歴史的な偉大な解剖学書
ζ)後キヌタ骨靱帯Lig. incudis posteriusはキヌタ骨短脚(硝子軟骨をかぶっている)と,キヌタ骨窩(乳突洞口の底にある)とのあいだに張る丈夫な線維束である(図676).
η)アブミ骨閉鎖膜Membrana obturans stapedisはアブミ骨の両脚の溝とアブミ骨底の隆線とのあいだに張っている1枚のうすい膜である.
θ)アブミ骨底輪状靱帯Lig. anulare baseos stapedis.前庭に向うアブミ骨底の面はうすい軟骨層で被われ,この軟骨層は骨縁よりもいくらか広くなっている.強靱線維性の1靱帯がアブミ骨底をこれに向いあう前庭窓の縁(ここも軟骨で被われている)に結合している.これがアブミ骨底輪状靱帯であって,著者(Kopsch)はこの靱帯内のところどころに関節腔ともいうべきものを見いだした.
α)鼓膜張筋M. tensor tympani
この筋は鼓膜張筋半管のなかにあり,この管の外口の手前で側頭骨錐体から起るほか,蝶形骨大翼のこれに隣接する部分からも,耳管軟骨の上壁からも起こっている.この筋は円柱状の腱に移行し,この腱がサジ状突起のところで筋腹の方向に対して直角にまがり,鼓室のなかを横の方向に走って,ツチ骨柄のつけ根の内方縁につく(図666, 676).
鼓膜張筋は内側翼突筋神経N. pterygoideus medialis(三叉神経第3枝)から分れる1枝によって支配される,この枝には耳神経節から1本の細い神経糸がはいってきている.
β)アブミ骨筋M. stapedius
これは錐体隆起のなかにある筋で,毛のように細い腱となって鼓室内を通り,アブミ骨小頭にその関節面の縁のすぐ下方で付着する.
アブミ骨筋の運動を支配する神経は顔面神経の1枝であって,顔面神経管からつづく特別な1つの孔を通って錐体隆起の底にはいり,この筋に達する.
アブミ骨筋の腱のなかに時おり針のような骨がみつかることがあるが,動物ではこれが常在するものが少くない.
鼓室の粘膜は繊細で赤味をおびて血管にとみ,耳管粘膜のつづきである.この粘膜は鼓室のすべての壁と,見かけの上で鼓室の内部にあるすべての器官を被っている.つまり3つの鼓室小骨とその靱帯および関節,アブミ骨筋と鼓膜張筋の腱,鼓索神経などであって,これらはみな鼓室の壁が内部へ落ちこんでできたものと見るべきもので,それらの表面はいずれも鼓室粘膜で被われているのである.
この粘膜で被われていないのはアブミ骨底の前庭画と,ツチ骨柄が鼓膜の固有層内にとりこまれている部分である.粘膜が諸器官を被ケに当たって,ある場所では正確にその器官をぐるりととり巻くが,他の場所では着物の縁やひだのように被膜が高まりをなしている.これらのひだのうち2, 3のものはとくに他のものより大きく,より常在性である.それでこれらのひだは,どの骨のところにあるかによってツチ骨ヒダ・キヌタ骨ヒダ・アブミ骨ヒダとよばれる.
ツチ骨ヒダは鼓室の外側壁の上部で,鼓膜の近くにある1群のひだであって,鼓膜の上縁はこれらのひだによって被いかくされている.ツチ骨の長突起の一部と鼓索神経とはこのひだの中にある.ツチ骨より前方にあるひだが前ツチ骨ヒダPlica mallearis anterior,ツチ骨より後方にあるのが後ツチ骨ヒダPlica mallearis posteriorである(図676).また鼓索神経を包むひだは鼓索神経ヒダPlica chordae tympaniとよ壱まれる.またキヌタ骨ヒダPlica incudisは鼓室の後壁から斜めに長脚に沿って下り,豆状突起の上で終わっている.
最終更新日13/02/03