Rauber Kopsch Band2. 02

B.内臓学各論spezielle Splanchnologie

広義の腸系統gastro-pulmonales System

 広義の腸系統は消化器系Verdauungssystemと呼吸器系Atmungssystemとに分けられる.

I. 消化器系Systema digestorium, Verdauungssystem

A. 消化器系の初まりの部

I. 口腔とその諸器官Cavum oris, Mundhöhleとその諸器官

1. 口唇と頬Labia oris et Buccae, Lippen und Backen(図811).

 消化管の入口は上下1対の口唇という内部に筋肉をもった皮膚のひだによって囲まれている.これを上唇Labium maxillare, Oberlippe,および下唇Labium mandibulare, Unterlippeといい,その間のすきまは口裂Rima oris, Mundspalteである.上下の両唇が各側でたがいに合するところを唇交連Commissura labiorumといい,口角Angulus oris, Mundwinkelを境している.

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口唇の境界としては,上唇にとっては外鼻の底,また左右両側の皮膚の溝である鼻唇溝Sulcus nasolabialis,下唇にとっては軽く上方にまがって横走する溝であるオトガイ唇溝Sulcus mentolabialisが境をなしている(図11).

 鼻中隔からおこって上唇の中央部を下る1本の溝があって,両側の堤に境されている.この溝を人中Philtrum, Nasenrinneという.人中の下端で上唇は上唇結節Tuberculum labii maxillarisという1つの高まりをなしている.これに対応して下唇には1つのへこみがある.ここから口裂は対称的にS状のまがりをなして外側に向かってのびている.

 上下の口唇にそれぞれ外から内へ皮膚部,移行部,粘膜部の3部が区別される(図8).

 皮膚部は外皮の性質をみなもっていて,毛・脂腺・汗腺がある.

 移行部Übergangsteilには毛がない.しかし脂腺がある(すべての成人の50%において) (図9).上皮の下の結合組織層は数多くの丈の高い乳頭をなし,これが毛細血管網に富むので,口唇の赤い色がおこる.上皮層は重層扁平上皮であって,つよく発達して,その上よく透きとおる.

 粘膜部Schleimhautteilは多数の粘液腺すなわち口唇腺Glandulae labialesをもつことが著しい.これは形の上から胞状管状腺であり,微細構造からは混合腺すなわち粘液性と漿液性の両方の終末部がまじってできている腺である.その多数ある導管は細くて粘膜部の表面に開口するが,それにつづく腺体はかなり大きくて粘膜と筋肉の間にあり,しばしば筋束のあいだにもはいりこんでいる.この腺は口唇の中央部および側方部では数も大きさも滅ずる.そして唇交連のところになると欠けている.

[図6]消化管の模型的概観(1/5.5)

S. 9

[図7]腺の終末部と導管の微細構造についての模型的概観

[図8]口唇,概観,35才の男の上唇横断(2/3)

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[図9]赤唇縁Lippenrotの独立脂腺30才の男.(L. Stieda 1902)

[図10]新産児の口唇(絨毛をもっている)×2.7 (Malka Ramm, Anat. Hefte, 29. Bd.,1905. )

[図11]成人の口(2/3)

 それゆえ赤唇縁roter Lippensaumは移行部とそれに接する粘膜部の一部からできている.口唇の粘膜が顎骨の上に移ってゆくときに上下それぞれ1つの正中部のひだをなしている.これを上および下唇小帯Frenulum labii maxillaris et mandibularisという.

 口唇内の輪状および放射状に走る筋肉についてはすでに第1巻403頁に記してある.そのほかなお多数の神経や血管が口唇には存在する.

 神経は眼窩下神経,オトガイ神経,頬神経,なおしばしばまた大耳介神経がくる.

 口唇のリンパ管は皮下のものと粘膜下のものとある.そして上唇からのリンパ管は顎下リンパ節と浅頚リンパ節にいたり,これらの領域リンパ節に下唇の粘膜下からのリンパ管が達するが,下唇の皮下のものはオトガイ下リンパ節にゆく.

 新生児では移行部の幅がはなはだ狭くて,口を閉じたときに粘膜部の前縁がめだって外からみえる.そののち次第に移行部の幅が増すのである.

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 粘膜部の前縁のところが成人で過度に発達しているときには2重唇Doppellippeと通称される見苦しい状態がおこる.その場合には正常の移行部のうしろに大きい粘膜の高まりがみえるのである.

