839_00【Cerebellum小脳 Cerebellum】 Part of the brain situated above the rhomboid fossa. →(Cerebellumは、「大脳、脳」を意味するcerebrumの指小形で、「小さい脳」という意味である。Cerebrumは、「頭」を意味するギリシャ語のkararan由来する。 小脳は筋、関節などの深部組織、前庭、視覚、聴覚系などからの入力を直接あるいは間接的に受け、眼球運動を含む身体の運動調節を司る。小脳は正中部の虫部と外側部の小脳半球とに分けられる。いずれも多数の小脳溝により小脳回に細分される。この中、特定の小脳溝は深く、これにより小脳回の集合ができる。これを小脳小葉とよぶ。ヒトでは小脳は深い水平裂により上面と下面とに分けられ、虫部とそれに対応する半球に九つの小葉が区別される。系統発生的には小脳は前葉、後葉、片葉小節葉の3部分に分けられる。前葉は系統発生的に古く古小脳(Paleocerebellum)ともよばれ、脊髄小脳路、副楔状束核小脳路、オリーブ小脳路の一部、網様体小脳路などをうける。後葉は系統発生的に新しく、新小脳(Neocerebellum)とよばれる。とくに半球部は虫部より新しく、橋核、主オリーブ核などを介して大脳皮質と結合している。前葉と後葉とは第1裂により境される。片葉小節葉は原小脳(Archicerebellum)とよばれ最も古く前庭系との結合が著明である。後葉とは後外側裂で境される。後葉には虫部錐体と虫部垂との間に第2裂がある。ヒトの小脳小葉の形は他の動物のものと大きく異なりる。小脳全体は灰白質と白質とからなる。灰白質には小脳皮質と小脳核とがある。小脳皮質は小脳小葉の表面をなし遠心性軸索を出すPurkinje細胞と皮質内での結合を行う細胞とからなる。小脳核は深部にあり、室頂核、球状核、栓状核、歯状核の4核からなる。小脳皮質にはその結合から三つの縦帯が認められる。すなわち、正中部の虫部皮質、外側部の半球皮質および両者の境界部の虫部傍皮質である。虫部皮質のPurkinje細胞は室頂核に、虫部傍皮質は球状核と栓状核に、半球皮質は歯状核に投射する。小脳の中心部の白質塊は髄体とよばれ、遠心性および求心性繊維から出来ている。ここからは白質が分枝して(白質板)、小葉に分かれる。全体として樹の枝のようにみえるので、小脳活樹と名づけられている。小脳は三つの小脳脚により、延髄、橋、中脳と結合している。これは小脳の遠心路および求心路の通路となっている。 小脳の発生 development of the cerebellum:小脳は後脳の菱脳唇から発生する。後脳の菱脳唇は翼板の背外側につづく背内方に突出する高まりで、胎生2ヶ月の後半において急速に増大し、小脳板とよばれるようになる。左右の小脳板の間には菱脳蓋の頭側半分が介在するので、頭側部では左右の小脳板は相接しているが、尾側部では広く離れている。菱脳の中央部を頂点とする橋弯曲が高度になると、この部の菱脳蓋の左右方向の拡大によって、左右の小脳板の尾側部はいよいよ高度に引き離され、左右の小脳板は菱脳の長軸に直角な一直線をなすようになる。これと同時に左右の小脳板の頭側部(今では内側部)が合一するので、結局、正中部が小さくて左右両部が大きい単一の小脳原基が成立する。正中部からは小脳虫部が、左右両部からは小脳半球が形成される。 増大していく小脳原基の背側部には、やがて中部から半球に向かって走る溝が次々に出現して小脳を区画する。胎生5ヶ月のおわりには小脳虫部における10個の主な区分(小脳葉)がほぼ完成する。これらの小脳葉はそれぞれ固有の発育を行うが、その間に第2次、第3次の溝が生じて、各小脳葉を多数の小脳回に分ける。このような形態発生の結果広大な表面積を獲得した小脳の表面には小脳皮質とよばれる特別な灰白質が形成され、これに出入りする神経線維はその深部に集まって小脳白質を形成する。 小脳原基においても菱脳室に接する内側から表面に向かって胚芽層・外套層・縁帯の3層が分化する。胚芽層は神経が細胞をつくりだすが、胚芽層から発生するのは小脳核の神経細胞と小脳皮質のPurkinje細胞およびGolgi細胞である。小脳原基が3層に分化するとまもなく、外套層の表層部にやや大型の神経芽細胞が出現し、小脳板の背側面(表面)に平行に1列にならぶ。これがPurkinje細胞の幼若型である。ついで小脳板の尾側端部の胚芽層でさかんな細胞分裂がおこり、ここで生じた未分化細胞は縁帯の表層部を頭方に遊走して、小脳原位の全表面をおおう未分化細胞層を形成する。これを胎生顆粒層という。 胎生顆粒層の細胞は胚芽層における細胞分裂が終わるころから活発な分裂を開始し、神経細胞をつくりだす。この神経細胞は縁帯およびPurkinje細胞の層を貫いて、Purkinje細胞の層の下に達し、ここに新しい細胞層(内顆粒層)をつくる。胎生顆粒層からは、このほかに縁帯の中に散在する籠細胞や小皮質細胞が生ずる。必要な数の神経細胞を送り出すと胎生顆粒層における分裂はやみ、本層は速やかに消失する。一方、Purkinje細胞は縁帯の中に多数の樹状突起を伸長させる。縁帯はPurkinje細胞の樹状突起で満たされて厚くなり、核をあまり多く含まな灰白層となる。このようにして小脳の全表面は、表面から灰白層・Purkinje細胞層・内顆粒層の3層から成る小脳皮質でおおわれることになる。)
