Rauber Kopsch Band1. 07

S. 99

VI.器官,装置,系統Organe, Apparate, Systeme

1.概括的な序説allgemeine Einleitung

 定義:器官は1種あるいは多種の組織よりなり,定った形をそなえて,一定の機能を営むものである.いくつかの異なる器官によって,機能的にたがいに深くつながったいっそう高次の単位ができている.これが装置Apparatあるいは系統Systemである.

 単細胞の生物でも器官に相当するような設備を全く欠いているわけでない.偽足,絨毛,はなはだ多くの種類の保護用の被い,なおまたいろいろの内部構造が器官に相当するといえる.

 すべての多細胞生物はその機構がいかに高等にできていても,その存在の初めは単細胞生物に相当するものから出発するのである.しかしその発生が進んでまもなくいっそう程度の高い区分ができる.腸胚Gastrulaの時期には2つの原始器官Primitivorganeが生じている.すなわち一次の外胚葉と内胚葉である.原始器官がその後に大小いろいろのあらゆる二次器官sekundäre Organeを作るのであって,比較的高等な動物の体そしてまた人間の体もそんな二次器官を幾百万というほど有っている.

 1個の器官がひどく簡単なものであっても,あるいははなはだ複雑なものであっても,すでに前に書いたことから分かるように,それらがすべて細胞に帰せられるのである.機能の上から云ってもそうである.例えば肝臓の機能はすべてのここの肝細胞のはたらきの総和である.機能の上から云ってもそうである.例えば肝臓の機能はすべてのここの肝細胞のはたらきの総和である.

 器官の形成には分業Arbeitsteilungの原則があらわれている.Aristoteles以来の定義に従えば,1つの器官が雑多なはたらきをするのではなくて,1つの定まった機能を持つことの傾向が多いほど,その器官はいっそう完全なものといえる.また生活体にて機能が多岐に分かれているほど,そして機能をなす諸器官が多種多様であるほど,その生物の有機体としての階級は高いのである.

 上述のごく概括的な関係を知ったのちにさらに有機体の特徴について探求の歩みをすすめるならば,個体の発生がこの研究領域において注目すべき現象をつぎつぎと示すのである.

 発生学が教えるところによると,一時的の器官transitorische Organeがある.それがつくられて,ある器官はたらきをなして,その後にその後に追徴する.そういう器官の一部は投げ捨てられさえする(胎児被膜,臍帯;胎盤).

 特別の器官の第2群は発生の途中で機能の転換Funktionswechselがおこるものであって,すなわち転換器官Wechselorganeである.Wolff官は前腎および原腎の導管であるが,これが形を変えて精管になる.原腎細管の一部は精巣上体の成分に変えるのである

 第3群の器官はその原基が生じて,ある時期までは発生するが,そこで立ち止まって,それよりさらに進んだ段階にいたらない.いわゆる痕跡的器官rudimentare Organeである(精巣垂,精巣上体垂).多くの痕跡的器官は胎児の時代のみにある(尾の原基,顔面およびたい糸における感覚毛Spürhaareの原基,人の胎児の下腹部にみられる袋の原基).Bromas (Anat. Anz., 72. Bd.,1931)はこれらを痕跡的な胎児期官rudimentäre Embryonalorganeとよんだ.以前に痕跡的な器官とされていた数多くのものが,その後の研究によって,はなはだ重要なものであることが分かり,一部は生命に欠くべからざるものとさえなったのである(虫垂,脳下垂体).

 それゆえ成長した人間の体はその発生のあいだに原基のできたすべての器官をもっているのでなく,それよりも器官の数は少ないのである.それが原にもなっているものは,一部は転換器官であり,その他のものが(これがやはり大部分であるが)転換もしない完全器官Vollorganeである.痕跡的器官のも高い形態学上の意味がある.その機能はいかにつまらないものであるにしても,痕跡的器官が存在するときは,それは一定の動物系を指し示しているのであって,その動物ではこの器官が発達した状態にあり,また相当した機能もっているのである.

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 Wiedersheim, R., Der Bau der Menschen als Zeugnis für seine Vergangenheit. IV. Aufl., Tübingen,1908.-Maurer, F., Über Restorgane . . . beim Menschen. Jen. Z., 58. Bd.,1921.

 いろいろの諸器官は,それがどんな種類であっても,体の中で何かのぐあいに盲めっぽうに混ぜ合わしてるのでなくて,その配置と分布にはきちんとした規則正しい計画がある.人間ではこの計画はすべての脊椎動物,そしてまずもって哺乳類にあてはまる規則に従っている.すなわち脊椎動物型であり,哺乳動物型である.他の動物界にはまた違った型がある.もっともどの場合にも移行型はるのだが.

 正中面は哺乳類の体を対称的な両半分に分ける.正中面のすぐ近くに,あるいは正中面に切られて不対称の器官がある.しかしこの付帯焦性の器官はやはり対称的な両半部からできているというのが規則である(脊椎,脊髄,腸,肝臓,心臓).また一部は正中面のすぐ近く一部はそれよりも外側に対をなす器官が存在する(筋肉,肋骨,肺,腎臓).

