Rauber Kopsch Band2.685   

 皮膚における自然の色素沈着についての記述を終るにあたって,人工の色素沈着すなわち入墨(刺青)Tätowierungについてもちよつと触れておこう.解剖室で入墨を見るのはまれなことではないし,皮膚の人工着色ということは民族学で重要な問題であるから,これに触れる必要がある.このばあい色素はとがった道具で道をつけられた真皮の中へすりこまれるのである.入墨は婦人の方がまれである.

 白人では下層階級や特殊職業(船乗り)の人や犯罪者に入墨がはなはだ多い.このことからそういう人々の心理的および道徳的な特性について突つこんだ結論が引きだされた.しかしこのような結論がどこまで当たっているかは疑問である.

 RiedelとBälzはモーコ系人種の赤ん坊の仙骨部に(しばしばその他の場所にも)皮膚の青くなっている場所を見いだした.Bälzはこの“青い蒙古斑”blaue Mongolenfleckeを日本人のほか朝鮮人・シナ人・マライ人の子供にも見いだし,モーコ系人種全体の重要な特徴であると考えた.ネイティブアメリカンやエスキモーの子供にも見られる.その後の研究によってこの斑は白人の子供にも現われるが,色素の含有量がモーコ人種より少ないということがわかった.この所見の確かな意味づけはまだできていないが,いずれにせよ大昔の,おそらく前人時代からの1つの名残をとどめているものと思われる.(白人の蒙古斑については足立文太郎の有名な研究がある.氏はまたサルの皮膚色素をも研究して,蒙古斑をいろいろな角度から検討した.足立:黄色人種に固有なりと称ぜられたる小児母斑は白色人種にも亦之を存す,人類誌16巻181号,1901. Adachi:Hautpigment beim Menschen und bei den Affen. Z. f. Morph. u. Anihr. 6. Bd.1~131,1903. Adachi u. Fujisawa : Mongolen-Kinderfleck bei Europäern,同誌同巻132~133.なお蒙古斑細胞の発生と消長を人種的に比較した研究として,師岡浩三:本邦人における蒙古斑,解剖誌3巻2号,1371~l490頁,1931がある.)

b)顆粒層Stratum granulosum, Körnerzellenschicht(図719, 727, 728)

 わずか1~5層からなるこの顆粒層の細胞において角化の最初の徴候があらわれるのである.すなわちその細砲体のなかにケラトヒアリンKeratohyalinの強く輝く塊や滴が存在する.表皮がうすいところでは顆粒層がうすくて隙間をもっており,淡明層は全くないことがある.

 ケラトヒアリンはケラチン(角質)の前段階のものではなく,おそらく水様物質が皮膚に侵入するのをふせぐ役目をもつものであるという(Hoepke).ケラトヒアリンは脂質ではなくてむしろ一種の蛋白質である.なぜなら水・アルコール・エーテル・クロロホルム・テレピン油には不溶性で,これに対して強い苛性ソーダや苛性カリ・ペプシン・強い酸には溶ける.ただし硝酸によって黄色に染まらない.

c)淡明層Stratum lucidum(図727, 728)

 一様に輝く層で,やはりほんの少数の細胞の厚さしかない.顆粒層からこの層になるところでケラトヒアリン塊が液化して集合する かくして生じたエレイディンEleidin(正しくはエライディンElaidin, Patzelt)が細胞に浸潤するために,この層が透明になるのである.

次の層は

d)角質層Stratum corneum, Hornschicht(図727, 728)

 いままでの諸層より厚くて,表皮の厚いところでは多数の扁平な層が重なり合ってできている.半透明で無色かわずかに黄色を帯びて,顆粒層の黄白色か帯褐色ないし黒褐色の色調と対照をなしている.この層をなしている細胞は角質小板Hornplättchenまたは表皮鱗Epidermisschüppenとよばれる.この小板では細胞の角化していない部分はすべてひからびて,核は衰退してわずかに名残をとどめるだけである.ここではもはや生活現象がみとめられない.各細胞はケラチンの細かい網工と強いケラチン被膜をもつので,個々の細胞から扁平な角質嚢Hornkapselnができている.適当な処置をほどこすと,細胞間隙と角化した細胞間橋とが痕跡的に存在することがわかる.角質小板は苛性アルカリによって膨化して,壁のはっきり見える長円形の小泡となる.角質層には脂肪が縢漫性に浸潤している.

 表層の角質小板は剥げておち,深層のものは表層へと移動し,胚芽層の細胞は角質層の細胞に変わってゆく.角質小板が剥げおちるための物質損失はMoleschottの評価によれば毎日14gというが,これはおそらく過大である.これに対してFunkeは毎日の脱落量を5g(そのうち0.71gが窒素)とみている.

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最終更新日13/02/03

 

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