Rauber Kopsch Band1. 19

β)自由下肢の骨Ossa extremitatis pelvinae liberae

1. 大腿骨Os femoris = Femur, Schenkelbein(図305, 313315, 367)

 大腿骨はからだ中で最も長い骨で,ほかの管状骨と同様に2つの骨端と1つの骨幹がある.後者は体ともよばれる.

 上部には頭と頚がある.大腿骨頭Caput femorisは円くて,上方がいくらか平らになった球の全表面のおよそ2/3に相当する関節面をもっている.

 この関節面の中央より少し下方に1つの円つこいへこみがある.これは大腿骨頭窩Fovea capitis femorisとよばれ,大腿骨頭靱帯Lig.capitis femorisが付くところである.大腿骨頭ははなはだ長い大腿骨頚Collum femoris, Halsによって体についているので,関節頭が側方に向く傾向は,上腕骨におけるよりもいっそう著明である.また頚は垂直径よりも矢状径の方が小さい.つまり高さが大きいことを特徴とし,とくに体との結合部でそうである.これら2つのことは力学的に大きい意味をもっている.頚をこえた所,すなわち体の上端部は多数の筋が付着するために複雑な形をしている.まず目をひくのは大転子・小転子Trochanter major, minorとよばれる2つの強大なテコで,両者は後面で転子間稜Crista intertrochantericaという強い隆起によってつながりあっている.大転子の外側面は凸面をなし,内側面は短くて転子窩Fossa trochantericaというくぼみがある.前面には斜めに下内側方へ走る転子間線Linea intertrochantericaがみられる.この線は小転子の下方で体の後面に達し,そこからさらに伸びている.体の後面には小転子の外側に臀筋粗面Tuberositas glutaeaがある.この粗面がかなり強いたかまりにまで発達して,多くの哺乳動物に常在する3転子Trochanter tertiusをなしていることが少くない.

 大小の転子のあたりの下方につづくCorpus femorisの部分は前方に凸の軽い弯曲を示し,下にゆくほど著しく幅を増して,ついに脛側および腓側顆Condylus tibialis, fibularisという両関節結節に移行する.

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[図313315]右の大腿骨(2/5) 図313は後方から,図314は前方から,図315は内後方から.

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 体には3面があって,その1つは前に2つは側方にむいている.3稜のうち前方の2稜は非常にまるくなっているが,後方の1稜だけは大腿骨稜Crista femorisという突出して粗な隆線をなしている.大腿骨稜には2つの唇が認められ,内側唇および腓側唇Labium tibiale, fibulareとよばれる.腓側唇は臀筋粗面のつづきで,下方へ伸びて外側上顆にいたる.また内側唇は転子間線のつづきをなして脛側上顆に達する.恥骨筋線Linea pectineaという第3の短い隆線が小転子から骨幹に沿って少しの距離だけ下方へ伸びている.両唇のあいだは下方で開いてきて,そこにはさまれた面には膝窩平面Planum popliteumという名がついている.この平面の下の限界をなすものは両顆の上縁と,両顆のあいだを結ぶ横線すなわち顆間線Linea intercondylicaとである.臀筋粗面の下方には上向きの著しい栄養孔Foramen nutriciumが1つある.

 両顆は後面で顆間窩Fossa intercondylicaという深いきれこみによってたがいにへだてられている.腓側顆は内側顆より幅がひろく,前方へいっそう強く突出している.内側顆は腓側顆よりも上下径が大きい.

 しかし大腿骨の正常な向きにおいて,両顆はどちらも同じだけ下方へ突出している.両顆の下面を被って単一の大きい関節面がひろがっているが,その下面にはなお数個の部分を区別することができる.すなわち前部は1つの縦溝をもって,ここに膝蓋骨が接して滑るための面をなし,膝蓋面Facies patellarisとよばれる.膝蓋面の上方にあるくぼんだ部分は軟骨に被われない.膝蓋面は脛側および腓側顆膝蓋線Linea condylopatellaris tibialis, fibularis(図305)という2つの隆起線によって,側方の両関節面から区分されている.この両関節面はたがいに形が異る.

 これらの関節面の上方には,両顆の側面にそれぞれ突出部があり,脛側および尺側上顆Epicondylus tibialis, fibularisとよばれる.

