Rauber Kopsch Band2.672   

 基底板は固有膜eigentliche Membranと鼓室階被層tympanale Belegschichtからできている.固有膜には鼓室唇に近い内方の領域とラセン靱帯に近い外方の領域とが区別される.内方の領域弓状帯Zona arcuataとよばれ,鼓室唇からすぐあとで述べる外柱の付着部までの範囲であって,うすくて放線方向に細かいすじがついている.これに対して外方の領域櫛状帯Zona pectinataとよばれ,外柱からラセン靱帯までの範囲をいうのであって,上皮のほかに3つの層からできている.中央の均質層homogene Lageと,これをはさむ上下の線維層Faserlagenである.そのうち下の線維層の方が太い線維からできていて,より強く光を屈折し,一層はっきりとみとめられて,その横断は円柱状をしている.ラセン靱帯に達すると均質層がなくなって,両線維層がこの靱帯の結合組織へ移行するのである.表面からみると下の線維層の存在のために, この領域全体がクシのような外観を呈している.基底膜の外方の領域のことを櫛状帯とよぶのはそのためである.上下の両線維層には長めの核が少数散在している(図709).

 基底板の鼓室階被層は2層よりなっている.その1つは下の線維層に接する薄い均質な層であり,もう1つの層は原形質にとむ結合組織細胞が少数の層をなしてつみかさなった部分で,この細胞は胎生期に鼓室階と前庭階をみたしていた結合組織の残りものにほかならない.前庭階では前庭階壁の内皮がこの細胞層に相当している.いま述べた原形質にとむ細胞は卵円形の核をもっていて,ラセン状の方向にのびる原形質の突起を出している.この細胞層には鼓室唇の少し外側にラセン血管Vas spiraleという1本のごく細い血管があり,これは蝸牛管の全長にわたって伸びている.

基底板の上皮

 基底板の前庭階がわの面には蝸牛管の重要な一部をなす上皮がついていて,この上皮は一定の場所で神経上皮Neuro-Epithelになっており,これがコルチのラセン器Organon spirale(Corti)とよばれる.そしてここが蝸牛神経の終末の分布するところなのである.

 ラセン器の構成要素は,円柱上皮細胞がいろいろな程度に変形したものと,その一部のものに分布する神経線維とである.ここにある細胞および細胞から生じたものぼさまざまな種類である.すなわち有毛細胞・柱細胞・ダイテルスおよびヘンゼンの支持細胞・網状膜・被蓋膜.最後にあげた被蓋膜は小皮性のものである.

1. 柱細胞Pfeilerzetlen(図710)

 これには内柱Innenpfeilerと外柱Außenpfeilerとがある.柱という名前であるが,いずれも細胞と同格めものであって,細胞体の一部が剛い靱帯様の構造すなわちPfeilerになっているのである.また細胞体のうちでこのような変化を示さない部分は薄い層をなして柱を被い,基底部ではそれがとくに多く集まって核をつつんでいる.基底部に集積したこの原形質の部分は床細胞Bodenzelleともよばれる.内柱は神経孔のすぐ外方で基底板の前庭階面に突出し,蝸牛管の全長を貫いて1列にならんでいる.内柱は垂直に立っているのではなく,その上端が外方へ傾いている.内柱から少し離れたところで基底板上にある外柱もやはり斜めに出ているが,これは内方へ傾いて,その上端をもって内柱に寄りかかつている.かくして内外の両柱はラセン弓Arcus spiralisとよばれるアーチをつくり,トンネルTunnelraumという三角形の空所を橋わたして囲むのである.

α)内柱はその原形質性部分を除けば剛い帯状の索をなし,その広がった面をトソネルに向けている.内柱は足板Fußplatte,Körper,Kopf,頭板Köpfplatte,被蓋板Deckplatteからできている.足板は矩形をなして基底板上にかたく付いている.頭の端は太鼓のバチのように太くなっており,その外側がえぐれていて,そこに外柱の頭が接している.

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最終更新日13/02/03

 

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