ)外側ツチ骨靱帯Lig. mallei lateraleの線維は外耳道の上壁で,鼓室切痕Incisura tympanicaのところから起こってツチ骨頚にいたり,同時にまた弛緩部の形成にもあずかっている.外側ツチ骨靱帯の前後の両索状部はとくに強く張られていて,Helmholtzによって“Achsenband des Hammers”(ツチ骨の軸帯)とよばれた.

ε)上キヌタ骨靱帯Lig. incudis superiusは上ツチ骨小頭靱帯のうしろで鼓室蓋から起り,下ってキヌタ骨の体につくもので,ほんのわずかな線維でできている.

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最終更新日13/02/03

 

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