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- 065_00【Mandible下顎骨 Mandibula】
→(下顎を形成する。下顎を支え、頭蓋と顎関節をつくる骨で、水平な馬蹄形の部(下顎体)と、その後端から上方に向かう部(下顎枝)に分けられる。本来有対の骨として生じ、生後1年目で下顎底の前端で癒合して一つの骨となる。下顎体の上縁は歯槽部で、下縁は下顎底という。歯槽部には各側8本の歯をいれる八つのへこみ(歯槽)があり、全体として歯槽弓をつくる。各歯槽を境する骨壁を槽間中隔といい、大臼歯の歯槽はさらにその歯根の間を隔てる低い根管中隔で分けられている。体の正中線上前面で左右の骨が癒合した部分は高まり、その下縁は三角形をなして突出(オトガイ隆起)し、ヒトの特徴であるオトガイをつくる。その外側、下縁に接する小突出部をオトガイ結節という。外面ではオトガイ結節から斜線が下顎枝の前縁に向かう。また第2小臼歯の下方にオトガイ孔がある。下顎体の内面には前方正中部に四つの隆起からなるオトガイ棘があり、上二つはオトガイ舌筋、下二つはオトガイ舌骨筋がつく。その下外側で下縁に切歯て卵形のへこみ(二腹筋窩)がある。そこから斜めに下顎枝の前縁に向かう線(顎舌骨筋線)があり、左右のこの線の間をはる顎舌骨筋が口底をつくる。この線の上前はへこみ(舌下腺窩)、またこの線の下方、第2~3大臼歯の所もへこむ(顎下線窩)。下顎底が下顎枝にうつる所は下顎角といわれ、小児で鈍角であるが成長とともに直角に近づく。下顎枝の上縁は深い切れ込み(下顎切痕)によって二つの突起に分かれ、前のもの(筋突起)には側頭筋がつき、後のもの(関節突起)の先に横楕円形の下顎頭があて、側頭骨鱗部にある関節窩と顎関節を作る。下顎頭の下はすこしくびれ(下顎頚)、その前面に外側翼突筋のつく翼突筋窩がある。下顎枝外面は平らで下顎角に近く咬筋のつく咬筋粗面、内面には内側翼突筋のつく翼突筋粗面がある。下顎枝内面中央には下顎孔があり、その前縁は上内方に尖り(下顎小舌)口腔から触れるので、下歯槽神経の伝達麻酔の際、針をさす指標となる。下顎孔の後下から溝(顎舌骨筋神経溝)が出て前下方に斜めに向かう、この上の高まりが顎舌骨筋線である。下顎管は下顎孔からはじまり下顎体の中央で二分し、外側管はオトガイ孔で外側にひらき、内側管は切歯のそばに終わるが、その経過中に各歯槽に向かって小管を出している。有顎魚の下顎を支配する骨格は本来下顎軟骨(Meckel軟骨)で、上顎を支配する支持する軟骨は(口蓋方形軟骨)と顎関節をつくる。ともに鰓弓軟骨の変化したものである。硬骨魚類では下顎軟骨のまわりに若干の皮骨が生じて下顎を支え、そのうち前外面にあり、顎縁の歯をつけた大きい歯を歯骨という。顎関節は下顎軟骨と口蓋方形軟骨それぞれの後部の化骨物(関節骨と方骨)の間につくられる。両棲類、爬虫類も同じ状態であるが、哺乳類では歯骨のみが大きくなって下顎骨となり、顎関節は歯骨と燐骨(側頭骨鱗部に相当する骨)の間に新生されたものである。そして関節骨と方骨はツチ骨、キヌタ骨になっている。多くの哺乳動物では下顎骨は生体でも対をなした状態にとどまっている。Mandibulaはmandere(噛む)という動詞に由来し、語尾のbulaは「道具」を意味する接尾辞である。下顎骨にはすべての咀嚼筋が付。)
- 065_01【Temporalis muscle; Temporal muscle側頭筋 Musculus temporalis】 o:Inferior temporal line, infratemporal crest, temporal fascia [temporal fossa], i: Its fibers converge at the coronoid process and continue inferiorly to the level of the occlusal plane and near the pterygomandibular raphe. It raises and retracts the mandible, and fixes the pharynx during swallowing. I: Mandibular nerve.
