Rauber Kopsch Band2.715   

乳頭の基部と腺体の下面にはファーテル層板小体も見いだされている.

 男でまれに乳房が1側性または両側性に大きくなってくることがあり,この状態を女性型乳房Gynäkomastieとよぶ.しばしばこれは生殖器の奇形と結びついている.女性型乳房では実際の乳汁形成が起りうるということがいわれているが,それは充分の証拠があるとはみなされない.いずれにしてもこのように大きくなった男の乳房の構造は,根本的には女の乳房と何らちがわないのである.

 男においても過剰の乳頭がv. Bardeleben(Verh. anat. Ges.,1893)によると,われわれが予期する以上に,かなりの頻度でみられるのである.すなわち7人のうち1人またはそれ以上の割合で過剰乳頭が見られるという.(日本人の副乳を統計的に研究したものは数多いが,その結果はかなりまちまちである.代表的なものを引用すると次の通り.平沢益吉(日本婦人科誌,26巻9号,1931)によれば未産婦3.1%,経産婦6.2%,妊産婦15%,また本間五郎(臨床医学,30巻11号,1942)によれば男子4000人中145人(3.6%)に副乳がみとめられる.しかし副乳の判定規準が研究者によって異なると思われるので,直ちにヨーロッパ人のものと比較はできない.)この大きい頻度の点よりもさらに重要と思われるのは次のことである.すなわちこれらの過剰乳頭は肩と腋窩から陰部にひいた上述の1線の上に現われるばかりでなく,全く定まった場所にみられるので,その位置によってその乳頭の番号を確定することができるのである.それによるとわれわれの正常な乳頭と乳房は4番目のものである.

 A. Kirchner(Anat. Hefte,1898)が890人の男を観察したところによると,被験者の6/7においては左右の乳頭が同じ肋骨の高さにあった.そして両乳頭が同じ高さを示した763例のうちほぼ半数例では乳頭が第5肋骨の高さ,1/3より少し多い例では第4肋間隙の高さ,89例では第4肋骨の高さ,21例では第5肋間隙の高さにあった.

 Eggeling, H. von, Die ausgebildeten Mammardrüsen der Monotremen usw. (Semon, Zool. Forschungsreisen. Jena,1899およびHandb. mikr. Anat., Bd. III,1,1930に収載).

2. 脂腺Glandulae sebaceae, Talgdrüsen(図762, 770, 780)

 脂腺は胞状腺に属し,枝分れしていることとしていないことがあり,真皮の中にあって,大部分のものは毛の存在と結びついており,皮膚の表面に近い一定の場所で毛包内に開口している.それでこの腺は毛包腺Haarbalgdrüsenともいう.比較的太い毛の脂腺は毛包の付属物のごとく見えるが(図770),小さい生毛ではその逆の関係になっている.すなわち生毛はこれにくらべると堂々たる脂腺をもっていて,後者に付属したものという観を呈し,脂腺の導管からごく細い小棒として突きでている(図762).小さい毛には単一の脂腺か,あるいはごく少数の脂腺しか存在しない.しかし大きい毛には脂腺が毛包の全周を冠状にとりまいて,4~6個の腺が集まって脂腺ロゼッテTalgdrüsenrosetteともいうべきものをつくっている.

 脂腺は毛とともに体表の大部分にひろがっており,それが存在しないのは手掌と足底だけである.

 毛に付属しない独立脂腺freie Talgdrüsenがいろいろな場所にある.その場所をあげると:眼瞼,口唇縁(図9),頬粘膜,外皮と鼻粘膜との移行部,肛門の皮膚と直腸粘膜との移行部,亀頭の表面,包皮の内葉,小陰唇の皮膚,陰核亀頭とその包皮,女の乳頭および乳輪.

 脂腺の大きさは長さ0.2~2.2mmで,かなりの幅がある.単一の腺胞から16~20の腺胞をもつものまでいろいろある.

 大形のものは鼻の皮膚にあって,ここではその開口が肉眼でも見える.さらに恥丘.大陰唇・乳輪・陰嚢・耳介などにも大きいのがある.

 眼瞼のマイボーム腺は脂腺の変化した特別の1型である.

 脂腺の導管は毛包の上皮のつづきをなす重層扁平上皮によって被われており(図762),これが細胞層の数を減じて腺体の上皮に移行する.腺体の上皮はいちばん外方の層は低い円柱上皮でできている.その内方にいろいろな大きさの円みをおびた多角形の細胞(脂細胞Talgzellen)があって,内方のものほど数多くの大小さまざまの脂肪小球をふくみ,ついに最内層では細胞がくだけて脂肪が細胞の外に出てしまっている.

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最終更新日10/08/31