839_01【Central lobule of cerebellum [II and III]小脳中心小葉;中心小葉[第II・III小葉] Lobulus centralis cerebelli [II et III]】 Lobule that is continuous with the wing of the central lobule. It consists of an anterior and a posterior part. →(小脳の中心小葉は小脳小舌と山頂の間にある小脳上虫部の部分で、Larsellの区分に従えば小葉(Ⅱ)と小葉(Ⅲ)に分けられる。)
839_02【Lingula of cerebellum [I]小脳小舌;第I小葉 Lingula cerebelli [I]】 Unpaired part of the vermis belonging to the archicerebellum that is fused with the superior medullary velum. →(小脳小舌は小脳虫部の前端(または上端)を形成し、2つの盛り上がる上小脳脚の間の上髄帆の表面上を前方へのびる。Larsellの区分に従えば小葉(Ⅰ)に相当する。Larsellは比較解剖学的立場より、小脳虫部の小葉にⅠからⅩまでの番号を付した。一方、人の小脳虫部は9の虫部小葉と、Larsellの小葉の対応関係は単純ではない。)
839_03【Vincula of cerebellar lingula小脳小舌ヒモ Vincula lingulae cerebelli】 →(小脳小舌ひもは小脳脚の背側面にある小脳虫部の小舌の外側への小突起。)
839_04【Inferior medullary velum下髄帆;後髄帆 Velum medullare inferius; Velum medullare posterius】 Layer of white substance in the upper portion of the lower part of the roof of rhomboid fossa that passes from the flocculus peduncle to the nodulus of the cerebellum. →(下髄帆は小脳の小節と片葉脚の間に張っている白質性薄膜である。菱形窩の下部屋根。)
839_05【Nodule of vermis [X]小節;虫部小節[第X小葉] Nodulus vermis [X]】 Medial protuberance of the vermis. It is connected with the flocculus via the peduncles of flocculus. →(小脳虫部小節は片葉脚により片葉と連絡する虫部の隆起。Larsellの区分に従えば小脳半球の小葉(Ⅹ)に相当する。)
839_06【Uvula vermis [IX]虫部垂[第IX小葉] Uvula vermis [IX]】 Part of the vermis situated between the tonsils of cerebellum. →(小脳虫部垂は小脳虫部上の三角形の隆起で、錐体の前方の2つの扁桃の間にある。Larsellの区分に従えば小葉(Ⅸ)に相当する。)
839_07【Vallecula of cerebellum小脳谷 Vallecula cerebelli】 Deep median furrow on the inferior aspect of the cerebellar hemispheres that is occupied by the medulla oblongata. →(小脳虫部の下部は左右の半球のあいだに深く落ち込んでおり、そのために左右の半球の間に生じる腔所は小脳谷と呼ばれる。延髄がこのなかで連絡する。)
839_08【Pyramis; Pyramid of vermis [VIII]虫部錐体[第VIII小葉] Pyramis vermis [VIII]】 Lobule situated posterior to the prepyramidal fissure. →(小脳虫部錐体は小脳虫部葉下方で虫部隆起と虫部垂の間の部分。Larsellの区分に従えば小葉(Ⅷ)に相当する。)
