Band1.179   

δ)下顎骨Mandibula, Unterkiefer (図254260, 272, 273, 274)

下顎骨は顔面頭蓋の骨のうちで最も厚くて頑丈な骨で,他の頭蓋の部分とは2の関節で可動性に結合している.下顎体Corpus mandibulae, Körper des Unterkiefersはその面が抛物線状にに弯曲した板の形をしており,その後端部は鈍角をなして上方へまかっている.こ

の部分を左右それそれ下顎枝Ramus mandibulae, Unterkieferastという.

 下顎体には前の方,オトガイのところに三角形の1領域がみとめられる.これがオトガイ三角Trigonum mentaleで,その底辺は体の下縁に一致し,両底角は多少とも強く突出して,左右のオトガイ結節Tuberculum mentaleを成している.またこの三角形の頂点から正中線上を1つの隆起が次第に低くなりながら下方へ伸びている.これがオトガイ隆起Protuberantia mentalisで,もと分離していた下顎骨の左右両半の融合部に当っている.

 下顎骨の下部は以前に下顎底Basis mandibulaeとよばれたところで,斜めに後上方へ,軽くS状に弯曲する線をえがいている.下顎底は前方の部分が下顎枝の部分より厚い.歯をもっている上方の部分は歯槽部Pars alveolaris,その自由縁は歯槽縁Margo alveolarisと名づけられている.歯槽部には14~16本の歯が各歯槽内に固定されている.

 体の外面には歯槽隆起Juga alveolariaがある.第1ないし第2の小臼歯の下方で,中ほどの高さのところに,下顎管Canalis mandibulaeが著明な孔をもって側方へ開いている.これがオトガイ孔Foramen mentaleで,左右各側に1つのことが多く,同名の神経と血管の出口をなしている.下顎管は下顎骨のほとんど全体を貫通しているかなり太い管である.体の下縁の中央から1本の滑かな隆起線がはじまって,斜めに後上方へのび下顎枝の筋突起に続く.これが斜線Linea obliquaである.

 体の内面には前の方で,正中線のわきに,下縁に密接して,左右1つずつの浅いくぼみがある.これは二腹筋窩Fossa m. biventerisとよばれ,顎二腹筋の前膜が起るところである.その上には中央に下顎棘Spinae mandibulaeという4つの小結節が集りをなしている.そのうち上方にある大きい方の2つはオトガイ舌筋棘Spina m. genioglossi,下方にある小さい方の2つはオトガイ舌骨筋棘Spina m. geniohyoideiと呼ばれ,それぞれオトガイ舌筋とオトガイ舌骨筋の起始するところである.これらの小結節には,顎舌骨筋線Linea mylohyoideaが続いており,この線は斜めに上方へ走っている. この線のうしろには顎舌骨神経溝Sulcus mylohyoideusがあって,下顎孔Foramen mandibulaeからはじまって斜め下方へ走っている. この溝のうしろ下には内側翼突筋の付着する翼突筋粗面Tuberositas pterygoideaがあって,その大部分が下顎技の領域内にある.

 下顎枝Ramus mandibulae,Unterkieferastは体よりもうすくて,体とのあいだが多少の差はあるが,鈍角をなしており,2面・2稜・2突起を有している.下顎枝は上へゆくにつれて,(矢状面上での)幅を増すと同時に厚さを減じる.体の下縁が下顎枝の後縁に移行するところは下顎角Angulus mandibulae,Kieferwinkelとよばれる.

 下顎枝の後縁は,うしろから見て明瞭なS字形の弯曲を示し,いったん細くなってから急に幅を増して下顎骨の関節突起Processus articularisの後面に移行する.それと逆に下顎枝の前縁は上行するほど薄くとがった縁になり筋突起Processus muscularis, Muskelfortsatzとして終る.この突起はその名前のごとく純粋に筋付着のためのもので,側頭筋がここで起始する.下顎枝の外面には下顎角のところに咬筋粗面Tuberositates massetericaeというザラザラした面がある.内面の翼突筋粗画Tuberositas pterygoideaについてはすでに述べたが,この面にはまた著明な下顎孔Forarnen mandibulaeがあって,その上方には前方から下顎小舌Lingula mandibulaeがつき出している.下顎孔は下顎管Canalis mandibulaeの入口である.下顎管はオトガイ孔を越えて正中部にまでつづき,多数の細い副管を歯槽部と歯根に送り出している.下顎小舌には蝶[骨下]顎靱帯Lig. sphenomandibulareが付着する.

 筋突起の上縁は凸の曲線をなしているが,横の方向に強くおしつけられた形である.この突起は関節突起とのあいだを下顎切痕lncisura mandibulaeでへだてられている.

S.179    

最終更新日13/02/03

 

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