Rauber Kopsch Band2.666   

上端部の原形質はしばしば黄色の色素粒子をふくんでいる.平衡斑においては糸状細胞が比較的太くて低く,膨大部稜では長くて細い.有毛細胞Haarzellenは糸状細胞のあいだにあって,糸状細胞によってたがいにへだてられている.その円みをおびた自由端は上皮の表面にまで達し,自由端の面の形は卵円である.しかし下端部は大きい球状の核をもっていて,ビンのような形に広くなっており,上皮の高さの半分より下方には決して達しない(Retzius).この細胞の円盤状の自由端面からそれぞれ1本の小皮性の毛がはえている.この毛は基部はわりあい太いが先の方へ細くなってとがっていて,膨大部稜のもの(28µ)は平衡斑のもの(20~23µ)より長い.この毛は一般に聴毛Hörhaareとよばれ,そのおのおのは枝分れしない細い糸が密集している束なのである.標本作製のさいに,聴毛はたやすく分解して個々の糸がほぐれるので,聴毛が総のような状態となる.

 上皮にいたる神経線維は膜迷路壁の基底膜を通りぬけるときに髄鞘を失い,はだかの軸索となって神経上皮のなかに入り,糸状細胞のあいだを上方にまで進入する.そして有毛細胞の円くふくらんだ下端に直接に達するかあるいは側面にまわって,或る距離だけ有毛細胞の側面に沿って上行する.その最後の終末が有毛細胞の内部にあるという説はおそらく正しい.

[図702]新生児の卵形嚢斑の上皮細胞(G. Retzius)

平衡砂Statoconia(図701, 703, 704)

 二つの平衡斑の上には膠様の薄い層がある.これは以前に耳石膜Otolithenmembranとよびならわされたものである.これは無構造の柔かい物質でできた条が網状にならんでいるのであって,その表面には大きさ1~15µの平衡石Statolithen(以前には耳石Otolithen,聴石Hörsteinchenとよばれた)が単層をなして存在する.平衡石は両端面で2つの低い錐体がくつついた6面体の形をしている.炭酸石灰と多少の燐酸石灰のほか,うすい酸に溶けない窒素含有物質の基礎でできている.

 平衡石膜Statolithenmembranは特異なかたちの小皮形成Kutikularbildungとしての形態学的意義をもっている.これは蝸牛管に存在する被蓋膜Membrana tectoriaと相同のものである.

 膨大部稜には平衡石膜のかわりに,聴毛を包み囲んで杯をふせた形の高まりがあり,膨大部平衡頂Cupula ampullarisとよばれる.

半規管の乳頭

 膜迷路の壁にはわずかな高さの乳頭状の突出があって,孤立していることもあり,群をなして集まっていることもある.これは壁じしんと同じ基層からなるもので,扁平上皮で被われている.その出現する頻度は個体によって多少異なるが,全く欠如することはむしろ例外である.すでに新生児にみられることもあるが,生後に初めて形成されるのが普通である.

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最終更新日13/02/03

 

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