Rauber Kopsch Band2. 17

B.腎盂と尿管Pelvis renalis et Ureter, Nierenbecken und Harnleiter

 腎乳頭は管状の膜性の袋,すなわち腎杯Calices renales, Nierenkelcheによって包まれている.腎杯は乳頭の底部にくここにいている.腎杯はただ1個の乳頭を包んでいるのが普通であるが,しばしば2個の乳頭,ときには3個の乳頭が1つの腎杯で包まれている.

 腎杯は腎盂Pelvis renalis(Pyelum), Nierenbeckenに開口し,腎盂は尿管Ureter, Harnleiterに移行している(図240, 263, 264, 265).

 腎盂の形はさまざまであって,短い腎杯をもった広い袋のようなこともあるし,多少とも長い中間部をもった管状の形をしていることもある(図263, 264).

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[図262]男の骨盤内臓 骨盤の右半分を残し左から剖出したもの(2/3).

 すべての腎杯が直接に腎盂に開いているのではない.しばしば2つないしそれ以上の腎杯が合して共通の中間部Zwischenstück(以前には大腎杯Calix majorといわれた)を作り,これが腎杯を腎盂につないでいる.

 腎盂の大きさ;最大幅の平均は1.5~2.0cmで長さは幅よりいくぶん大きいのが普通である(図240).

 変異:しばしば中間部が2つあり,またときには上,中,下の3つの中間部がある.ときおり中間部が形成されないで腎杯が直接に腎盂に移行している.そのほか中間部が別れたままになっていて,2本の尿管が出ている例がある(約1 1/2%).

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この2本の尿管は遅かれ早かれいっしょになって膀胱に開口するが,ときには別々に開口していることがある.あるいは1本が膀胱に開口し,もう1本は膀胱よりも下方で開口している.膀胱に開口する2本の尿管のうち,下方に開口するも,のが上方の腎杯から出ている.きわめてまれであるが1側に3本の尿管が存在していた.

 尿管は前後の方向にいくぶん平らな形の管で,その直径は4~7mmである.

 尿管は小骨盤の入口に向かって下方かつ内側に走り,小骨盤のなかで前方かつ内側に曲がって膀胱底の側面にいたる(図166).したがって腹腔部Pars abdominalisと骨盤部Pars pelvinaを区別する.尿管はその経過の全体にわたって腹膜の直下を走り,疎性結合組織によって隣接器官に固着している.

[図263]短い中間部をもった広い袋状の腎盂(9/10)

[図264]長い中間部をもった管状の腎盂(9/10)

  尿管の長さははなはだまちまちであって,左右の長さも違うのが普通である.男の尿管の長さは右が290mm,左が303mmであり,女は右が282mm,左が292mmである.--大骨盤と小骨盤の境では屈曲が見られる.(日本人の尿管の長さは平均して男では右29.8cm,左30.6cm,女では右28. 9cm,左30.1cmである(喜多, 日本外科宝函7巻).)

 局所解剖:尿管は腰筋膜の上にのっていて,腰筋の中央部の下方において精巣動静脈が尿管の前を外側に走ってこれと交叉している.

 右の尿管は下大静脈に密接している.もっと下方では尿管は太い総腸骨動静脈の分岐部の上を越える.そのさい右の尿管は回腸の末端部の後方にあり,左のそれはS状結腸の後方にある.小骨盤のなかでは腹膜に被われて膀動脈索の上を越えて膀胱の側方にすすみ,膀胱に密接して前下内側に走って膀胱底にいたる(図265, 270).

 Waldeyerによると右の尿管は左にくらべて正中線からややいっそう離れている.したがって一般に右の尿管は比較的下方で腸骨動脈と交叉している.このことから右の尿管は外腸骨動脈の前にあることがいっそう多く,左のは総腸骨動脈の前にあることが多い.また総腸骨動静脈の分岐部の相異によってこの位置関係が変化する.

 男では精管が尿管と膀胱のあいだを内側かつ下方にすすんでいる.女では尿管は膀胱底に達するまでに子宮頚と腔円蓋の側面の近くを通る.子宮動脈は尿管の上を横走して子宮頚にいたる.左右の尿管は膀胱底のところでたがいに4~5cmへだたってその壁を斜めに内側かつ下前方に貫いている.その場合, ほぼ2cmの長さだけ壁のなかを通る.尿管の開口部は尿管口Orificium ureteris(図267)といい,せまい隙間状の裂け目である.男ではいつも前立腺の後上縁からほぼ3cm離れたところにある.

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 まれに膀胱の1側に2本の尿管が別々に開口していることがあるが,その場合には開口部はたがいに密接している.

 微細構造腎杯,腎盂,尿管は3層からできている.すなわち外方に結合組織性の疎な外膜Tunica externaがあって,乳頭縁で腎洞の結合組織に続いている.内方にはよく発達した粘膜Tunica mucosaがあり,その一部が乳頭に移行している.この2つのあいだに筋層Tunica muscularisがある.筋層は平滑筋の束からできていて,この束は豊富な結合組織によってたがいに分けられている.筋束はこれまで切片標本での所見(図259)から信じられていたような各層に分れでいるものではなくて,格子状に配列しており,わりあい小さい傾斜角をなして空間のあらゆる方向にすすむものが組みあっている.腎杯の出口には特別な括約筋は存在しない(Steigleder, Beitr. Chirurg., Bd.178,1949).

 粘膜はひろがっていない尿管では縦走する小さなしわがあり,横断面では内腔が星状を呈している(図259).粘膜は細胞に富む結合組織からなり,はっきりした境なく粘膜下組織に移っている.上皮は移行上皮Übergangsepithel(第1巻図49, 50)である.腎盂と尿管の上部とには離ればなれに小さな管状の粘液腺がある(Egliによると腎盂には1qcmあたり1個ないし2個ある).

 腎盂の動脈は腎動脈から直接にくるものと腎動脈の枝からくるものとがある.

 尿管の動脈は付近の動脈からくる.精巣動脈も1本の小枝を送っている.リンパ管はきわめて豊富である.神経は腎神経叢と精巣神経叢および腸骨神経叢から来ている.神経は外膜のなかで基礎神経叢を作り,そこから個々の線維が筋層と粘膜にすすみ,また粘膜では細い神経が上皮まで来ている.

 Eggeling, H. von, Anat. Anz., 20. Bd.,1901--Heiss, R., Z. Anat. u. Elltw., 67. Bd.,1923--Kneise-Schober, Röntgenuntersuchung der Harnorgalle. G. Thieme, Leipzig 1941.

[図265]右の腎盂と尿管 レントゲン写真,いわゆる腎盂像.

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最終更新日 13/02/03

 

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