1083_00a【Skin皮膚 Cutis】 Collective term for the epidermis and dermis. →(皮膚は身体を保護しておおうもので、非常に異なる2成分、すなわち表層をなす表皮と深層をなす真皮よりなる。重層上皮である表皮を作る個々の上皮細胞は表皮の表面に近づくにつれて形が扁平となる。手掌や足底の皮膚では表皮の厚さが極端に大となっており、機械的刺激への抵抗力を増している。手掌と足底以外の部位では、例えば上腕や前腕の屈側面皮膚に見られるように表皮は薄い。真皮を作るのは密性結合組織であり、そこに血管、リンパ管、神経などが含まれている。真皮の厚さも体部位により異なるが、概して人体前面の真皮は人体後面の真皮よりも薄い。また、女性における真皮は男性における真皮よりも薄い。皮膚の真皮はその下の浅筋膜(皮下組織ともよばれる)を介して深筋膜、あるいは骨に連結する。真皮内では膠原線維がたがいに平行な配列を示すことが多い。外科的に皮膚を切開する場合に、膠原線維の走行に沿うように創を作れば膠原線維損傷が最も少なくすむことから、瘢痕の最も少ない創傷治癒が得られる。もしも膠原線維の走行を横断するような皮膚切開を行えば、多数の膠原線維の損傷を来たし、それに代わる再生線維群の存在のために大きな瘢痕が生じることになる。真皮内の膠原線維の走行の向きは、皮膚の裂隙線(ランゲルの線Langer's lines)の方向と一致するが、これは四肢では縦方向に、また体幹では横方向に走る傾向を示す。皮膚が可動関節を被うところではその一定部位に皮膚のヒダ(またはシワ)形成が見られる。皮膚のヒダあるいは皺の部位では皮膚は薄くなり、かつ真皮と皮下構造物との間での膠原線維性結合の強度が強まっている。皮膚に付属する機関として爪、毛包、皮脂腺、汗腺などをあげることができる。 [臨床]皮膚の裂隙線の方向についての知識は外科医が皮膚切開する場合のガイドとなり、手術後の瘢痕を最小にするために役立つ。特に女性の患者で手術創を通常は衣服で被われないような部分に作る場合に、このことは重要な意味をもつ。セールスマンでさえも場合によって彼の顔に大きな瘢痕が残ることで、彼の仕事を失うかも知れないのである。爪部、毛包、皮脂腺は黄色ブドウ球菌のような病原体が侵入しやすい場所である。爪部の炎症は爪周囲炎paronychiaとよばれ、毛包および皮脂腺の炎症はいわゆる「おできboil」の原因となる。ようcarbuncleというのは、ブドウ球菌感染による浅筋膜の炎症であるが項部にしばしば発生して、通常1個の毛包または毛包の1群の感染の状態から始まるものである。皮脂嚢胞sebaceous cystは皮脂腺導管の開口部が閉鎖されるために起こるが、この状態は頭毛をくしけずるときに生じた頭皮の損傷、あるいは皮脂腺の感染による。したがって皮脂嚢胞は頭皮にしばしばみられる。ショック状態にある患者の皮膚は蒼白で鳥肌状を呈するが、これは交感神経系の過剰な活動により皮膚の細動脈の狭窄ならびに立毛筋の収縮を来しているためである。皮膚の熱傷の際にはその深さが治療法とその予後を決める要素となる。熱傷が皮膚深層にまで達していないときは、傷面はやがて毛包、皮脂腺、汗腺をなす上皮細胞や傷周囲の表皮細胞の増殖により被われて治癒する。しかし汗腺の腺体よりも深い部位までの熱傷のときには傷周囲の表皮細胞からの、おしか上皮の被覆は得られず、治癒は著しく遅くなることともに、線維組織による傷面の収縮がかなりの強さで起こる。深い熱傷を治癒を早め、かつ収縮の起こるのを防ぐためには皮膚移植が必要となる。皮膚移植法は浅層皮膚移植と全層皮膚移植との2種に大別される。前者は表皮の大部分(真皮乳頭尖部をも含めて)を切り取って移植するもので、切り取られた残りの皮膚部位には真皮乳頭周囲の表皮細胞群が毛包細胞、汗腺細胞とともに残留するために、これらが切り取られた皮膚部分の修復にあずかることになる。全層皮膚移植の場合は表皮と真皮全層を移植するために、移植後に新しい血管循環路が早く成立することが移植成功のために必要となる。また、皮膚全層が切り取られた部位には通常さらに他の部位からの浅層皮膚片が移植される。状況によっては全層皮膚移植は有茎切除皮膚片を用いて行われる。すなわち、その際には弁状の全層皮膚がその基部を経由する血流を受けたままの状態で必要部位に植え込まれる。そして、移植された有茎皮膚片への新しい血流が確立したのちに、はじめて茎部切断を行う。)
1083_01a【Plantar venous network足底静脈網 Rete venosum plantare】 Dense, subcutaneous venous plexus on the sole of the foot. →(足底静脈網は足底の皮下に拡がる静脈網で、深静脈と吻合して内側および外側足底静脈へそそぐほか、足の内側縁と外側縁で大および小伏在静脈へ入る。)