839_09【Vermis of cerebellum [I-X]; *Cerebellar vermis小脳虫部[第I-X小葉] Vermis cerebelli [I-X]】 Middle portion of the embryonic cerebellar plate. →(小脳虫部は小脳のなかで系統発生学的に古い無対の部分。小脳虫部は小脳正中部の構造であるが、左右それぞれ半分が両側の前庭神経核群や橋および延髄の網様体に投射する。この投射経路には、小脳皮質前庭神経核線維(前庭神経外側核へ入るプルキンエ細胞の軸索)によるものと、室頂核(または小脳内側核)からのものとがある。小脳虫部皮質のプルキンエ浅部の軸索が室頂核(内側核)へ入るのに対して、小脳半球皮質のプルキンエ細胞の軸索は小脳中位核と歯状核(または小脳外側核)に終止する。これらの小脳核から起こる小脳の出力線維は上小脳脚を通って小脳から出ていく。小脳虫部は、吻側部で形態的に舌状の小脳小舌となって上髄帆と癒着し、虫部の下縁(虫部小節)は、左右の下髄帆の間に挿入されるように存在する。)
839_10【Hemisphere of cerebellum [H II - H X]; *Cerebellar hemispheres小脳半球[第II-X半球小葉] Hemispherium cerebelli [H II -H X]】 →(小脳の大半を占める左右の半球。系統発生上でもっとも新しい新小脳に相当する。各種の協調運動に関わるため、傷害されると、手や指で何かをしようとする際のふるえ(企図振戦)や、指を目標までスムーズに移動できない(ジメストリー)などの運動調節障害が生じる。大脳皮質との間に連絡をもつ。[→小脳のはたらき 参照](イラスト解剖学))
839_11【Superior surface of cerebellum上面(小脳の) Facies superior (Cerebellum)】 →()
839_12【Superior medullary velum上髄帆;前髄帆 Velum medullare superius; Velum medullare anterius】 Layer of white substance stretched between the right and left superior cerebellar peduncles. It is fused with the lingula. →(上髄帆は第四脳室の橋の部分の天井を作くる。上髄帆は両側の上小脳脚の間にある薄い白質板で、背側は小脳小舌と癒着する。上方は両側の上小脳脚の接近によって狭くなり、左右の下丘の間で上髄帆小帯となって終わる。)
839_13【Superior cerebellar peduncle上小脳脚;結合腕 Pedunculus cerebellaris superior; Brachium conjunctivum】 Part conveying fibers mostly from the dentate nucleus to the red nucleus and thalamus. →(上小脳脚(結合腕Brachium conjunctivum)は主として小脳を出る線維からなる。その主体をなす線維は小脳視床路と小脳赤核路である。これらは主として歯状核から出て、腹内側方に進んで深部に入り、中脳下半で大部分交叉し、上小脳脚交叉(結合腕交叉)を作り、反対側の中脳被蓋を上行し、一部は赤核に終わるが(小脳赤核路)、一部はさらに視床の前外側腹側核に至る(小脳視床路)。なお上小脳脚の表面を前脊髄小脳路が逆行して小脳に入り、主としてその前葉に分布する。また鈎状束は室頂核から出て大部分交叉し、上小脳脚の背外側をへて鈎状に曲がり、下小脳脚内側部の上部に来て前庭神経各核にならびに橋、延髄の網様体内側部に分布する。)
839_14【Cerebellar peduncles小脳脚 Pedunculi cerebellares】 Part of the cerebellum containing nerve fibers passing to and from the cerebellum. →(小脳に入る経路または小脳から出る経路の通るところで、上、中、下の三つの小脳脚がありその総称である。)
839_15【Middle cerebellar peduncle; Brachium pontis中小脳脚;橋腕;橋小脳脚 Pedunculus cerebellaris medius; Brachium pontis; Crus pontocerebellare】 Portion not clearly distinguishable from the superior cerebellar peduncle. →(中小脳脚(橋腕)は3対ある小脳脚のうち最大のもので、主として橋核から起始する線維からなり、橋底の正中線を越えて対側の背側に移り太い束となって橋被蓋の外側を乗り越えて小脳にはいる。少数の対側へ移らない線維もある。少数の側副線維が小脳核に達している以外ほとんどが橋小脳路線維からできている。)
