Rauber Kopsch Band2.670   

この膜は2つの固定線(内方の線はラセン縁Limbus spiralis,外方の線は蝸牛管の外側壁の骨膜)の間にたいていまっすぐに張っており,内方の上皮層と外方の結合組織層とからできている.その結合組織はわずかしかないが微細線維性であって,そのためこの膜にはかすかにすじめが見える.外面は内皮細胞で被われている.うすい結合組織層のなかには成人では血管がないが,初期の血管のなごりが痕跡的に残っていることはある.内面の上皮は多角形の単層扁平上皮である.この細胞は表皮の胚芽層の最深層と同様に,しばしば黄色の色素粒子をふくんでいる.

b)蝸牛管の外壁は骨膜と密に結合している.この壁は[蝸牛]ラセン靱帯Lig. spirale cochleae(後述)の上方への放散と,血管条Stria yascularisとよばれる層とでできている.血管条は柔かくて血管に富んで少しもり上つており,蝸牛管の内リンパを分泌するものとされている.血管条の内面は蝸牛管の上皮で被われている.

 鉛直方向に切断してみると,血管条の内面は平らでなくデコボコしている.とくに下方の凸出は常に見られるもので,ラセン隆起Prominentia spiralisとよばれる.血管条のところで上皮は丈が高くて,前塵膜の上皮と同様に色素粒子をふくんでいる.血管条には血管がはなはだ豊富であって,とくにまがりくねって走る多数の毛細管があり,その一部は血管条の表面のごく近くにまで達して,各上皮細胞の側面と側面のあいだにはいりこんでいる.つまりここでは上皮内(上皮細胞間)interepithelialに血管が存在するのである.

c)蝸牛管の下壁は鼓室階との境をなす壁で,注目すぺき点がもっとも多い部分である.ここにはまず内方部(つまり蝸牛軸に近い方)と外方部とが区別される.内方部はラセン縁Limbus spiralisと骨ラセン板の鼓室唇Labium tympanicumでできている.また外方部は膜ラセン板とその諸構造物でできている.両部の内外方向の幅は,回転によって異なっており,蝸牛管の下壁全体の幅は蝸牛の頂回転に近づくほど増している.

ラセン縁Limbus spiralis(図707709)

 これは全体として骨ラセン板の外方端の部分にのっている低い高まりであって,蝸牛管の内腔へ突出し,外方ではヒサシのように伸びだして,ラセン板の前庭唇Labium vestibulareという鋭い稜をなしている.前庭唇の外側しかも鼓室階寄り(下方)にはラセン板の鼓室唇Labium tympanicumがある.また両唇のあいだにあるへこみはラセン溝Sulcus spiralisとよばれる.

[図708]ラセン縁

内方端から外方端までを含む1小片を上方からみる.R 前庭階壁のラセン縁への付着線,P ラセン縁の乳頭と乳頭間溝,zp 歯の形をした乳頭すなわちフシュケの聴歯,i 歯間溝,c 聴歯列の前端すなわち前庭唇,b 基底膜,上皮をとり去り,その下にある放線状の細かい溝がみえている.

 ラセン縁をその上方(前庭階がわ)からみると,前庭唇はたがいに平行した溝によって深く切りこまれて,位置のほず揃つた個々の部分に分けられている.これはHuschikeによって聴歯Gehörndhneと名づけられたもので,切歯をずらりと7000個ほども1列にならべたものと思えばよい.それより内方(つまり蝸牛軸に近いがわ)へ聴歯のつづきが伸びているが,ここでは長いのやまるいのが不規則に何列にもならんでいる.これはやはりラセン縁の実質の突出であって,しばしば特有の輝きを示している.突出のあいだにはくぼみがあって,フシュケの聴歯のところでは歯間溝interdentale Furchenとよばれ,そのほかの突出のところでは乳頭間溝interpapillare Furchenとよばれる.

S.670   

最終更新日13/02/03

 

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