 なおまた,正中面の左右でだけ諸器官の区分がめだつのでなくて,頭尾(すなわち上下)の方向,とりも治さず正中面にそってもそれがめだっている.左と右にあってたがいに相当する諸器官は対側分節Antimeren, Gegenstückeをなす.縦軸の方向にならんでいる諸器官は縦軸分節Metameren, Folgestückeである.この各分節は多少の差はあれたがいに似ていること,多少ともたがいに分離していること,あるいは初めから分離していないことがある(脊柱,分節的な筋肉,両側の生殖腺,皮膚).

 生物体を全体としてみると,個体の生活作用をあらわすために身体の各部分が調和して共同に働いているのであって,それは機能を営んでいるすべての諸器官がその本性,その大きさ,その仕組みに関して,互いの間で密接な関係を持っていることになるのである.その仕事を完全に遂行している器官の1つが何かのぐあいで変更させられたなあば,必ず他の器官に反応を起こし,ひいては全身にも影響を生ずるのである.

 人間の諸器官は人類という範囲の中でもたがいにある程度は違っている.個体的の変異ははなはだ大きいものであって,同一の人の体の左右両半の間にも絶対的な対称性は決してないのである.2人の人間の間で諸器官をくらべて全く同じということは遙かにいっそう少ない.

 諸器官の個体的にちがう程度は予期以上に大きいものである.それになお,年齢の段階,性,人種,血糖が支配する諸器官の変動をあわせて考えると,差異の尺度はいっそう大きいものとなる.

 器官の異常として最も重要なものは,動物での正常な状態と一致を示すものである.そういう異常は動物類似形Theromorphienとよばれて,すべての器官系統にみられる.

 身体の器官系統を分けて並列的な2都濃郡にすることができる.その1群は個体の保存にあずかるものである,他は種族の保存にあずかるものである.後者は生殖器Organa genitalis, Genitalien, Geschlechsorganeとよばれる.

全体として9つの器官系統がある.すなわち:

1. 骨格系(骨と関節)

2. 筋系

3. 消化器系

4. 呼吸系      内臓系

5. 尿生殖系

6. 脈管系

7. 神経系

8. 感覚器

9. 皮膚(全身にわたって被うもの,あるいは外皮)

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2.身体の諸系統の重量表Gewichtstabellen der Körpersysteme

 重量の点では各々の器官系統ははなはだ違ったぐあいに身体の構成にあずかっている.それがどれくらい違っているかは次の表を見ると分かる.すべての系統の中で筋肉が主さでは第1位を占め,それにすぐつづくのが骨格系である.

研究者

Liebig

Liebig

Bischoff

Bischoff

Bischoff

男I

男II

男I

男II

年齢

およそ35才

およそ35才

33才

16才

22才

大きさ(直立長)

1.68m

1.51m

1.59m

体重

55.749kg

76.511kg

69.668kg

35.547kg

55.400kg

骨格

11.464kg

13.941kg

11.080kg

8.436kg

8.390kg

筋肉

23.062kg

32.193kg

29.102kg

15.722kg

19.846kg

皮膚

3.516kg

4.234kg

4.850kg

4.023kg

3.175kg

脂肪組織

6.159kg

11.028kg

12.510kg

15.670kg

内臓と神経と感覚器

8.616kg

10.034kg

7.006kg

6.763kg

胃と腸の内容物

0.175kg

0.872kg

7.365kg

1.107kg

尿

0.146kg

血液

0.4112kg

0.815kg

3.418kg

消失分および発散分

0.336kg

0.984kg

0.624kg

0.349kg

 身体の各部について骨と筋肉の重さが2人の研究者によって特にしらべられた.次の表がその結果を示している:

Liebig

Liebig

Bischoff

Bischoff

Bischoff

男I

男II

男I

男II

体幹

6.220kg

7.317kg

5.255kg

3.990kg

筋肉

6.130kg

9.728kg

7.978kg

4.141kg

右上肢

0.708kg

0.876kg

0.964kg

0.600kg

筋肉

1.733kg

2.324kg

2.992kg

1.445kg

左上肢

0.669kg

0.786kg

0.909kg

0.600kg

筋肉

1.621kg

2.095kg

2.682kg

1.484kg

右下肢

1.933kg

2.510kg

1.850kg

1.600kg

筋肉

6.789kg

9.165kg

7.732kg

4.453kg

左下肢

1.933kg

2.451kg

1.972kg

1.600kg

筋肉

6.789kg

8.882kg

7.719kg

4.199kg

 102才の女の前骨格を晒したものがわずか.185kgの重さであった.Waldever, W., Sitzber. Akad. Wiss. Berlin 1910.

 終わりに新生児2体についてBischoffが量った重さの関係をここに付け加えておく.

新生児(男性)

新生児(女性)

体重

2.300kg

2.969kg

骨格

0.426kg

0.467kg

筋肉

0.550kg

0.701kg

皮膚

0.480kg

0.337kg

脂肪組織と結合組織

0.406kg

神経系と感覚器

0.500kg

0.388kg

内臓

0.422kg

0.495kg

血液および消失分

0.123kg

0.175kg

 成長した人体の全重量を1000とすると,つぎのような割合になる(Bischoff):

運動器(骨格と筋肉)

724.5‰

全身の被い

88.0‰

消化器

57.7‰

呼吸器

9.4‰

泌尿器

9.0‰

生殖器

2.0‰

循環器

74.1‰

身体を構成する2つの重要な成分の内で骨格系が全重量の1/51/7を占め,筋肉が2/5を少なくこえるのである.

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最終更新日10/08/31

 

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