1083_02【Subcutaneous tissue; Hypodermis皮下組織 Tela subcutanea】 →(皮下組織は皮膚と深部の構造物の間の空間を埋める疎性結合組織で、一般に脂肪細胞に富む。脂肪細胞は膠原線維によって大小の集団にまとめられ、真皮と深部の構造物の間を埋めており、皮下脂肪組織とよばれる。皮下脂肪組織は栄養分および水分の貯蔵所であるだけでなく、機械的な外力に対する緩衝装置であり、外界の温度変化が体内に波及することを防ぐ断熱装置でもあり、さらに体に丸みを与え体系を調えるなどの意義をもつ。皮下脂肪組織はいたるところおで皮膚支帯に貫かれている。皮下脂肪はまた大小の血管および神経によって貫かれている。皮膚に分布する動脈は皮下組織と網状層の移行部に置いて、皮膚の表面に平行に広がる動脈網を作り、これから真皮と皮下組織の両方向に枝を出す。真皮に入った動脈は乳頭層の基底部で再び動脈網をつくり、ここから乳頭に毛細血管を送る。乳頭内の毛細血管のループにはじまる静脈はまず乳頭の基底部の静脈に注ぎ、網状層内でさらに静脈網を形成した後、網状層と皮下組織の移行部に広がる静脈叢に注ぐ。網状債には動静脈吻合であるホイヤー・ボロッサー器官organ of Hyer-Grosserがみられる。皮下組織の表層部には圧覚の感覚装置と考えられ照り右ファーター・パチニ小体が散在する。)
1083_03【Fatty layer of subcutaneous tissue; Superficial fatty layer of subcutaneous tissue; Subcutaneous adipose tissue脂肪層(皮下組織の);皮下脂肪組織 Panniculus adiposus (Telae subcutaneae)】 →(皮下によく発達した脂肪層。 (Feneis))
1083_04【Epidermis表皮 Epidermis】 Outer layer of skin covering the body, ranging in thickness from 30 Jim to 4 mm or more. It is stratified and keratinized, and consists of squamous epithelial cells. →(表皮は皮膚の最表層を占める重層扁平上皮で、その最表層は上皮細胞が死滅し、乾燥した鱗片となり、角質層とよばれる。角質はケラチン(keratin)という硬蛋白の線維状のミセルが密に集合してできており、角質を形成する現象を角化と呼ぶ。手掌、足底の表皮は非常に厚い角質層を有し、その底部はエオジンに好染する明るい層として、淡明層とよばれるが、角質層の一部と考えてよい。角質層の細胞は死滅して、核を失っているが、その下方にある数層の上皮細胞は核を有し、種々の代謝活動を有している。表皮の深部にある、そのような生きている細胞の層を一括してマルピギー層(Stratum malpighii)ということがある。表皮を真皮から剥離して下面をみると、真皮乳頭に対応する所が凹みとなり、その凹みの間がもり上がった網状にみえるので、これをマルピギー網(Rete malpighii)とよんだのがはじまりである。マルピギー層は3層に分けられ、角質層に接する顆粒層、中間部のやや厚い数層の細胞から成る有棘層、最深部で真皮に接触する基底層(円柱層ともよぶ)に区分する。基底層は通常1層のやや高い円柱あるいは立方形の細胞からなっており、ここで細胞が分裂して増殖するので、胚芽層ともよばれる。胚芽層という語はマルピギー層と同義語に用いられることがありその場合は有棘層、顆粒層をも含む。表皮細胞(epidermocyte)は基底層で分裂新生し、次第に表層に移行して、最後には角化死滅して、剥離する。この期間は通常15~30日といわれる。このように必ず角化する細胞であるから、角化細胞(keratinocyte)ともよばれる。この細胞は互いにデスモゾームによって連結し、細胞内には多量の張細糸(tonofilaments)が含まれ、細胞周辺にあるデスモゾームに集中付着している。張細糸はしばしば集まって束をつくり、張細線維(tonofibrilis)とよばれる。張細線維は光顕でみえるが、張細糸は電顕でなければ認められない。有棘層の細胞は多数の突起をもった多角形の細胞で、突起の尖端は隣接する同種の細胞とデスモゾームを形成して連結する。このように棘状の突起を有するので有棘細胞(spinous cell)とよばれるのである。有棘層の顆粒がふくまれている。一つはケラトヒアリン顆粒とよぶのである。電顕的には球状のケラトヒアリン顆粒もあるが、大部分は不規則な星状を呈している。表面に膜はなく、その物質は張細糸の間にしみこんで細糸間物質(interfilamentous substance)を形成する。第2の顆粒は板層顆粒(lamellar granules)で、Odland小体、MCG(membrane-coating granule)、ケラチノゾームなどとよばれる。この顆粒は、こまかい平行層板を内部にもっていて、膜によって包まれている。光顕では認められなかったが、電顕でよく観察できる。顆粒はしばしば細胞の表面に開いて、その内容を放出する。この顆粒の機能は不明なところが多く、ある人々は表皮細胞を互いに分離するに役立つ蛋白分解酵素を含み、一種の水解小体であるというが、他の人々は表皮細胞を互いに結合する役目があるという。