 腓側顆の外側面には斜め前下方へ走る溝があって,膝窩溝Sulcuspopliteusとよばれる.この溝が外側面の稜に合するところで,この稜に屈筋[性]膝窩切痕Incisura poplitea flexoriaという浅い切れこみができている(図305),またもう1つのいっそう深い切れこみが外側上顆の外側稜にあって,伸筋[性]膝窩切痕Incisura poplitea extensoriaとよばれる.

 では大腿骨の頚と体のなす角度は男より小さく,またいっそう直角に近い.逆に言えば男ではこの骨の頚は女のよりも上向きについているのである.同時に女では骨盤の幅が男より広いから,直立姿勢において両側の大腿骨が下にゆくほど近よる程度は女の方が強く,しかもまた女の下肢は男のより短いから,この傾向はいっそう著しいものとなる.

 大腿骨もまた一上腕骨と同様に(205頁参照)一その長軸を中心にしてねじれているがその程度は上腕骨よりはるかにひくい.頚の軸と両顆の軸とがなすねじれの角度Torsions-Winkelは成人では25°であり(日本人で15~20. 前後である.(小川鼎三)),この角度は新生児ではもっと大きい(Nauck, Z. orth. Chir., 55. Bd. .,1931).

2. 膝蓋骨Patella, Kniescheibe(図318, 319)

 膝蓋骨は大腿四頭筋の腱の中にある平たい三角形の骨で,その尖端はApex patellaeとよばれて下方に向いている.前面は粗であるが,後面は軟骨で被われた1つの関節面Facies articularisをなしている.関節面は上下に走る1本の稜によって大小不同の2部分にわかれており,多くの場合外側の部分の方が大きい.上縁はBasis patellaeという.

3. 脛骨Tibia, Schienbein(図316, 317, 320322, 368)

 二つの下腿骨Ossa crurisのうち,脛骨は内側にあって丈夫な方の骨である大腿と足の骨格との結合を介しているのはもっぱらこの骨である.

 上部は広くて厚いが,やはり横径の方が大きい.上部は腓側顆・内側顆Condylus fibularis, tibialisという2つの結節によってできており,両者は後面で1つの浅いへこみによって分けられている.

S. 229

[図316, 317]右の脛骨と腓骨(5/12)図316は前から,図317は後から

 上面は大腿骨を支える.ここには矢状方向に伸びる1つの粗面が近位関節面Facies articulares proximalesという2つの関節面を分けている.この粗なしきりの面は中央のすぐうしろで顆間隆起Eminentia intercondylicaという高まりをつくっており,その前後はへこんで前顆間窩・後顆間窩Fossa intercondylica anterior, posteriorとよばれるそれぞれ1つのくぼみをなしている.類間隆起の頂には脛側顆間結節・腓側顆間結節Tuberculum intercondylicum tibiale, fibulareという2つの鈍い突出がある.

S. 230

[図318, 319]右の膝蓋骨(3/4) 図318は後面, 図319は前面

[図320]右の脛骨の上面(3/4) 半月と膝交叉靱帯の付着面

[図321]右の脛骨(5/12) 外側面

[図322]右の脛骨と腓骨の下端の関節面(3/4)

S. 231

[図323, 324]右の距骨(3/4) 図323は近位面, 図324は遠位面

[図325, 326]右の踵骨(3/4) 図325は脛側面, 図326は近位面

[図327]右の踵骨(3/4) 腓側面

S. 232

 この部分には上に述べた個所のほかに,なお6つの領域が多少ともはっきり認められ,それぞれ膝交叉靱帯および半月の起始部や停止部をなしている(図320).

 腓側顆の後部はひさしのように伸びだしていて,腓骨の小頭と結合するための小さい卵円形の関節面をもっている.これを腓骨関節面Facies articularis fibularisという,腓側顆の縁には腸脛靱帯粗面Tuberositas tractus iliotibialisという1つの強い結節が突出している.

 脛骨の骨幹は脛骨体Corpustibiaeとよばれ,下の方ほど細くなっていて,3面と3稜をもっている.前稜Crista anteriorはS字状にまがっていて3稜中もっとも鋭い.前稜の上端は脛骨粗面Tuberositas tibiaeというザラザラした高まりをもって始つている.外側稜は骨間稜Cristain terosseaとよばれ,骨間膜の付着部をなしている.内側の脛側稜Margo tibialisはかどが鈍い.