 出産にま近い胎児や新生児の粘膜部は数多くの絨毛Zottenをもっている.この絨毛は結合組織性の中軸とその表てを被う重層扁平上皮とからなっている.生後第4週の初めからその退縮がはじまる.

 移行部の脂腺はLiepmannによると(Dissertation, Königsberg 1900)成人の50%にみられる.それも男の方が女よりもいっそうしばしばこれを示す,(63%:40.1%).移行部の脂腺は思春期に初めてあらわれるのであって,新生児には欠けている.(兼重孜(解剖誌4巻4号51頁,1931)によると,日本人成人の48%(男56%,女40%)において移行部に脂腺が存在する.この頻度はヨーロッパ人のそれと大差ないが,日本人では小児期にすでに7%以上の頻度を示すことを特徴とする.)

 動物界では口唇はただ哺乳動物のみがもっている.

しかも単孔類と鯨類(鯨類にも口唇はある.(小川鼎三))にはこれが欠けている.人間でも時として口唇が全く発達しないことがある.

[図12]よく発達した正常の歯列 成人,左側からみる(9/10)

 上唇と下唇はそれぞれ左右両半が合することによってできる.しかも上唇の左右各半は3つの部分すなわち胎児の中鼻突起と外側鼻突起ならびに上顎突起のいずれも下部が合して生ずるのである(図13).その個々の部分の融合が充分におこらないときには,いろいろな形の口唇や顎や顔面の破裂があらわれる.

Michio Inouye((井上通夫),もと東京大学教授) Anat. Hefte, 45. Bd.,1912.--Peter, K., Vierteljahresschrift für Zahnheilkunde 1922.

 Bucca, Backeは皮膚層,筋層,粘膜層からなっている.

 その皮膚は男では須毛の多数がここに生えている.顔面における頬の境は頬骨弓,外耳,下顎の下縁がそれである.

 頬の粘膜には上顎の第2大臼歯の歯冠の高さに当たって各側1つの低い乳頭状の高まりがあって頬唾液乳頭Papilla salivaria buccalisとよばれる.ここに耳下腺の導管が開くのであって,その開口の場所がこの高まりで明瞭に示されている.また頬粘膜の後部には各側1つの上下の方向に走るひだがあって,これが軟口蓋と頬との境となっており,翼突下顎ヒダPlica pterygomandibularlsといわれる.口を開いたときはこのひだが容易にみられるし,また手などで触れてその存在を知ることができる(図80).

S.12

 丈夫な粘膜下の結合組織が糊莫を頬筋M. bucinatoriusの内面に付着させている.ここに少数の頬腺Glandulae buccalesとよばれる粘液腺が存在して,その腺体の一部は頬筋の外面にあらわれている.頬粘膜の後部では粘液腺の数がやや多くなり,ここでは臼後腺Glandulae retromolares, Mahlzahndrüsenとよばれる.これらの腺は口唇腺と同じように漿液性と粘液性の両部分をもった混合腺である.

 頬粘膜において脂腺はKrakow(Dissertation, Königsberg 1901)によればすべての個体の30%に存在し,しかも男では40%,女では20%である.これは口唇の脂腺と同じく思春期以後に初めてでぎる.

 顕微鏡でみると,口唇および頬の粘膜は3層からできている.1. 上皮Epithelは典型的な重層扁平上皮である.2. 固有層Lamina propriaは弾性線維の網を混じた固い結合組織の束からなっていて,多数の乳頭をもっている.すでに述べたごとく乳頭は口唇でははなはだ丈が高い.3. 粘膜下組織Submucosaは特別な境界がなく固有層につづいていて,丈犬な結合組織束と比較的に量の少ない弾性線維とよりなっている.上皮には多数の上皮内神経線維がある.

 頬の皮下脂肪組織のなかに1個あるいは2個以上の小さい頬リンパ小節 Lymphonoduli buccalesがある.まれにこのものが頬筋の外面あるいは内面にみいだされる.頬のリンパ管は顎下リンパ節と浅頚リンパ節にいたる.

[図13]顔面裂Gesichtsspatteの系統を示す模型

(Michio Inouye, Anat. Hefte. 45. Bd.1912)a-b口唇と上顎骨の裂け目Lippenkieferspalte;a-c-d およびa-b+c-d斜めの顔面裂schrdge Gesichtsspalteの2型.

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最終更新日 13/02/04

 

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