→(側頭筋は扇状になって側頭窩および側頭筋膜から起始する。筋線維は収斂して、頑丈な腱をもって下顎骨筋突起に付着する。付着腱は上方へ伸びて筋肉内にまで達する。側頭筋は頬骨弓下を通過して、その付着部に達する。その筋線維がかなりの長さであるので、筋はかなりの収縮可能性を有するし、かつ純粋な“咬むための筋”である。歯をかみ合わせると、側頭筋の収縮を耳介の上方で触れることができる。側頭部をコメカミというのは、コメをカムときに動くからである。)
- 065_02【Buccinator muscle頬筋 Musculus buccinator】 Muscle arising from the pterygomandibular raphe and adjacent areas of the maxilla and mandible to the height of the first molar teeth, and inserting into the orbicularis oris at the angle of the mouth. It forms the cheek, moves food from the oral vestibule between the dental arcades during mastication, prevents entrapment of the mucous membrane of the mouth, and is active during laughing and crying. I: Facial nerve.
→(頬筋は頬の筋性土台に該当し、口角部で口輪筋に付着する。頬筋は弓状に上顎骨歯槽突起の臼歯部、かつ下顎骨歯槽突起から起こる。上および下顎間は腱性の翼突下顎放線によって橋渡しされ、この放線もまた頬筋の起始である。上咽頭収縮筋の一部がこの放線の後部で起始する。口角付近で、線維索が交叉するので、頬の上方に位置する部分は下唇に広範囲わたって達することもあるし、達しないこともある頬筋は上顎の第2大臼歯のレベルで耳下腺管によって貫通され、しかも本筋は脂肪体からこれを隔てる浅筋膜(頬咽頭筋膜)を有する唯一の顔面筋である。頬筋は上・下歯列弓および頬粘膜間に入り込んだ植物片を再度歯列弓間に押し戻し、咀嚼および植物片のかたちづくりに重要な役割を果たしている。本筋は口腔前庭を圧縮して、空気あるいは液体を口裂を通してふき出す(泡をふき出す、口笛をふく、吐き出す:“トランペット吹きの筋”)。両側の頬筋の収縮はは口角の外側部をくぼませる。参考:この筋は頬粘膜に密に結合しているが、皮膚との間は脂肪組織で隔てられている。上顎第2大臼歯の高さで耳下腺管に貫かれる。)
- 065_03【Lateral pterygoid muscle外側翼突筋 Musculus pterygoideus lateralis; Musculus pterygoideus externus】 o: Lateral surface of lateral plate of pterygoid process and inferior surface of greater wing of sphenoid, i: Two-headed (variant: three-headed) at disco-capsular system of temporomandibular joint and pterygoid fovea. I: Mandibular nerve.
→(外側翼突筋は2頭からなる。上頭は蝶形骨大翼の下面から起こる。下頭は蝶形骨翼状突起外側板に起始する。下頭は側頭下窩を通過して、下顎骨関節突起(翼突筋窩に)停止し、上頭もまた関節円板および関節包に付着する。三叉神経の下顎神経の外側翼突筋神経より支配を受ける。作用として下顎骨を引く。片側が働けば下顎骨前部は対側に働く。)
- 065_04【Medial pterygoid muscle内側翼突筋 Musculus pterygoideus medialis; Musculus pterygoideus internus】 o: Pterygoid fossa and the maxillary tuberosity. i: Pterygoid tuberosity on inner side of the angle of the mandible, passing obliquely downward and backward. Synergist of the temporal and masseter muscles. I: Mandibular nerve.