839_16【Flocculus [H X]片葉[第X半球小葉] Flocculus [H X]】 Paw-shaped part of the cerebellum located between the inferior cerebellar peduncle and biventral lobule. →(片葉は下小脳脚と二腹小葉の後方で中小脳脚後縁にある小脳の小葉。虫部結節と連絡しており、これらの2つの構造は小脳前庭部を構成する。Larsellの区分に従えば小脳半球小葉(H-Ⅹ)に相当する。)
839_17【Peduncle of flocculus片葉脚;片葉柄 Pedunculus flocculi】 Connecting stalk, part of which is continuous with the inferior medullary velum. →(片葉脚は虫部小節との結合索で一部は下髄帆に移行する。)
839_18【Tonsil of cerebellum; Ventral paraflocculus [H IX]小脳扁桃;腹側傍片葉[第IX半球小葉] Tonsilla cerebelli; Paraflocculus ventralis [H IX]】 Small, bean-shaped part of the cerebellar hemisphere. →(小脳扁桃は左右の小脳半球の下面にある円形な小葉。内側は小脳虫部垂に続く。小脳片葉の傍らの腹側部にあるところから腹側傍片葉と呼ばれている。Larsellの区分に従えば小脳半球の小葉(H-Ⅸ)に相当する。)
839_19【Biventral lobule [H VIII]二腹小葉[第VIII半球小葉] Lobulus biventer [H VIII]】 Lobule situated between the gracile lobule and tonsil of cerebellum. →(二腹小葉は小脳半球の下面にある小葉で、弯曲した溝によって外側部、内側部に分けられる。虫部錐体に相応する。Larsellの区分に従えば小脳半球の小葉(Ⅷ)に相当する。)
839_20【Inferior semilunar lobule of cerebellum; Second crus of ansiform lobule of cerebellum [H VII A]下半月小葉;係蹄状小葉第2脚[第VII A半球小葉](小脳の) Lobulus semilunaris inferior; Crus secundum lobuli ansiformis cerebelli[H VII A]】 Lobule situated posterior to the horizontal fissure. →(小脳の下半月小葉は上半月小葉および単小葉の間にある。)
839_21【Horizontal fissure of cerebellum; Intercrural fissure of cerebellum水平裂;脚間裂;水平溝(小脳の) Fissura horizontalis cerebelli; Fissura intercruralis cerebelli; Sulcus horizontalis cerebelli】 Deep cleft between the superior and inferior semiiunar lobules. →(小脳の水平裂は小脳の係蹄小葉の第Ⅰ脚と第Ⅱ脚に2大別している水平な裂溝。つまり上および下半月小葉間の深い隙間。)
839_22【Superior semilunar lobule of cerebellum; First crus of aniform lobule of cerebellum [H VII A]上半月小葉;係蹄状小葉第1脚[第VII A半球小葉](小脳の) Lobulus semilunaris superior cerebelli; Crus primum lobuli ansiformis cerebelli [H VII A]】 Lobule situated anterior to the horizontal fissure. →(小脳の上半月小葉は小脳半球上面のうち、水平裂と正中傍裂との間の部分と虫部葉と虫部隆起の一部を合わせた部。係蹄小葉の第Ⅰ脚とも呼ばれる。)
839_23【Tuber of vermis [VII B]虫部隆起[第VII小葉] Tuber vermis [VII B]】 Median connection between the right and left inferior semiiunar lobules. →(小脳の虫部隆起は小脳虫部下方の後部で、虫部葉と虫部錐体の間に位置する。Larsellの区分に従えば小葉(Ⅶb)に相当する。)