基底層の表皮細胞は真皮との間を基底膜あるいは基底板(basal lamina)によって境され、細胞表面には基底膜に対する結合装置として、半デスモゾーム(hemidesmosome)を有する。半デスモゾームのない基底表面には微細飲小胞(micropynocytotic vesicle)がみられる。基底細胞に含まれる色素顆粒(メラニン細胞(melanocyte)によってつくられ、一種の食作用によって、表皮細胞がとりこんだものである。表皮に常在する非上皮性細胞は多数の突起を出すゆえに樹状細胞(dendritic cell)とよばれる。その一つはメラニン細胞であって、基底層にあり、多数の突起を上方に出している。この細胞でつくられたメラニン小体(melanosome)またはメラニン顆粒、突起の中に入り、表皮細胞が突起の尖端を貪食することによってメラニンをとりこむ。メラニン細胞内にある未熟なメラニン顆粒をメラニン前小体(premelanosome)といい、これは表皮細胞はLangerhans細胞とよばれ、大食細胞の一種と考えられている。有棘層の上部にあり、特有の板状あるいはラケット状の顆粒(Birbeck顆粒)を含んでいる。)
1083_05【Dermis; Corium真皮 Dermis; Corium】 Layer consisting of tightly woven collagen and elastic fibers that has abundant nerves and vessels but no fatty tissue. →(真皮は表皮を裏打ちする厚い交織性緻密結合組織の層で、縦横に交織する膠原線維束とその間に含まれる多くの弾性繊維とからできている。表皮に接する真皮の表層部の一定の範囲では、膠原線維束弾性線維も細く、その配列もやや疎で、それ以下の太い線維束が密に交織している真皮に主体をなす部分から区別される。この表層部を乳頭層といい、真皮に主体をなす部分を網状層という。真皮は以下のもので構成される。①線維芽細胞、線維細胞およびこれらによって産生される細胞外マトリックス、②コラーゲン線維と弾性線維、③グリコサミノグリカンglycosaminoglycanを含む基質、④血管と神経、⑤少数のマクロファージ、リンパ球と肥満細胞。真皮には皮膚付属器、血管、神経ならびに排出リンパ管が存在する。皮膚に血液を供給する主たる血管は真皮に存在し、これらは皮下脂肪組織にあるより大きな血管から起こる。真皮には二つの明瞭な血管叢が存在する①深部血管叢は皮下組織との境界に近い真皮網状層下部にある、②浅部血管叢は真皮乳頭層に近い真皮網状層上部にある。浅部血管層からでる小血管ループをつくって真皮乳頭層内へ伸び、そこから出る毛細血管は表皮基底膜のすぐ近くに達する。但し、血管は表皮内には侵入しない。真皮には多くの動静脈吻合が存在し、なかでも指尖によくみられる短絡路は非常に特殊で、糸球glomus bodyと呼ばれる。真皮での血流変化は、皮膚が体温調節器官としてはたらく上で重要である。皮膚付属器への血液供給は、浅部と深部の両血管叢を結ぶ血管から出る枝によっておこなわれる。皮膚の支配神経は真皮に存在し次の2種類かならなる。①交感神経系の無髄神経:真皮に豊富に分布し、皮膚付属器の働きや血流の調節をおこなう。②求心性有髄ならびに無髄神経:皮膚感覚を感知する。皮膚感覚は種々の特殊な神経終末によって感知されるが、もっとも重要なものは以下の通りである。①自由神経終末free nerve ending(有髄および無髄)は痛覚(およびそれがわずかに形を変えた感覚である痒み)および温度を感知する。②層板小体lamellar corpuscle(ファーター・パチニ小体Vater-Pacinian corpuscle)は神経終末が被膜で包まれた特徴的な構造をもち、圧覚、そしてたぶん振動覚をも感知する。通常、手掌や足底の真皮深部あるいは皮下脂肪組織にみられる。③触覚小体tactile corpuscle(マイスナー小体meissner corpuscle)は真皮に乳頭層に限局して存在する構造化された神経終末で、手と足にもっとも多く分布し、触覚を感知する。④メルケル細胞とそれに付着する神経は、持続的でゆるやかな触覚の変化を感じるレセプターである。)
1083_06【Papillary layer of dermis乳頭層(真皮の) Stratum papillare dermis】 Upper dermal layer that contains numerous cells and fibers. Its connective-tissue papillae interlock with the epidermis. →(真皮の乳頭層は真皮のうち、やわらかい上部層。多数の乳頭で表皮と結合する。乳頭層の表面には銀好性線維の網工である基底膜があり、これに表皮の基底層の細胞が小足をもって固く付着している。乳頭層は網状層にくわべて濃く染まる。コラーゲン線維や弾性線維が少なく、基質は逆に多い。細いコラーゲン線維や弾性線維がいろいろな向きに走るが、表皮垂直に向かう比率が高い。ここには毛細血管サイズの小血管、細い神経の枝および終末が含まれる。)