→(内側翼突筋は蝶形骨の翼突窩で起始して、下顎角内面に停止する。したがって、この筋は、下顎骨の外面側を走る咬筋浅部と同様な走行方向で下顎骨の内側面を走る。両筋は作用方向は同一であり、したがって協力筋である。)
- 065_05【Mylohyoid muscle顎舌骨筋;口底隔膜 Musculus mylohyoideus; Diaphragma oris】 o: Mylohyoid line, i: Median fibrous raphe and body of hyoid bone. It forms the muscular floor of the mouth; supports the tongue. Raises the floor of the mouth and the hyoid bone. Draws the mandible inferiorly. I: Nerve to mylohyoid.
→(顎舌骨筋は両側性に下顎骨の内面側から舌骨筋線の部分で起始する。左右両筋部は後方で収斂して、正中縫線で合一して筋板を形成し、この筋板は舌骨体に付着し、かつ両側下顎骨半を連結する。両側顎舌骨筋は口底隔膜を形成する。)
- 065_06【Digastricus muscle; *Digastric muscle顎二腹筋 Musculus digastricus; Musculus biventer mandibulae】 o:Mastoid notch, i: Digastric fossa. It has an intermediate tendon that acts on the lesser horn of the hyoid bone by means of a connective tissue sling. Raises the hyoid bone and opens the mouth.
→(顎二腹筋は舌骨の上方にある細長い筋で中間腱で前腹と後腹との2腹に分かれる。その後腹をもって側頭骨乳突切痕で起始し、斜め前・下方へ走る。舌骨付近で後腹は中間腱に移行し、この腱は二分した茎突舌骨筋によって挟まれ、かつ線維性滑車によって舌骨に固定される。前腹(顎舌骨筋からは皮膚側へ位置しているが)は中間腱から起始し、下顎骨内面で下顎下縁近くの二腹筋窩に停止する。顎二腹筋の前腹(下顎神経の枝である顎舌骨筋神経の支配)と後腹(顔面神経の支配)とは神経支配が異なることは注意を要する。下顎が固定されているときには、舌骨を引き上げる。舌骨が固定されているときは下顎骨を後下方に引く。両者は発生学的にも由来を異にし、前腹は顎舌骨筋・口蓋帆長筋などとともに咀嚼筋と同類(鰓弓のうち顎骨弓mandibular archに属する筋)であり、後腹は茎突舌骨筋・アブミ骨筋などとともに顔面表情筋と同類(鰓弓のうち舌骨弓hyoid archに属する筋)である。ちなみに、咀嚼筋は下顎神経で支配され、顔面表情筋は顔面神経支配である。このように発生学的な由来を知れば、色々な筋の支配を整然と整理することができる。)
- 065_07【Geniohyoid muscleオトガイ舌骨筋 Musculus geniohyoideus】 o: Inferior mental spine, i: Body of hyoid bone. Aids the mylohyoid. I: Anterior rami of spinal nerves (C1-C2).
→(オトガイ舌骨筋は顎舌骨筋の上に(口腔の方向)に存在する。オトガイ舌骨筋はオトガイ内面のオトガイ棘から舌骨体まで走る。)
- 065_08【Genioglossus muscleオトガイ舌筋 Musculus genioglossus】 o: Mental spine of mandible, i: Fanlike insertion on the lingual aponeurosis from the tip of tongue to the posterior part of tongue. It draws the tongue anteriorly, i.e., toward the chin. I: Hypoglossal nerve.
→(オトガイ舌筋は、下顎骨のオトガイ棘におけるその起始から舌の筋体の中へ扇状に広がり、舌筋膜に付着する。オトガイ舌筋はオトガイ舌骨筋の上に存在し、対側の同名筋から舌中隔によって内側で隔てられる。オトガイ舌筋は舌骨舌筋によって外側から被われる。)