  内側の脛側面Faciesti bialisはまるくなっていて,皮膚の直下にある.外側の腓側面Facies fibularisには,上の方に縦に走る1本の長い溝があり,この溝は下の方で前面に移る.後面Facies posteriorの上部には下内側方に伸びるデコボコした線があり,これを膝窩筋線Linea popliteaという. 膝窩筋線の下方に1つの大きい栄養孔Foramennutriciumが骨の奥へ通じている.

 下骨端は上骨端より細くて,またその矢状径より横径の方が長くなっており,その内側面に脛骨踝Malleolus tibiaeという下方につきでた太い突起をもっている.

 下骨端の下面には遠位関節面Facies articularisdistalisという四角形の関節面があり,矢状方向に凹の弯曲を示し,脛骨顆の外側面すなわち踝関節面Facies articularis malleoliにつづている.遠位関節面の後縁は前縁より短い.下骨端の外側面は軽くへこんで腓骨切痕をなしている.この切れこみは上部が粗で下部が平滑であって,腓骨の接するところである.

 腱の通る2,3の溝が下骨端の後面にある.その最もはっきりしているのは脛骨踝にあって,後脛骨筋と長指屈筋の腱のためのものであり,脛骨踝溝Sulcus malleoli tibiaeとよばれる.長母指屈筋の腱のための溝は外側にあって,はるかに弱い.

 脛骨は特有の形態変化を示すことがあって,そのときは体がサーベルの鞘のように平たくなって,後面が1つの稜をなしている.この変化は古代人の脛骨にも現代人の脛骨にもみられる現象で,扁平脛骨Platyknemie(platy:広い, knemie:下腿)という名がつけられている.

 脛骨頭の後傾Retroversion des Schienbeinkopfes.脛骨の上端部は成人では多少とも強く後方へまがっている.その関節面が水平面となす角度はGrunewald(Z. orth. Chir., 35. Bd.,1916)によればヨーロッパ人の成人で平均5.6°であるが,時には24°にもなることがある.(日本人で男12°, 女14°(鈴木文太郎),16°(椎野)である.)-Nauck(Z. orth., Chir., 55. Bd.,1931)は胎生期中には後傾が高度であることを明かにした(13.5°から39°にまで).しかし生後4ヵ月内に,すなわち子供が歩くことを習いはじめる前に,それが急速にたちなおる(Retzius, Z. Morph. Anthrop., 2. Bd.,1900).-後傾は1つの原始的状態であるという.これに対して,まっすぐに伸びた脛骨は進歩した系統発生的段階のものと考えられた.しかしNauckが研究して得た事実は,むしろ力学的な説明の方が正しいことを語つている.すなわち狭い子宮のなかで胎児が膝関節を強くまげていなければなちないことが,脛骨の後傾の原因と考えられるのである.

S. 232

4. 腓骨Fibula, Wadenbein (図316, 317, 322, 369)

 腓骨(ギリシャ語ではPeroneという)は下腿の後外側にあって,ほとんど脛骨と同じ長さであるが,それよりずっと細い.その骨幹は弯曲しており,凸側がうしろに向き,下半分ではいくらか内側に向っている.上端は腓骨小頭Capitulum fibulaeとよばれ,腓骨小頭尖Apex capituli fibulaeという尖端をもっている.腓骨小頭尖の下方に小頭関節面Facies articularis capituliという1つの小さな卵円形の関節面があって,脛骨の腓側顆との結合面をなしている.下端は腓骨踝Malleolus fibulaeとよばれ,小頭より幅も長さも大きく,脛骨踝より下方まで突出している.その内側面には距骨と接する三角形の関節面があって踝関節面Facies articularis malleoliとよばれる.

S. 233

 腓骨踝の後面には腓骨筋の腱が通るための腓骨踝溝Sulcus malleoli fibulaeという溝がついており,また腓骨踝窩Fossa malleoli fibulaeという1つの深いくぼみがある.

 骨幹すなわち腓骨体Corpus fibulaeには4つの稜があり,前稜Cristaanterior,外側稜Crista fibularis,内側稜Crista tibialis,骨間稜Crista interosseaとよばれる.はじめの3稜によって腓側面・後面・脛側面Facies fibularis, posterior, tibialisの3面が区切られる.骨間稜は脛側面を対角線的に貫いており,上方では前稜の近くにあるが,下の方ほど前稜から遠ざかつている.腓骨の栄養孔Foramennutriciumは後面の中ほどにある.

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最終更新日 13/02/03

 

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